正義の国の主人公(3)
「もっとマシな収め方あったみてえな口振りじゃねえか?」
ミュッセルは怒りより呆れを感じている。
「どうしろってんだ? 怪物に『住むとこなくなる人がいるから別の場所で暴れてくれ』ってお願いすりゃよかったのかよ」
「そんなことは言ってない」
「別の方法考えろとかそういうことじゃん。頭ん中、花畑か」
彼もグレオヌスも星間保安機構が封じ込めに腐心していたのに従い、あの区画より被害を拡大させない方向で戦っていた。戦闘区域を移そうとすれば避難も必要になる。最悪、逃げ遅れもでる可能性が高い以上、避難が済んでいる一角に留めるべきと判断したのだ。
「馬鹿にするのも大概に……」
「方法あんなら具体的に言ってみろ。ないなら文句たれてんじゃねえ」
「省みなければ悲劇をくり返すだけだ」
自分の思い描く結果と異なるから認めたくないだけなのだろう。キャナンの中の正義と合致しないかぎり批判的な態度は変えないつもりとみえる。
「馬鹿馬鹿しい。遠くから吠えるだけの弱虫になに言われたって効かねえぜ」
どうでもよくなってきた。
「ぼくにはチームメイトの戦闘をサポートする義務がある。だからここにいる」
「度胸がねえ言い訳をすんな」
「ここだって危険なんだ。君があの必殺技を使えば届くんだろうからな」
失いかけた興味が引き戻される。
「必殺技?」
「遠くを攻撃する技だ」
「蓮華槍か」
なにを指しているのか気づく。ヴァラージとの戦闘は終始中継されていたので目にしていても不思議ではない。
「使うわけねえじゃん」
一言のもとに切って捨てる。
「ありゃ飛び道具だ。格闘士タイプの域を超えてる。ブレードグリップ投げるようなもんだ」
「使わないのか?」
「クロスファイトじゃ禁じ手にしてるに決まってんだろ」
リングで使うつもりは一切ない。
「また、そうやって相手を見下して。そこまで強さを誇示したいのか」
「てめぇ、なに勘違いしてんだ? ここは強いやつが偉い場所だろうが」
「違う。リングは正々堂々と互いに競い合う神聖な場所だ」
自分の理想こそが正しいと主張する。
(どこにでも湧いて出やがんな、綺麗事しかぬかせねえやつってのは)
うんざりする。
ここしばらくは、そういう意見にさらされてきた。二人を称える声の一方、出しゃばって事態を複雑にしたという批判も散見された。
「んじゃ、その正々堂々とやらでぶつかってこいよ。勝てたらちったぁ耳を貸してやってもいい」
「無論だ」
ここまで言っても自ら動こうとはしない。チームリンクで指示出しして前衛に攻撃させる。自身は守られた場所で狙撃に徹していた。
「そこから引きずりだしてやんねえと聞く耳持たねえんだな」
「作戦だと何度言えば理解する?」
「崩してやんぜ」
よくまとまったタクティカルなチームなのは認める。実際に会話しつつもグレオヌスの出足は確実に止めてきていた。ミュッセルは手控えしていたとはいえ簡単なことではない。その配置が功を奏して彼らをAクラスにしたのだろう。
しかし、成功しているわけではない。相棒は本気ではないからだ。キャナンが批判を始めた時点で攻撃を抑え気味にしている。どう言い負かす気なのか待っているのだ。
「でかい口を悔いやがれ」
「なにをする気だ!」
「ここからが本番だっつってんだ」
横薙ぎの斬撃を右腕甲のブレードスキンで受ける。本命ではなく、ひるがえった剣閃が肩口に落ちてきた。それも左のブレードスキンで逸らし踏み込むもすかされる。
代わりにブラインドでのビームが襲ってくる。腕の一振りで弾き、横からの突きも上体を逸らして躱した。手首を打って泳がせると膝蹴りで吹き飛ばす。
(巧妙っちゃそうなんだがワンパターンなんだよ。普段からこういう訓練ばっかしてやがんのか?)
剣士が攻撃しつつもブラインドを作る。移動した砲撃手がタイミングを合わせて狙撃する。それのくり返しだった。
連携の妙といえばそれまで。タイミングが合わないことはなくとも切れ味もない。受ける側としては単調に感じる。そんな感想を抱いた。
(自分たちが研究される側に立つイメージがねえのか? 要は練れてねえ)
グレオヌスも剣士の攻撃をいなしつつ着実に前進している。それは徐々にプレッシャーとなって相手チームの肩に重くのしかかっていく。動きに焦りが含まれるようになってきた。
「どうした? このままじゃ詰めちまうぜ」
リーダー機への距離は縮まっていく一方。
「同じこと。近づけば避けられていたビームも避けられなくなる」
「試してみろよ」
「言われるまでもない」
今やキャナンの狙撃は瞬時に到達してくる。なのに状況は変わらない。確実に弾いて接近していくのみ。
「なんでだ! なんで通用しない!」
「つまんねえ攻撃だからだよ」
そのままの感想だった。事実、退ける剣士にも芯を通した一撃を一発も入れていない。ノックダウンを奪う気がないからである。キャナンの鎧を剥ぎ取って思い知らせないと気が済まない。
(こいつ、自分がどんだけお粗末なことしてんのかわかってねえ。こういうタイプは普通に負けただけじゃ気づきもしねえし)
ミュッセルは相手を射程圏内に捉えつつあった。
次回『正義の国の主人公(4)』 「強さを誇示するためにリングを汚すんじゃない!」