翠華杯終了
「どうした、フラワーダンス! ここまで良いところなしだー!」
ビビアンのホライズンが障害物に指を掛けてターンすると敵機と鉢合わせした。咄嗟にビームランチャーを向けようとするも距離が近すぎる。無造作に突きだされたブレードが腹部を貫くように接触した。
「あーっと! なんとここで二刀流までもノックダウン!」
六回戦のフラワーダンスは精彩を欠く試合になっていた。相手はツインブレイカーズ棄権で不戦勝となった『ゾニカル・ネイキッド』。AAAクラスでベーシック機を操るチームなのも同じなのに一方的な試合運びとなっている。
「ただ一人残ったスティックハッピーも三機に囲まれれば厳しいかぁー! ビームが直撃! チーム『ゾニカル・ネイキッド』準決勝進出ぅー!」
二機まで撃墜判定を奪ったものの、すでに後衛を失っていたビビアンたちはなす術もなく敗退してしまった。力なく南サイドに戻る。
(すごくチグハグだったわ)
なに一つ上手くいかない試合だった。
リフトトレーラーに機体を寝かせていると、泣きじゃくるエナミがラヴィアーナたちとやってくる。理由は察しがついた。
「ごめんなさい。私、全然みんなを導けなかった」
しゃくりあげつつ言う。
「途中からなにしてるのかわかんなくなっちゃって。ごめん」
「いいわ。あたしもみんなと連携がおかしかったし」
「でも、こんなはずじゃなかったのに……」
試合前からメンバーのモチベーションは低かった。それをフォローできなかったのはリーダーの責任であろう。
「こんなの変だって……」
エナミは我慢しきれなくなっている。
「タレスを守ろうと一番頑張った人が記録上も負けた扱いで、こそこそ隠れてた私たちが安全な場所で試合に勝って称賛を浴びていいのかって」
「エナ」
「わかってるの。ワークスチームなんだから、ちゃんとした試合をしないといけないのに。でも、感情が言うこと聞いてくれなくて」
全員がコマンダーを囲んで慰める。誰も責めたりなどできない。気持ちは一緒なのだ。器用に振る舞えるほど大人にはなれなかった。エナミなどまだ十五歳なのだ。
それでも責任は果たさなければならない。メンバーを促して整列させ、スタッフに深く頭を下げさせた。
「せっかく準備していただいたのに情けない試合をして申し訳ありませんでした」
心から詫びる。
「いいのですよ。友達の安否を気にするあなたたちを引き止めたのは私です。あの時点で心が引き裂かれる思いだったのでしょうね」
「そーそー、気にしないでいいって。ぼくたちだって、なにもできなかったのが悔しいんだ」
「メンタルケアをしてあげられなかったのを許してちょうだい」
優しさが染みて、メンバー全員で声をあげて泣いた。涙で悔しさ全てを洗い流せるのならと願う。
ビビアンはどうすればフラワーダンスを復活させられるのかわからなかった。
◇ ◇ ◇
「ありがとう。優勝できたのは応援してくれたファンの皆さんのお陰です」
チーム『テンパリングスター』のリーダー、レングレン・ソクラがインタビューを受けていた。
「今回の優勝賞金、僕たちの取り分は被災地区の復旧のために寄付します。レッチモン社からも半額は寄付するとのことでした。避難生活を強いられている方々にせめてもの慰めになればと」
「素晴らしいと思いますよ」
「こうでもしないと格好つかなくてね。命懸けだったツインブレイカーズの二人に顔向けできない。次に正々堂々と対戦したかったら出すもの出さないとさ」
復旧作業は急ピッチで進んでいる。管理局本部が先頭に立ち、各所からの寄付のお陰で大量の人員が確保できている。メルケーシンは間もなく立ち直るだろう。
翠華杯が終わり、首都タレスは春を迎えようとしていた。
◇ ◇ ◇
「いい? 四月からの流星杯で今度こそ勝負よ」
「そうは言ってもよー」
フラワーダンスを立て直すにはモチベーションの確保しかない。それには先延ばしになってしまったツインブレイカーズとの対戦に向けて意気を上げるのが特効薬である。それしかないとビビアンは考えていた。
「出れねえんだ、流星杯」
最悪の答えが返ってくる。
「なんでよ。まだ修理できないの? あれから二週間も経ってるのに?」
「違うって。抽選外れちまったんだよ」
「はぁ?」
斡旋があるものと思っていたが、翠華杯を途中棄権してしまったのが影響したらしい。流星杯の参加抽選に応募したが落選の結果が届いてしまったという。
「馬鹿なの、星間管理局興行部は! タレスを救ったヒーローを落としたの?」
「オーバーノービスじゃ仕方ねえじゃん。本部に忖度しなかった気概を褒めてやれ」
独立性の確保を目した采配の結果だ。
「どうすんのよ?」
「デビアカップに出る」
「選もれトーナメントに?」
オーバーノービスやオーバーエースのトーナメントは抽選もれで出られないチームやソロ選手が発生する。マッチゲームを選ぶのも可能だが、残った組で参加できるトーナメントもあった。それを俗に「選もれトーナメント」と呼ぶ。
「面白えことあるかもしんねえだろ?」
「あるか! 斡旋ないような不人気チームしかいないのに」
つい本音がもれる。
「ひでえな。ちょっと前までお世話になってただろうが」
「う……」
「はっ、目論見が外れたってか? しゃーねえ。放課後、うち来いよ。モチベ上げてやっから」
ビビアンはミュッセルがなにを言いだしたのかわからず首をかしげた。
次回『新しい赤』 「子供なんだから」




