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イーブンゲーム(1)

 怖ろしく静かに立ちあがる真紅のアームドスキン。まるで狭いベッドから誰かが降りてきたかのようだ。リフトトレーラーの軋みがかろうじて重さを感じさせる。


「すさまじいですわね」

「彼らには驚かされっぱなしです」


 ここはヘーゲルの実機訓練場。ようやく整備されたスペースが確保された。これで走ったり飛んだりする訓練も可能。防御フィールドも完備されているので射撃も練習できる。


「問題ねえな?」

「もちろんさ」


 レギ・ソウルも立ちあがる。修理後に簡単な動作チェックはしてあるというが、まともな動作は初めてと聞く。あいかわらず惚れ惚れするほど滑らかな動作だ。


(さすがは『銀河の至宝』というべきでしょうか)

 ラヴィアーナは自信が揺らぎそうになる。

(全く別人の手によるものなに同等の動きをするアームドスキンが横にあるのが不思議でなりませんわ)


 フラワーダンスから打診があってツインブレイカーズにもこの新しい訓練場を開放している。ミュッセルが新型のテストをする場所を欲していたので頼まれたらしいのだ。


「誰かさんも気合い入れ直してやんねえといけねえしな」

「うるさいわよ。あたしたちはあたしたちで大丈夫なの」


 ビビアンは主張しているが、ここしばらくの落ち込み具合が嘘のように晴れ晴れとしている。やはりライバルの存在は彼女たちの大きな原動力となっている様子だった。


「みんな、搭乗。良い条件で訓練できるのを感謝するのよ」

 ビビアンが号令を掛ける。

「ありがとうございます、ヴィア主任」

「広々して気持ちいいのにゃー」

「満喫」


 ユーリィやウルジーの前衛(トップ)組は早々に手足を動かして準備運動を始める。サリエリやレイミンの後衛(バック)二人は見上げて防御フィールドの具合を確認していた。


「心配いらないですわよ。ビームが外に漏れることはありません。その代わり、このとおり開放型なので情報は漏れ放題ですけど」

 天気が良ければ航空機や人工衛星から丸見えである。

「普通の動作訓練はこちらで。特殊なフォーメーション訓練とかは実機シミュレーションに限定しますね」

「それでかまいませんわ。使いたいように使ってくださいな。我々スタッフも実機動作データが拾えて助かりますから」

「はーい」


 純白のホライズンが陽光を浴びて眩しい。機体格納庫(ハンガー)やリングのような人工光の下とは一味違う。アームドスキンを作っている実感が湧いてきた。


障害物(スティープル)もねえからお互い手の内さらさないですむからいいじゃん」

 足元を確かめながらミュッセルがいう。

「簡易なものを運び込む予定はありますよ。でもリングほどとはいきませんわ」

「程々くらいがいいんじゃね?」

「訓練というよりは、σ(シグマ)・ルーンの学習にこういうスペースが役立つのですよ」

 グレオヌスが示唆してくれる。

「なるほど。そういう考え方もありますのね?」

「学習が深まれば動作にも反映されます。データの質も向上するでしょう」

「ノーズウッド役員に感謝を捧げなくてはなりませんわ」


 十分な空間でのびのびと動く機体は見ていても気持ちがいい。青空の下とあれば格別であった。シールドを施した観測ルームの中に閉じ込められるのが煩わしいほど。


「んじゃ、そろそろ始めっぞ」

 独特のフォルムを持つ機体がかまえを取る。


(『ヴァン・ブレイズ』、これほどのアームドスキンをあんな町工場でどうやって作るのでしょう?)

 ラヴィアーナの視線は見守るメイド服の背中に集中する。

(優秀なんて言葉では語れない隔絶感があります。末恐ろしい才覚を持つ少年とともに理想を現実とする力。彼女はいったい)


 全く予想できなくはない。民間治安協力員という便宜が想起させる。ネストレル本局長の信頼まで勝ち得ているということは、マシュリ・フェトレルというエンジニアはゴート関係者か、それに準じる地位にある者だろう。


「来いよ。揉んでやんぜ」

「あたしから? いい根性じゃない」

「慣れてねえと侮ったら大間違いだ!」


 するすると接近するヴァン・ブレイズはワンステップで間合いを作ったビビアン機のビームを紙一重で躱す。行き過ぎそうなほどの加速を見せると、大地を食んだ足が驚異の粘りで静止した。左の拳が風斬り音を立てる。

 しかし、その頃にはホライズンも一蹴りでサイドステップ。ターンしながら膝のクッションで上半身を安定させる。砲口は一分の狂いもなく赤いボディを照準していた。


「もらい」

「食らうか」


 前飛び込みから手を支点に後ろ浴びせ蹴りを放つ。さらにサイドステップしたホライズンは足を滑らせながら姿勢をホールド。二射、三射と重ねていく。

 対してヴァン・ブレイズはさながら曲芸のように側転やバク転で射線を外す。遠景で見ていると、とても20mの巨体で行っているとは思えないアクションをくり返す。


(ヴァンダラムの流れをくむアームドスキンだけど、どこか決定的な違いがあるように見えますわ。まるで手足にバネが仕込んでるかのよう)

 人体そのものみたいな動きだ。

(こんなことをさせれば駆動機にとてつもない負荷が掛かるはず。それなのにリミッタを効かせているふうもないですわね。どうやっているのでしょうか?)


 超電導モーターは過熱してしまうしジェルシリンダにも耐久限界がある。折り合いをつけるのが難しい点だ。無制限にパワーアップしていい構造ではない。


 ラヴィアーナは目を皿のようにして観察していた。

次回『イーブンゲーム(2)』 「たぶんミュウは本気じゃないです」

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