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どこも敵だらけ

 ツインブレイカーズがデビアカップにエントリ、復活するニュースはクロスファイトファンにまたたく間に広がった。それは参加選手も知るところとなる。

 有名になりすぎた二人を打ち負かせば一気に有望選手の仲間入りだ。メジャートーナメントの流星杯に加われなかった新参や弱小チームは意気軒昂になる。


「ありがたいことに一回戦から相手はあのツインブレイカーズだ」

 チーム『オネストロード』もその一つ。

「かの二人を負かしてみせたら、次のメジャートーナメントは確実に斡旋をもらえる。ぼくたちに浮上のチャンスがやってきた」


 リーダーのキャナン・ハーヴィーはチームメイトに訴える。オネストロードは彼が勧誘して集まった選手で構成されている。皆、優秀なパイロットなのになかなかクラスも上がらなければ人気も出なくてくすぶっていた。


「ハスク、君のブレード捌きはあの狼頭の貴公子にも劣らない。頑張ればなにかが起こる。期待してる」

 前衛(トップ)の一人は面を輝かせる。

「リンダ、君も素晴らしい腕の持ち主だ。ハスクと組めば怖いものなしだろう」

「うん、頑張るよ」

「ルップ、君のガンアクションは他のショートレンジシューターとは一味違う。必ずやあの赤い悪魔に泡を吹かせてやれる」

 若い男は胸を叩く。

「そして、オットー。君の狙撃がチームメイト全員を救うはずだ。リングを格闘場かなにかと勘違いしている少年を踊らせてやってくれ」

「やってやるさ。キャナン、君の驚くべき視野があれば怖れるものはなにもない。どこに逃げようとツインブレイカーズなんて丸裸だろう?」

「ああ、任せてくれ。ぼくは戦闘力こそ低いが君たちが最大限の力を発揮できるようサポートするよ」


 チームメイトは彼の視野の広さと動体視力を褒め称える。さらに練習を重ねた索敵ドローン操作が功を奏せばリングのどこにいようと見つけられるつもりだった。


「勝利をもって我らの正しさを示そうじゃないか。あんな、ただの喧嘩屋をのさばらせてなるものか」

「おー!」


 意気の上がるチームメイトを見まわしてキャナンは心躍らせた。


   ◇      ◇      ◇


 時折り空き時間に気が向くと校舎の裏手で型の反復をすることがある。人目のあるとこは目立つので避けていた。

 この日も練習を終えたミュッセルが教室に戻ろうと小走りにグラウンドを横切ると背の高い女が待っていた。見知らぬ相手なので素通りしようとする。


「あら、無視する気?」

 明らかに自分に向けて声掛けしてきたので立ち止まる。

「誰か知らねえが、生身の女とは勝負しねえぞ」

「つれないわね。挑戦してきたのは君からじゃない」

「挑戦? 待てよ、この声。お前、あのコマンダーか」


 知らないはずだ。なにせ顔を拝んだこともない。勘違いでなければ彼女はチーム『オッチーノ・アバラン』のコマンダーをしていたはずである。

 解散の報は耳にしたが、その後のことは知る由もない。なんらかの形で復帰を促すようには言ったが、実際にどうするかなど彼女の自由である。


「なるほどな。そいつは悪かった」

「殊勝なこと。やっかみなんかで凹んでたりしてなさそうね」

「ああん? そんなんクソ食らえだ」

 女は吹きだす。


 緩くウェーブした色素の薄い金糸を長く伸ばし、ヘアバンドで止めている。秀でた額をこれ見よがしにさらして堂々とした立ち姿だ。茶色の瞳で見下ろしてくる。

 スタイルもよく、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいる。明らかに年上の雰囲気を漂わせていた。


「お前こそエレインの馬鹿に脅されて身を引いたんじゃねえかと思ってたぜ」

 不敵に見返す。

「脅す? あの暴れるしか能のない女が? あんなの怖くもなんともないわ。シャーシャー言ってる野良猫みたいなものよ。可愛らしいこと」

「言うじゃん」

「ほんとに怖ろしい人間ってのは普段は爪を隠しているものよ。そして、気がついたら喉首を掻き切ろうと後ろから触れてる。悲鳴をあげる暇もくれない」


 どんな経験をしてきたか知らないが、妙にリアルな声音だった。そういう存在を当たり前に身近にしていたかのような口振りだ。


「どちらかというと君のほうが近い。本物の恐怖を与えるものにね。一瞬でも目を離したら食いつかれるんじゃないかって感じがしなくもない」

「後ろの連中みたいにか?」


 揶揄すると物陰から男が三人、女が二人が現れる。警戒の視線は最初から感じていた。まるで大事なものを守る騎士の風情だ。


「先輩に失礼だぞ、ミュッセル・ブーゲンベルク」

 先頭の男が冷たい視線を送ってくる。

「軍務科の女神と呼ばれる天才参謀を前に礼を尽くしたまえ」

「有名人だったか。知らなくてすまねえな」

「大したことではないわ。軍務科の中だけのこと」


 咎めるつもりはなさそうだ。囲もうとする男子生徒を手で制している。


「今日は挨拶だけのつもり。名前だけでも憶えておきなさい」

 顔を覗き込んでくる。

「わたしはメリル・トキシモ。全知者の弟子と呼ばれた女よ」


(全知者? こいつ、あのファイヤーバードに関係してんのか? 指揮統率能力は確かに納得できるもんがあるぜ)


 聞き覚えのある二つ名にミュッセルは眉をひそめた。

次回『イーブンゲーム(1)』 「誰かさんも気合い入れ直してやんねえといけねえしな」

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― 新着の感想 ―
[一言] コマンダーの子! 学生さんだって言っていたので同じ学校だろうなとは思っていましたが…… ミュウくん、女性絡みの相関図が広がってきましたねぇ!
[一言] 更新有り難うございます。 さて、名前を覚える価値を示せるか?
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