怪物と喧嘩(6)
アンチV弾頭による一斉射撃に応じてグレオヌスたちはヴァラージから離れていた。その攻撃も阻まれたのに、今度はミュッセルの放った奥義が炸裂する。敵は吹き飛ばされたうえに地面を転がっていた。
「なにを?」
手を打った姿勢の親友を見る。
「衝撃波攻撃がてめぇの専売特許だと思うなよ、怪物野郎? リクモン流にもあるんだぜ」
「衝撃波咆哮と同質のものなんだな?」
「そうだ。ま、見てのとおり蓮華槍はキーアクションが必要だから至近距離じゃ使えねえけどな」
致命的な隙ができる。
上に掲げた両手が花開くように降ろされて打ち合わされる。そこから衝撃波を発する奥義だから『蓮華槍』と名付けられたらしい。驚いたことにミュッセルの手札には中距離攻撃もあった。
(見誤った。僕はミュッセルが白兵戦しかできないものだと思ったんだ。しかも打撃戦となるとヴァラージへの効果も薄い。繋ぎにしかならないと感じてそう扱ってしまっていた)
「俺をお前のものさしで測るな」
まさに彼の言ったとおりだ。信頼さえしていれば別の組み立て方もあったものを、二人では倒しきれないと判断してしまった。挙げ句に時間稼ぎで星間平和維持軍機に繋げようとして損害を出してしまっている。
「ごめん。君を信じていれば」
「いいってことよ。そうそう披露できる技じゃねえから」
格闘技の領分を超えた特殊な技である。剣では真似できない。真空の刃を放つとかフィクションでしかないのだ。物理法則はそんな無茶を許してくれない。
なにをされたのかわからない様子のヴァラージは身体を震わせて起きあがる。警戒して様子をうかがっていた。
それをいいことにミュッセルは再びかまえを取る。ヴァンダラムでの使用にも制限のない技のようだ。
「蓮華槍」
危機感を覚えたか跳ねて回避する。後ろの瓦礫が爆発して盛大に土煙を巻き起こした。恐れをなしたかミュッセルの正面を嫌う。
(自分が放つだけに、目で見えない攻撃の怖ろしさを認識しているな)
まわり込んでレギ・ソウルを狙う気配を見せる。ヴァンダラム相手だと不利と感じたか。しかし、とどめを狙うならブレードのほうが効率的だとわかっていない。
(これで詰め手が組み立てられそうだ)
蓮華槍を嫌うなら好都合である。
ところがヴァンダラムは真横に左手を手刀にして掲げている。そして、右の掌底が脇の少し先あたりの上腕部を打った。迂回していたヴァラージはそこで跳ね飛ばされて転倒する。
「間抜け。誰が正面にしか打てねえって言ったよ。キーアクションだけできれば横だろうが後ろだろうが打てんだよ」
驚くべき事実を告げる。
「こいつは烈波の螺旋応力をキーアクションで空気への衝撃に変えて打ちだしてるだけなんだぜ。ポーズなんて関係ねえんだ」
打ち付ける動作が全てキーアクションだという。どういう格好だろうが、烈波を打てる状態なら蓮華槍も放てるらしい。
「喰らえ」
背を向けて振りだした足を軸に変える。ひねりを入れて応力を流した。右手は背後に肘を立てて掌底を作る。そこへ左の拳が打ち付けられた。
「シャゴッ!」
立ちあがったばかりの駆体が跳ねくり転げる。何回転もしてから地面に倒れ伏していた。致命傷にはならないが、かなり効いている様子。なにより回避できないのが精神的なダメージになっているようだった。
「もうちょっと利口になれよ。それとも考える頭はねえってのか?」
ドスを効かせて挑発している。
「こいつを喰らいたくなかったらどうすりゃいい? そろそろわかんだろ?」
立ちあがったヴァラージは突進してきた。要はミュッセルにキーアクションをさせなければいい。それには接近するしかない。
「そうだ。来いよ。俺と殴り合え」
嬉しそうに笑う。
「どっちが強えのか決めようじゃねえか」
ミュッセルには蓮華槍からの組み立てで倒そうというつもりはなかった。距離を取れば不利と知らしめて、あくまで打撃戦で打ち勝とうというのだ。奥義はただの振りでしかないという。
(なんという自信。敵を飲んで掛かってこそ勝利があると思ってるんだ。自分の命が懸かっていようが、そんなのは関係ない。勝負の綾を大事にしているからこんな組み立てができる)
親友の本質を垣間見た気がする。
力場鞭はすでに見切っている。ヴァラージも牽制にしかならないと学習したらしい。あっさりとあきらめて掴みかかってくる。
ミュッセルも応じた。手を組み合って力比べになる。口を開いてブラストハウルを使う気配をみせると頭突きを喰らわせ叩き潰す。
「おらおら、無粋な攻撃すんじゃねえ。この距離で打ち合わねえでどうすんだ!」
膝蹴りが脇に入る。ヴァラージがくの字に折れた。手を離してスピンしたヴァンダラムの肘が鳩尾に突き刺さる。芯入りの鋭い一撃にたたらを踏んだところへ、さらに掌底が当てられ烈波が打ち込まれた。
「グギャアー!」
悲鳴をあげるほどのダメージが通る。ミュッセルの目配せにグレオヌスはすかさず踏み込んで一閃する。上腕から先が刎ね飛ばされた。
(やはりこのリズムだ。倒すにはこれしかない)
グレオヌスは勝機を見出していた。
次回エピソード最終回『怪物と喧嘩(7)』 「逃げるんだ! 早くしないと君が食われる!」