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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
敵の名は

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怪物と喧嘩(7)

 ミュッセルのまわし蹴りの追撃も食らってヴァラージは吹き飛ばされている。そこからの組み立ても彼に合わせるつもりでグレオヌスはかまえる。


(ミュウが弱らせて僕が斬る。最初に決めたこれで倒せるんだ。躊躇さえしなければいい)

 流れは作れたかに思えた。


「おい!」

「くっ!」


 運悪く怪物の飛んだ先に大破した星間(G)平和維(P)持軍(F)のアームドスキンが転がっている。パイロットは気絶しているのか動く気配もない。


「逃げろ!」


 グレオヌスは吠えるがヴァラージが気づいてしまう。掴み取って装甲を剥ぎ取ろうとしていた。


「させるか!」


 わけのわからないミュッセルを置き去りにして突進する。振りかぶったブレードを落とそうとするが、予期していた敵のほうが早い。ループを描いた力場(フォース)(ウイップ)が右の太ももの位置を通り抜ける。


「しまった!」


 レギ・ソウルはバランスを崩して転んだ。ブレードが大地を穿ち、ヴァラージを追い払うことはできたが致命的なダメージを負ってしまう。


「グレイ、お前!」

「大破機に近づけさせたら駄目だ。そいつは人を食う」

「なんだって?」


 呆気にとられるミュッセル。その間にもヴァラージが起きあがってレギ・ソウルを襲おうとしていた。ヴァンダラムが割って入ると白光が走って頭が消し飛ぶ。生体ビームが直撃していた。


「ミュウ!」

「くっそぉ!」


 ブラックアウトした視界になす術もなくタックルを受けるミュッセル。そのまま連れ去られて、馬乗りになった怪物に抑え込まれた。


「逃げるんだ! 早くしないと君が食われる!」

「ちぃっ、こいつは」


 切れたヴァラージの腕から触手が伸びる。左肘の駆動部に入り込むと、その先が力なく垂れた。侵食を受けているらしい。


「飛べ!」


 反重力端子(グラビノッツ)を効かせて重量をゼロに。腕だけで跳ねて飛び立とうと試みる。しかし、発生した重力波(グラビティ)フィンの根本を生体ビームが薙いでいった。


「あああっ!」


 レギ・ソウルはもう這いずることしかできない。両腕だけでヴァンダラムに接近しようとするが距離は遠い。馬乗りになったヴァラージの首元からも触手が伸びて赤い機体のブレストプレートに入り込もうとしている。


「どうにかして逃げるんだ! 早く!」

「この野郎。調子に乗んじゃねえぞ」


 残った右腕一本で押し退けようとしているが、じりじりと隙間が開くだけ。そこに膝を入れて力を込めている。


(なにか! なにかないのか!)


 グレオヌスは逆転の手もないまま必死で這いずるだけだった。


   ◇      ◇      ◇


 回復したモニタにはいっぱいにヴァラージが映っている。首元に伸ばされた怪物の手がブレストプレートを剥ぎ取ろうとしているのにミュッセルには抵抗する術がない。


(俺を食おうってんのか、この野郎)


 ヴァンダラムの各所駆動部が軋むほどの力が加わっているのにヴァラージを押し退けられない。長い戦いの間に蓄積したダメージが今になって足を引っ張っていた。


(勝てねえのか。死ぬのか、俺は)

 今になって恐怖を感じる。

(足らねえのか。俺じゃこいつを倒す力はねえのか。そんなんでメルケーシンを守るとか豪語してんじゃねえ)


 振り払われた右手がなにかを掴んだ。モニタの端でそれ(・・)を確認する。ヴァラージは覆いかぶさってきており、操縦殻(コクピットシェル)の向こうでなにかが擦れる音までしていた。


「こんなんでぇー!」


 右手に握ったものを思いきり怪物の背中に叩きつける。それだけに留まらず、何度も何度も打ち付けた。まるで意味のない抵抗のように。


「ヒギャアー」


 しかし効果は覿面だった。ヴァラージは悶え苦しみはじめる。ミュッセルが打ち付けたのはいずれかの大破機が取り落としたアンチV弾頭の弾倉(カートリッジ)である。拳で叩き潰すと薬液が怪物の背中に飛散していた。


「シャッ、ジャアー!」


 痙攣するヴァラージの駆体。触手は溶け崩れ、まとっていた装甲も剥がれて落ちてくる。ヴァンダラムのボディに当たって転がり、そこへ腐り落ちたかのような組織が垂れてきた。


「死んだのかよ」


 ぐずぐずになった粘液が赤いアームドスキンに溶けて張り付いている。元の人型は痕跡しか残っていない。ミュッセルは振り払ってヴァンダラムを立ちあがらせた。


「よかった、ミュウ……」

 涙声の相棒が話し掛けてくる。

「情けねえ声出してんじゃねえよ」

「でも」

「俺たちは奴を倒した。それだけだ」


 肩を貸してレギ・ソウルを立ちあがらせる。片脚しかない機体と片腕しかない機体で助け合ってどうにか立てる。生き残っていられた。


「やってくれました!」

 報道官の声が弾む。

「ツインブレイカーズの二人がボロボロになりながらも怪物を倒したのです。これで首都タレスは救われました。ありがとう、両選手。皆様、どうか二人に称賛を」


 オープン回線には讃える声が伝えられる。追っ付けやってきたGPF部隊も無事を問い掛けてきた。しかし、応答する気にもなれない。


「くそが。俺は負けたんだよ。あの怪物に負けたんだ。偶然退治薬の弾倉に手が届かなきゃ今ごろ食われてたんだよ。そんなの……誇れるかよ!」

「ミュウ……」

 グレオヌスも掛ける言葉がない様子。


 コクピットの中にはミュッセルの歯軋りの音しか響いていなかった。

次はエピソード『真紅の復活』『怪物、その後(1)』 「二人は帰った?」

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