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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
真紅の復活

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新しい赤

 ビビアンたちフラワーダンスメンバーがミュッセルに連れられてブーゲンベルクリペアに着くと、そこにはビームコートを施されてピカピカに輝くレギ・ソウルが立っている。もちろんセットで真紅のアームドスキンも基台に乗せられていた。


「ヴァンダラムじゃない」

 初めて口にしたのはウルジーだった。

「ほんとだ。これ……」

「もしかして新型?」

「冗談でしょ」


 驚くほど速いペースで建造された新型アームドスキンに驚かされる。ヴァンダラム投入から半年も経っていないのだ。


「試験運用していたのを完全実用化したからな。改造するよか、まるっと新しくしたほうが楽だ。金は掛かったがよ」

 赤髪の少年ははしゃぐ子供のようだ。

「『ヴァン・ブレイズ』。俺専用に開発していたアームドスキンの一応の完成形だ。こいつならやりたいことが全部できる」


 強化しているようには見えない。ヴァンダラムよりはむしろスリムになったと思える。それなのに威圧感は半端ではない。

 真紅に彩られたボディはほぼ人体に相似している。スペースを圧迫しがちな駆動部もスマートな印象。どちらかといえば節々の装甲強度が上げられている感じがする。


「厳ついデザインにして。子供なんだから」

「うるせ」


 比して頭部は刺々しい。ヴァンダラムのような露骨な頭部衝角(ヘッドラム)は取り付けられていないが額は張りだしている。頭突きする気満々らしい。

 その下に並ぶ並行三連カメラアイ。頸部から頭にいたるフレームで左右に分けられたセンサー系は強化されているようだった。その周りをアンテナロッドが彩っている。


「おかしい。特に腰周り。どんな駆動機積んでんのよ」

「気づいたか」

 サリエリが指摘する。


 現用アームドスキンは総じて大振りなヒップガードを有している。弾倉やブレードグリップの搭載に用いられているが、主に股関節のガードをするものだ。

 構造的に開脚用駆動シリンダが腰の外側、大腿部とを繋ぐ構造になっている。その要となる構造を保護するために装甲を強化しているのだ。


「ヒップガードか。要らねえ。蹴りの邪魔になんだよ」

「要る要らないの問題じゃないのに」


 肝心な繋ぎ目だけを保護するガードは取り付けられている。しかし、あるべき場所にシリンダがない。股関節の構造そのものが大胆に改変されている。


「これで十二分な出力が出るんだぜ。ヴァン・ブレイズならな」

「そう言うんならそうなんでしょ。わたしも出来合いの物を理解するくらいしかできないし」


 コンパクトかつパワフル。ミュッセルが普段からアームドスキンに必要な条件として口にしていること。それが詰め込まれていると思っていい。


「なあ、よく見ろって。この足のVサスペンショングリップなんて設計するのに苦労したんだぜ。負荷が掛かっても潰れない強度があって、なおかつスムースに働くように……」

 長広舌の気配がする。

「あー、はいはい。説明されてもわかんないから」

「なんだよ。Vシリーズの真骨頂なのによ」

「ヴァン・ブレイズ、(ブレイズ)ね。あんたらしい」

 少年の内面を示しているかのようだ。

「だろ? 俺は炎だ。真っ赤に燃える灼熱だ。燃え尽きるまで突っ走る。どんな相手が立ちはだかろうともな」

「安心した。まだまだやる気満々なのよね?」

「誰が満足してるなんて言ったよ」


 鼻をすする音がする。気づけばエナミが大粒の涙を流していた。迷ったまま、ふさぎ込んでいた彼女が堰を切ったように泣いている。


「よかった。全然変わってない」

「当ったり前ぇじゃん。どう変わるっつんだ」

「街が壊れちゃったのを気に病んだり、それを批判する一部の人の意見に腹を立てたりして投げやりになってないか心配だったの。お祖母様がさせたことでミュウが変節してしまったら、どう責任取ればいいかって」


 困ったように頭を掻くミュッセル。どうしたものかと迷った挙げ句に頭に手を置いて引き寄せた。エナミは肩に顔を伏せて泣きつづける。


(ほんとに好きなのね。だから自分の身内のことでミュウが思い悩まされるのに耐えられなかったんだわ)


 彼女が言っていたように批判的な意見がある。ただの民間人である少年を管理局本部が評価し擁護する態度に不審を抱くものだ。エナミこそが気に病んで精神的に調子を崩していたのである。


(これで復活できそう)

 ビビアンにも好材料だった。

(でも、ちょっとうらやましい。あたしもあんなふうに素直に甘えられたらな。きっと可愛いって思ってもらえるわよね)


 近いだけ素直になれない自分が疎ましい。エナミと横一線で勝負するには関係性が深すぎる。同じパイロットとして話せる部分があっても、それが恋愛に発展するとは思えない。むしろ友人として近しくなるだけ。


(やっぱりきっかけがいる。ミュウとの関係をひっくり返すようななにか。あたしを改めて見直すくらいのインパクトのある出来事がないと)


 対戦することで得ようとしたものが遠のいてしまった。可能性が消えていないのは再確認できたものの時間は無情にも流れていく。彼女だけでなく、エナミとの関係も変わっていくはずだ。


(早く戦いたい。そして、結果が出れば……)


 自分の気持ちも決着させられるとビビアンは願っていた。

次回『どこも敵だらけ』 「つれないわね。挑戦してきたのは君からじゃない」

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