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コールドコマンド(2)

「初陣といえど下馬評は最高クラスを得ているチームです!」

 リングアナが盛り上げる。

「それというのも、『ギャザリングフォース』のメンバーは公務官(オフィサーズ)学校(スクール)軍務科実技トップランカーが揃い踏みという恐るべき布陣。誰がこんなチームが生まれると予想したでしょうか」


 ウィーゲンたちチームメンバーが照明の下に姿を現すと周囲を埋める観客がどよめく。灰色に塗られたアームドスキンのボディは威圧感を放っていることだろう。


「そして、なんと彼らの乗機は管理局兵器廠が新たに投入するクロスファイト仕様機『ヘヴィーファング』であります」

 ざわめきはいや増すばかり。

「今後レンタル機としても展開する予定のアームドスキンの初お目見え。どんな性能を発揮するのでしょうか。乞うご期待。注目の一戦となります!」


 続いて彼らの選手名も発表となるが、そこはさほどの盛り上がりはない。学内でどれだけ評価を受けていようと所詮は学内だけのこと。名前が売れているわけではないので当然だ。


(観客の目に焼き付けてみせよう。我らの名前が忘れられなくなるほどに)

 ウィーゲンは意気込む。

(ただ、我らがコマンダーの名前が呼ばれないのは理不尽だ。慣例がそうなっていても、指揮官あっての戦闘力だというのが素人の観客にはわからないか)


 不満は残る。いずれ勝利を重ねたときに改めて彼女を讃えるべきだと広言すればいい。当面は我慢することとする。


「対するは、今回は抽選から漏れてしまったものの、(エース)までもう一息という力を見せるノービス2でも屈指のチーム……」


 対戦相手が北側のゲートから入場をはじめる。勝利者サイドだと教わっている。そちらに退出するのはウィーゲンたちになるのは目に見えている。今だけ誇っているがいいと見据えた。


(こういうものなのか?)


 相手チームのリーダーがなにかがなり立てているものの、彼らの耳には入ってこない。メンバーはすでに戦闘モードに入っている。日々、淡々と訓練していたのと同じく、黙々と任務をこなすのみである。


「無視か! 小僧どもが、生意気な!」

「そう言わないでくださる? 初陣で緊張しているのだと大人の余裕で許してくださらないかしら?」

 メリルがオープン回線で応答してしまう。

「お前は誰だ?」

「ギャザリングフォースのコマンダーよ。元はオッチーノ・アバランにいたのだけれど」

「な、あの狂犬エレインのとこだと?」

 有名な話らしい。

「ええ、アルバイト気分はやめて、少し本気で勝ちにいこうと思ってチームを編成してみたわ。お相手よろしくお願いいたしますわね?」

「そ、そうか」


 相手リーダーの声に怯えの色が混じる。メリルが少なからず評価を得ていたと知って多少は溜飲が下がった。


「これは意外な展開!」

 登録しているのだから当然知っているはずのリングアナが白々しく吠える。

「あのツインブレイカーズと死闘を演じた謎のコマンダーが帰ってきたぁー! チーム『ギャザリングフォース』、別の意味でも注目だぁー!」


 俄然湧き立つアリーナ席。なにか因縁を感じさせる台詞にウィーゲンは調査の必要性を感じてきた。


(まずは目の前の一勝から)

 責務と自らに説く。


 操機に関して絶対の自信はない。初めて乗った機体である。さらには、普段用いている訓練場とは違う環境。まるで都市戦を想定したかのような障害物だらけの状況には不慣れであるのも事実なのだ。


「パイロットスキルだけで乗り切るのは無理があるな」

「なんだ、もう弱音か、ウィーゲンよ」

 ガヒートがからかってくる。

「黙れ。貴様はこの環境でもいつもどおりの実力が発揮できると思っているか?」

「オレは選手登録するつもりで頭ん中でシミュレーションしてたからな。今になって怖気づいたりしないぜ」

「誰が怖気づいている。私は本来のパフォーマンスができないのが許せんだけだ。彼女の指揮に応えられねばここにいる意味などない」

 その一点に尽きる。

「安心なさい。全てはわたしが把握してるわ。前もって渡しておいたナビスフィアの読み方だけマスターできていれば問題なしよ」

「それは大丈夫です、メリル」

「ちょっとめんどいけど頭に叩き込んできた」


 彼女から事前に求められたのは独自の指示方法だけ。ナビスフィアで投影される進行方向と攻撃目標だけ彼らが読み取れれば、無駄な時間を要するそれぞれへの口頭指示は不要になるはずであった。


「あなたの作戦には絶対の信頼を置いています。我らに実行するだけの力量があるかどうかの問題です」

 曇りなき言葉で伝える。

「よろしくね。あなたたちならできると思ったから選んだのだもの」

「お応えしてみせますわ」

「さあ、始まるわ。準備はOK?」


 皆が応じる。訓練どおり一瞬にして集中力を高めた。


「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」

 試合開始が号令される。


 と同時に、ナビスフィアは側方を指した。矢印は大きく伸びて速度も要求してくる。反重力端子(グラビノッツ)を効かせて機体を軽くし、一気に林立する障害物の中へと走り込んだ。


(ここからどうなる? 当面は相対位置くらいしか見えていないが)


 ウィーゲンは内なる不安を拭いきれていなかった。

次回『コールドコマンド(3)』 「さあ、なぜかしら?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 戦略まで目が届くのは少数かな? それとも、戦略解説もしてくれる?
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