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リクモン流(1)

(サウス)サイドからは『狼頭の貴公子』グレオヌス・アーフ選手の入場です!」

 アリーナから拍手の雨が降ってくる。

「乗機はレギ・クロウ! 本日はどのような妙技を見せてくれるのでしょうか! 皆様ご期待ください!」


 グレオヌスが灰色のアームドスキンをセンタースペースへと歩ませていると黄色い声援も降ってきた。三回戦にしてファンが付いてくれた模様。しかも若い女性の声というのは喜んでいいのか微妙なところ。


(僕の操縦は玄人ウケしないのだろうか?)

 目下の悩みの種である。


 ミュッセルにも女性ファンは付いているが男性ファンも多い。賭けで勝たせてもらっているのと別に、彼の実力を認めている部分もある。半分は面白がっている節もあるが。


(色々含めて人気ってものなんだろうな。僕の場合は賞金稼ぎたいとか目立ちたいじゃなく、ちゃんとした場でミュウと戦ってみたいのが今の本音でしかないから)

 実現したら次はどうするか。本当になにも考えてなかった。


 そうしているうちに相手選手の入場も終わる。今日は気を引き締めていかないといけないのに、別のことに気を取られていた。深く息を吐いて集中する。


「機体性能だけで行けるのはここまでですよ? 私にとっては高性能機を相手に取れるのはありがたいことですけどね」

「それは、あなたならレギ・クロウのスペックを最大限に引き出せるという意味ですか?」

 そう受け取る。

「もちろん。ありがたく頂戴します、どこから現れたのか知れない素晴らしいアームドスキンの性能を」

「それはありがたいことです。僕も今の実力でこの機体がどこまで動いてくれるものか確かめたことがありません」

「減らず口を」


 本心からの言葉だったのだが最後に相手選手は険悪な口調になった。理解できず、彼は狼頭をかしげる。


(戦場以外で戦ってる人の気持ちってわかりにくいな)

 当たり障りのない会話さえできないのかと自分が情けなくなる。


「リングの過熱度(ボルテージ)は上がる一方だ!」

 リングアナが乗ってくる。

「では、金華杯オープントーナメント三回戦第四試合を開始します! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 相手機のパルススラスターが連発音を立てる。対してレギ・クロウは半透明の虫の翅のような機構を発生させた。重力子(グラビトン)を発生させて反重力端子(グラビノッツ)だけで機動する推進機関、重力波(グラビティ)フィンだ。


「どこから送り込まれてるんだか。まさかアゼルナ製か?」

「違いますけど」


(もしかして、これの所為で高性能機扱いされてるのかも)

 父の故郷の惑星(ほし)は今やアームドスキンの一大生産地になっているがレギ・クロウは違う。


 星間管理局直轄のアームドスキンには軒並み重力波(グラビティ)フィンが搭載されている。船舶艦艇にも行き渡りつつある技術なのだ。

 ただし民間となると、まだまだ普及していない。専門メーカーでも重力波フィンの制御を安定させられているところは少ないそうだ。


「どこまでも馬鹿に!」

「いえ、事実を……」


 飛び込んできた敵機が跳ねあげてくる剣閃にブレードを合わせて擦りあげる。紫電が派手に散って両機を照らした。アリーナから歓声がドッと湧く。


(こんな感じでいいなら)


 力場盾(リフレクタ)で受けるのも可能。しかし、敢えてそれをやらず剣筋を添わせる。技術的には難しいことをやると観客のウケは非常にいい。


(いざってときの練習にはなるけどさ)


 本当はリフレクタで受けて切り替えしたほうが早い。そうすれば、おそらく今の一合で決まっていた。相手の実力も読めている。


「なかなか!」


 二合、三合とブレードをぶつけ合う。半ば浮遊状態で、動きながらの衝突はオープンスペースの各所で火花を散らした。グレオヌスは見切ったところで地を蹴り、大振りな一撃を放つ。


「ここだ!」


 相手選手は吠えると同時に、仕返しとばかりに彼の剣を擦り落としに来た。ところがグレオヌスは途中で手首を返して切っ先を跳ねさせる。つんのめった敵機が無様に後頭部をさらしていた。

 そのままストンと落として頭部を刎ねる。実際には無事なままだが、コクピットではモニタが切れているだろう。余裕をもって背後にまわり、素早い一閃で斜めに斬り裂いた。


「あーっと、ここで撃墜(ノック)判定(ダウン)だぁー!」

 ゴングが打ち鳴らされた。

「なんとグレオヌス選手、AA(ダブルエース)ホルダーも撃破ぁー! こんな番狂わせが起きるとは金華杯開始時には誰も思わなかったことでしょう!」


 ゲームシステムで動作制限を受けてひざまずいている敵機。ハッチが開いてヘルメットを脱ぐパイロット。彼は前髪を掻きあげて爽やかに言う。


「素晴らしい試合だった。君の実力も認めようではないか」

「それはどうも」


(何回やっても負ける気しないんだけど)

 おくびにも出さずに一礼して、観客の声援に手を上げて応えた。


「ちったあ手応えあったか? ありゃ契約パイロット、プロなんだぜ?」

 勝者として(ノース)サイドに引き上げるとミュッセルが待っている。

「うーん……」

「物足りねえだろ? 交代だ。そこで見てろ。満足させてやる」


 入れ替わりに入場待機するヴァリアントの背中をグレオヌスは見つめていた。

次回『リクモン流(2)』 「先帰っといてくれ。今日は道場に顔出しとくからよ」

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