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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
真紅の復活

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少年とマシンメイド(1)

 夕方にミュッセルが帰宅すると臙脂色のエイド服の美女が待っていた。隔離から戻ってきたあとは両親からのご褒美夕食など忙しくてまともに話していない。


「お話ししたいことがあります。時間をいただけますか?」

 珍しく能動的だ。

「メシ食ってからゆっくりな」

「ええ、それでかまいません」


 折り入っての話の雰囲気なので諸々終わらせてから向き合おうと思った。いよいよという感が否めない。グレオヌスも同席するというので、マシュリの研究室(ラボ)に移動してから促す。


「気づいておられるかと思いますが、わたくしは人間ではございません」

 切りだしてくる。

「そうか?」

「奥にある球体、中身は進化した有機コンピュータ。あれが本体です」

「ま、グレイの反応見りゃわかるな」


 以前、相棒はそこに置いてあるのをひどく驚き懸念もしていた。ミュッセルはそれがなにかはあまり気にしてなかったが。


「星間銀河圏では広くは知られていません。『ゼムナの遺志』とか単に『遺跡』と呼ばれております」

 丁寧に説明してくる。

「ゴート宙区に昔、ナルジという惑星がございました。そこには現人類とは違う文明が生まれ、独自の技術を発展させていたのです。ナルジの民は人工知性(アテンド)をサポート役として作りだして暮らしていました」

「それがお前か」

「はい。ナルジの民はもう滅んでしまいましたが、我々は生きながらえております。ナルジの生みだした人型兵器『ヒュノス』を発掘遺跡として触れアームドスキンにまで発展させたゴート人類を破滅させないよう陰より補助していたのです」

 メイド服のエンジニアは淡々と語る。

星間銀河圏(こちら)では表立って干渉は避けておりました。ですが、アームドスキン技術が拡散の一途を辿る以上は座視するわけにもいかず、こうして観測を続けています」

「制御の必要を感じてんのか。そんなに危なっかしいか?」

「いえ、それほどでもございません」


 星間銀河圏の発展度は決して低くなく、眺めているだけにすぎないという。ただし、時折り放置できないほどの存在が生まれてくるのを待っているのだという。


「わたくしたちは『時代の子』と呼んでおります。人類の持つ矯正力の形代だと考えています」

 重要視しているらしい。

「なにを成すのか。興味の対象でもあります」

「お前が選んだのが俺だってんだな?」

「ええ。接触対象は『協定者』と呼ばれます。彼らを介して技術伝達および拡散制御を行うため、一定の機密保持を要求する協定を結ぶからですね」

 協定はまだだが、二人の関係はそれに当たる。

「僕の場合、父が協定者だ」

「ブルーが?」

「『シシル』という遺志がともにいる。彼女をもう一人の母のように感じながら育ってきたんだ。だから君とマシュリの関係を奇異に感じていてね」


 マシュリはなにも明かさずミュッセルはなにも聞かない。ただ、技術的なパートナーとして日々を過ごしているのが不思議に思えたのだという。


「性質の影響もあるだろうけどさ。彼女は淡白な性格をしていると思うし」

 多くを知るわけではないようだ。

「だいぶ性格に差があるみてえだな。あの『マチュア』って妹もマシュリと同じなんだろ?」

「あれも別の協定者を持っています。全知者と関係しております」

「げ! 『ファイヤーバード』かよ」

 有名人の名前が出てきた。

「思ったより色んなとこに関わってんな」

「星間管理局が融和に前向きなので潜伏は容易です」

「ユナミも知ってんのか。そういや、お前に忖度する素振りをしてたな」


 妙な遠慮が感じられた。露骨ではないが、二人への措置も裏があったものとわかる。


「そっか。俺の戦気眼(せんきがん)に用があったんだな?」

 導きだされる結論は一つ。

「最初は。ですが、あなたは非常に興味深い側面を幾つも見せてくれました。選択は間違いではなかったと思っております」

「そんなに面白いか?」

「はい。マッスルスリングなどそれの最たるもの。発想の転換を促すに十分です。人のそういうところがわたくしたちを惹きつけてやまない部分でしょう」

 求める理由があるという。

「あなたは適当でした。多くを求めず他を見ず、ただ自分の夢に一心不乱で一本気。傍にいるのに難しさなど欠片もありません。与えれば、少なからず欲を持つものですがそれもありませんでした」

「言ってもなぁ、俺は自分の欲しいものを自分の手で作るのが好きなんだ。与えられるものに飛びつくのは楽だけどよ、面白みがねえじゃん」

「わたくしにはとても都合の良い性質です」


 要するに居心地が良かったと言いたいのだろう。まわりくどいが彼女らしいとも思う。自分を表現するのがとりわけ下手だと感じていた。


「なので、なにも明かさずそのままの関係を良しとしたのです」

 波風を立てないでやり過ごそうとしたらしい。

「ですが、ヴァラージが現れてしまいました。あなたが感じたように運命というのは残酷です」

「おう。腹立つほど厄介なやつだったぜ」

「それでも行かせなくてはなりません。それがあなたの意味であり、わたくしの意味でもあったからです」

 銀眼が閉じられる。

「まるで、事が終わったから消えるみてえなこと言うじゃん」

「おっしゃるとおりです」

「なんでだ?」


 ミュッセルにはマシュリが去る理由が思い当たらなかった。

次回『少年とマシンメイド(2)』 「悔しくてどうしようもねえんだよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 高位存在のゼムナさんでも、 人間の水平思考は興味深いのか。 (でも、考え着く事は出来るのかな?)
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