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正義の国の主人公(2)

「はっ、称賛? 英雄? くだらねえ」

 ミュッセルはオネストロードリーダーの突きつけた言葉を唾棄する。

「そんな高尚な信念なんて持ち合わせてねえぜ」

「ならばなぜ管理局本部に協力を申しでた?」

「俺は目の前にいる敵をぶっ倒す。困ってる誰かを助ける。それだけだ。強いやつが一番に敵の前に立つ。強者の義務で、群れの理屈だろうが」


 いたってシンプルに考えている。その先にあるものなど余録でしかない。裏事情を暴露しないくらいの分別もある。


「そんな動物じみた子供の理屈で」

「人間だからだろ? 動物の代表格の」

 考えるまでもない。

「妬ましいなら頼んでみろよ。『局長様、ぼくも正義の主人公にしてください』ってな。断られるぜ。てめぇみてえに吠えるだけの弱っちいやつは」

「侮辱もいい加減にしろ!」

「んじゃ、証明すりゃいい。俺より強えことをな!」


 差しだした指で招く。挑発は効果てきめんだった。絶句して憤怒の表情を見せる。


「激突必至ぃー! これは開幕から熱い試合になりそうだー! ゴングが待ち遠しいぞ、ジャッジ!」


 煽りに合わせて試合が開始される。視線で合図するとグレオヌスは肩をすくめる。いきなりは動かず、受けて立つスタンスを取った。


「君は敵を作る天才だな」

「ぬかせ。噛みついてくるほうが悪ぃ」


 二機のフィックノスがブレードを手に仕掛けてくるが直線的ではない。空いた射線で後衛(バック)がビーム攻撃をしてくる。しかも、彼らの攻略法としてセオリー化しつつある足元狙い。舞う土くれで視界が霞む。


「捌けよ」

「わかってるさ」


 相棒くらいになれば言うまでもない。意図が明白な攻撃は次撃のタイミングさえ読んでみせる。見えていなかろうが、来るとわかっている斬撃は容易に弾いた。


(でけえこと言うだけはあるってか? 仲間に指示出してんな)


 わざと機体の位置をずらして待った。予測だけなら空振りするはず。ところが土煙を割って迫る剣閃は正確にヴァン・ブレイズを狙っている。

 遠間から彼の動きを見据えていたということ。確認するまでもなく、後ろ上空には索敵ドローンが張り付いているだろう。


「ま、決め手になるほどの鋭さには欠けてっけどな」


 平凡なブレードアクションだ。警戒するまでもなく叩き返す。相手は反動に驚いたようにステップバックしている。


「屁理屈は多いが当たりは弱えな。それでよく(エース)やってんぜ」

「うちはそんなんじゃない。乱暴なだけのあんたと違って洗練された戦闘をするの」


 ブラインドを外した前衛(トップ)越しに狙撃が来る。見えていたミュッセルはブレードスキンを展開した腕の一振りで弾き飛ばした。

 剣士(フェンサー)を落とすべく追撃する。狙撃が来るが、正確さゆえに読みやすい。タイミングも位置もテキストどおりという攻撃である。


(普通なら効果的かもな。常識だけに対処も反射的になる。リフレクタのノックバック狙いなんだろうがよ)


 ヴァン・ブレイズではそうはいかない。両腕のブレードスキンで弾きながら前に出る。防御法と足腰の強さでのゴリ押しは意表を突くに足る。


「へぇ」

「大口じゃないってわかった? あんたたちの手口なんて研究済み」


 ヴァン・ブレイズの突出を見越した回避をしてくる。しかも足元に穴がうがってあるという罠付きでだ。


「即席じゃねえにしてもよくやる」

「キャナンの目は本物。うちのチームの最大の武器なんだから」

「妙なもんに酔ってなけりゃな」


 そこら中、穴だらけにしているわけではない。それをやると自分たちの足も引っ張ることになる。ヴァン・ブレイズの動きを見て狙撃位置が決められているのだ。


「勝てば勝つほど強くなっていくの。ツインブレイカーズみたいに悪目立ちして研究し尽くされて弱体化していくチームとは違う」

「ぬかしやがる。目から潰してやろうか?」


 抜いていこうとすると猛攻が始まる。ブレードの描く円弧を上半身だけで避け、足を払おうとすればステップバックしていた。


(俺の仕掛けより先に動きだしたな? 戦気眼(せんきがん)ってわけじゃねえとすると予備動作を読まれたか。確かに観察眼だけは馬鹿にできねえかもな)


 姿勢が低くなって回避動作に遅れが出そうなところで連射が浴びせられる。バク転で避けるとヒートゲージいっぱいと思われる横殴りのビーム。疾走して回避し、転進しようとしたところへ先ほどの剣士(フェンサー)が割り込んできた。


「ずいぶんと過保護じゃん」

「当然。一番の要のキャナンを守らないとチーム戦略が崩れるわ」

「そうかよ!」


 上段からの斬撃を躱さず踏み込む。左腕のブレードスキンの表面で刃筋を滑らせ、紫電を撒き散らしながら前進。右手の掌底を忍ばせて烈波(れっぱ)に繋げようと目論見る。しかし、敵剣士(フェンサー)は無理せずサイドステップして空かしてきた。


「お前なぁ」

 一度立ち止まる。

「でけえ口叩いといて、自分は女に守られてそんなとこでぬくぬくと指揮官気取りか? 英雄志願が聞いて呆れんぞ」

「適材適所だ。これが賢い戦術というもの。ゴリ押しするしか能のない喧嘩屋にはわかるまい」

「わかりたくもねえ」

「君たちがそういう戦い方しかできないから被災地区は完膚なきまでに破壊されたんじゃないのか。反省もなしか?」


 揚げ足取りばかりのキャナンにミュッセルは辟易してきていた。

次回『正義の国の主人公(3)』 「リングは正々堂々と互いに競い合う神聖な場所だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 正義の見方を自認(自称)するのは、ねぇ?
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