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正義の国の主人公(1)

「それではデビアカップ一回戦第三試合を行います」

 リングにアナウンスされる。

「皆様、お待たせしました。あのチームがいよいよ復活の狼煙を上げます。登場するはチーム『ツインブレイカーズ』! しかも、なんと新型アームドスキンまで引っ提げてのお目見えです!」


 ミュッセルがヴァン・ブレイズを歩ませて(サウス)サイドゲートをくぐると一瞬静まったアリーナが爆音とともに息を吹き返す。ほとんどの観客が予想だにしていなかったらしい。


「この首都タレスを救った赤い英雄が姿を変えて降臨しました! その名は『ヴァン・ブレイズ』! 操るはもちろんこの人、ミュッセル・ブーゲンベルク選手!」

 メジャートーナメントもかくやという盛り上がりを見せる。

「破壊の化身が今度は炎の化身となりリングを燃やし尽くします! そして『天使の仮面を持つ悪魔』にして『紅の破壊者』は新たな出発でどんな戦いを見せてくれるのか! 乞うご期待のカードとなりました!」

「煽るなら俺の二つ名も変えろよ」

「そこは大事な部分なので変えられません!」

「拒否すんのかよ! どこのどの部分が大事なのか一分にまとめて説明しやがれ!」


 ひねったツッコミを入れて笑いを取ったところでようやくアリーナも落ち着きを見せてくる。グレオヌスの面持ちが平板になってしまったので引いておく。


「続くはもう一人の英雄! 誰一人として命を失わなかったのは『狼頭の貴公子』のお陰です!」

 リングアナは活き活きと声を張る。

「『ブレードの牙持つウルフガイ』が首都防衛の要として働いてくれました! こちらもまだ目に新しい新型アームドスキン『レギ・ソウル』での登場! グレオヌス・アーフ選手です!」


 再び轟音が湧き起こるが、相棒のほうが一段トーンが高い。女性人気は彼が上である。柔らかい物腰が受けているのだろう。今も歓声に応えて手を挙げると謝意を礼にして表している。


「クロスファイト運営はルールに従い苦しい決断をしなくてはなりませんでしたが、それも彼らが復活を成し遂げてくれると信じていたからです。そして二人は奇跡の復活を遂げ、我らに元気な姿を見せてくれました! 皆様、拍手を!」


(こんな景色が見れんのも命削るような戦いを生き残れたからだな。悪くねえ)

 温かい拍手を一身に浴びる。


 これまでは色物で悪役(ヒール)という立ち位置であったが、これからは変わるのだろうか。望んでいるわけではないが、変化があったならばあったでファンサービスのやり取りもアレンジが必要かもしれないと思う。


「対するはチーム『オネストロード』が(ノース)サイドより登場です」

 抽選で勝利者サイドが当たった相手が現れる。

「リーダーはこの人、『鷹の目』キャナン・ハーヴィー選手! 今回も驚くべき空間認識力でメンバーを勝利に導けるのかー!」


 相手の紹介が始まる。アームドスキンは『フィックノス』。確かここもレッチモン社の数あるカスタマーチームの一つであるはずだった。


「彼らはどんな相手だい?」

 グレオヌスは下調べが得意なほうではない。

「あんま記憶にねえんだよな。ま、(エース)クラスとなると結構いるし、実力もバラ付きあっからよ。こつこつポイント稼いで地味に上がってきた連中と急に出てきたポッと出じゃ中身が違う」

「うちもポッと出の(エース)だから言えた義理じゃないけどさ」

AA(ダブルエース)くらいになると特色出てくるし実力も折り紙付き。名前もちっとは売れてくるから噂も耳に入ってくるんだがな」


 メジャートーナメントで入賞するのも難しい、マッチゲームを頻繁に組んでもらえるほど人気がないではAA(ダブルエース)のシーズン昇格ポイントを稼ぐのも一苦労である。実力がなければノービスで低迷し、実力があっても特筆するほどでなければ(エース)でまごつくことになる。


「聞きたまえ!」

 口上を突きつけてくるつもりらしい。

「お? 一丁前に挑戦状叩きつけてくる気かよ。面白えじゃん」

「それだ。そういう態度が気に入らない。英雄と称えられたいのならば態度を改めるべき。そうでなければ相応しくないと断りを入れるがいい」

「抜かすじゃねえか、ああ? 誰が称えろっつったよ。勝手に騒いでるだけだろうが。乗っかって俺にレッテルを貼ろうとすんじゃねえ。ぶっ飛ばされてえのか?」

 アリーナに映しだされているコクピット内の顔がしかめられる。

「品性に欠ける言動や行動を改める気がないなら、すぐさまリングを去りたまえ。そうすれば一時の栄光にすがっていられる」

「おいおい、てめぇ、何様だ? 俺にケチつけられるほど偉いのかよ」

「違う。君に正しき道を説いているのだ。それが『オネストロード』を名乗る我らの義務だと思っている」


 なにを言いはじめたのかわからなかった。最初は場を盛りあげるために対立を演じようとしているのかと思う。しかし、どうやら本気らしい。説教されているのだ。


「謙虚さが足りない。もっと慎みがなければ民衆の支持は得られない。正義の側にいたいのなら相応の姿勢が必要だ」

「誰が正義を気取ってるって?」

「そうなのだろう? 民間治安協力官にまでなって民衆を守ろうと志すのならば」


 ミュッセルは相手チームのリーダーが大きな勘違いをしていると理解した。

次回『正義の国の主人公(2)』 「そんな動物じみた子供の理屈で」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 あぁ、認識のズレが……。
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