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イーブンゲーム(2)

 横っ飛びでビームを躱したヴァン・ブレイズが着地と同時にピタリと止まる。すぐさま踏み込んできた足も大地を噛み攻撃態勢に入った。驚くべきグリップ力である。

 放たれた拳が寸止めされる。返す拳も同じく止まる。そのまま振り抜かれたとして当たらない位置にビビアンのホライズンは避けているが防戦一方で砲口を挟む隙もない。


「サリ、ミンもエントリ」

 コマンダー卓に着いているエナミが指示する。

「ラジャ」

「はいな」

「無理なく援護するくらいで」


 指揮官の顔になっている少女にラヴィアーナは目を奪われる。本調子に戻りつつあるのは間違いない。フラワーダンスは立て直しできそうで嬉しくなった。


「やってくれんじゃねえか」

「物足りないじゃないかってエナの気遣いよ。感謝しなさい」


 赤いアームドスキンは機体を振ってビームを躱す。まるで足が大地に接着されているかのようだ。足首から上が自在に動いて、どの位置からの攻撃も捉えることができない。

 やむを得ず突っ込んだビビアン機が目の前でビームランチャーを突きつけても大きく仰け反って避けた。しかも足が跳ねてきて砲身を蹴りあげられる。


「ヤバっ!」

「逃げ!」

「このっ!」


 バク転から攻撃に転じようとするヴァン・ブレイズの足元をビームが払う。せっかくの新訓練場を乱さないように気遣いしていたのに加減できなくなった。足場を崩さないとミュッセルを止めるのも難しいと判断したのだ。


「まだ」

「終わんねえぞ」


 爆発する土埃から真紅が飛びだしてくる。砲口が光を放ったときには掴まれ持ちあげられている。右の拳は軽く鳩尾に添えられていた。本気なら一撃ノックダウンの位置だ。


「マズ!」

「逃げー」


 即座に逃げに掛かるもサリエリ機もレイミン機も捕まって取り押さえられる。追走速度も見違えるほどだった。


「比較は?」

「ヴァンダラムの20から30%増しです。たぶんミュウは本気じゃないです」


 機動力の向上は駆動性能によるものと思われる。重力波(グラビティ)フィンは展開していないし、反重力端子(グラビノッツ)を強く効かせている挙動ではなかった。


(リミッタ無しで駆動限界時間かなにかの設定?)

 駆動機への負荷を無視した機動である。

(そんな現実的でない処理をするわけがない。素人ならともかく、ミュウ君は駆動機特性にも精通している。同じエンジニアとして絶対に選ばない選択肢ですもの)


 もし、そんな無謀な決断をするのならば「エンジニア」の冠に「マッド」を付けなくてはならない。彼はホライズンの特性を一目で見抜くほどの生粋の技術屋である。


「じゃあ、お待たせの二人は僕が相手しよう」

 レギ・ソウルが歩みでてユーリィ機とウルジー機を手招きする。

「お手柔らかにするに」

「当てていい?」

「当てられるなら」


 加減できないと主張するウルジーに許しを出して手合わせが始まる。他の機体はスタッフ用のシールドルーム付近まで戻ってきて降着姿勢に。我先にと入ってきたビビアンたちはアイスストレージのドリンクにむしゃぶりつく。


「なんだよ。あの程度で情けねえ」

「短時間でも下手な試合より集中してんの! 喉カラカラ」


 余裕綽々の少年に噛みついている。いつもの光景が戻ってきた。


「どうだ?」

 ミュッセルはコマンダー卓の横に背を預ける。

「切れてんだろ? これくらい動けば少々のことじゃやられることはねえぜ」

「お祖母様がミュウまで出動させるときは少々ですまないときだもの」

「心配性だな。どんだけすげえ機体を用意すりゃいいんだっての」

 笑い飛ばしつつ頭に手を置く。

「あんなことはそうそうはねえ。あってもどうにかできるよう準備してる。局長だってメルケーシンのために心痛めてんだ」

「わかってる」

「だろ? 頭いいお前なら理解してるはずじゃん」


 乙女の不安を拭うことはできまい。理屈の問題でなく心の問題なのだから。理解しろというのは戦いに赴くものの理屈である。


「邪魔しない。ミュウが困るから」

「不安がらせないようにする。女に泣かれるのが一番堪えるんだよ」

「だったら……」


 少女はそのあとの言葉を飲み込んだ。それこそが困らせる台詞だからだ。初々しいやり取りに大人が口を挟むのは野暮だろう。


「しかし、まだ硬えな。俺の目が贅沢になってきてんのか」

 ユーリィたちの戦いぶりを見ながら言う。

「ホライズンの駆動系は今の構造の限界近くを引きだしています。これ以上を望むなら抜本的な改良が必要ですわね。現状、ジェルシリンダの性能は頭打ちだと思いますけど」

「だろうなぁ」

「リーク情報ですが、管理局の兵器廠で新型駆動機の開発が進められているとのこと。一部メーカーも技術協力していると聞き及んでいますけど、あなたも一役買っていらっしゃるのでは?」

 そう思わねば説明できない動きをしていた。

「知らねえな。とぼけてんじゃねえぜ。一つも噛んでねえ」

「そうですか」

「うーん」


 ミュッセルは視線を外している。向けられた先にはメイド服のエンジニアが控えていた。


「どう思う?」

「こちらサイドでは導入を進めるつもりです。一般向けの窓口をどこにするかは特に定めておりませんが、ヘーゲルならば不都合は起こりませんでしょう」

「絡みがあるっつー話だもんな」


 意味不明の相談話にラヴィアーナの頭には疑問符しか浮かばなかった。

次回『イーブンゲーム(3)』 「幅5mmの実用ピースです」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 機体性能を100%使えるなら相当の腕前! (または性能が低いか)
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