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グレイ参戦(3)

 モニタに相手の顔が映る。いかつい髭面の中年男だった。ミュッセルから聞いた情報では契約パイロットではなく賞金稼ぎの個人パイロットらしい。


「なに!?」

「は?」

「てめ、そんなんでビビらせる気か?」


 同様に相手のコクピットにもグレオヌスのヘルメット内の顔が見えているはず。それで驚いたらしい。


「相手のことを調べてないんですか?」

「いや、ビギナーがしゃしゃり出てくるから適当に指導してやろうと……」


 クラスだけ見てどうでもいいと考えたらしい。クロスファイトがスポーツ扱いされている以上有りがちとも思う。実戦であれば以ての外であるが。


「ご覧のとおり、グレオヌス選手は遠くザザ宙区からやってきたアゼルナンの十六歳の少年です。皆様、勇気ある挑戦に健闘を祈ってあげてください」


 アリーナにも彼の顔が映される。こちらはヘルメット無しのプロフィール画像。驚嘆の声とともに拍手が流れてきた。


「ありがとうございます」

 周囲に礼を送る。

「よろしければ憶えてやってください」


 まだアリーナはざわめいている。文句の声も彼の大きな耳に届いていた。


「それなら遊びに賭けても良かったのに」

「ちょっと格好良くない? 礼儀正しいし」


(そういう反応か。これは気にしてたらキリがないな)

 あきらめることにする。


「顔つきで勝てると思うなよ?」

「それはお互い様でないかと?」

「なんだと?」

「あ、すみません。つい」

 アリーナが笑いに包まれる。


(ヤバい。僕まで色物に分類されてしまいそうだ)

 自重の必要性を覚える。


「これは面白い勝負になりそうだ。一回戦から注目のカードになりました!」

 リングアナも乗ってきた。

「では開始の時間です。ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 ゼッタのアームドスキン『ピアザ』が土を蹴立てて突っ込んでくる。大上段に振り被ったブレードがグレオヌスを狙いすましていた。


(すかしてカウンターの突きは躱される。セオリーだから)

 計算する。

(きっと弾きに来るからそれを絡めて落とす。隙があったら決めに行こう)


 振りおろされた剣閃を半身で避ける。右手のブレードをカウンターで突き出した。


「あ!」

「あ?」


 ものの見事に胸の真ん中に突き立っている。正確にはそう見えている。セーフモードの力場刃(ブレード)は半ばで消えて装甲に吸い込まれているように見える。


「の、撃墜(ノック)判定(ダウン)! 一瞬の攻防でした! 強い! 強いぞ、グレオヌス選手! これは期待のニューカマーの登場です!」

 ゴングが鳴り響いていた。


(強くないよ。相手が弱かっただけだ。これで(エース)クラスなのか?)


 グレオヌスは戸惑いの中で、歓声に勝利の礼を返していた。


   ◇      ◇      ◇


「ったりめーじゃん」

 ミュッセルは呆れて言う。

「あんなビビって固まってるふうに見えて、いきなり予備動作ほとんど無しの鋭い突きをぶちかましたら決まるの当然」


 この狼頭少年の無自覚には肩をすくめるしかない。自身が破格の存在だとわかっていないのだ。どんな人間に囲まれていたら、こんな感じに育ってしまうのか彼にもわからない。


「……普通だと思ったんだ」

 グレオヌスは声のトーンを落として弁明している。

「子供相手の遊びの手合わせだってあれくらいはする。セオリー中のセオリーだからその先まで組み立ててたのに」

「お前が相手の基準にしてんのは、たぶんバリッバリの熟練軍人なんだよ。そんなのクロスファイトにいるか。いるとすりゃメーカーの契約パイロットだ。勝とうが負けようが関係ねえ高給取りどもじゃん」

「そうなんだろうか?」

 自信なさげである。

「そうなんだよ! ましてや今回は個人パイロット同士の対戦(カード)だったんだ。ビギナークラスなんて勝てねえって踏んでる。オッズもとんでもねえことになってたんだぜ? 確実に今夜、ひと財産築いた奴がいる」

「まさか。あんなに喜んでくれたのに?」

「ありゃ期待の声援だ。面白いのが出てきたってな。九割方以上が端末画面のチケットに『敗北(ルーズ)』の字が刻まれてたんだって」


 間違いないだろう。今夜の対戦(カード)、運営は意図的にグレオヌスの顔さえ伏せて始めている。悪意はなく、皆の度肝を抜くつもりの演出だ。

 慣れている観客は遊びでグレオヌスに賭けていた者もいるはず。逆に勝負どころと対戦相手ゼッタに大枚注ぎ込むような間抜けは少なかったと思われる。


(たまに鼻を利かせてこういうドラマを組み入れやがっからな)

 運営に機転の効く人間がいる。

(ま、今回は俺の紹介だったから、グレイが只者(ただもん)じゃねえと読んだんだろうがよ)


「気が引けるんだったら次からは上手くやれ」

 助言というよりは気休めだ。

「手抜きして場を盛り上げろっていうのかい? 僕にはそんなテクニックはないと思うんだけど?」

「手加減なんていらねえ。変に意識すりゃ足元を掬われんぞ? もうちょっとアクションを派手めにするだけで観客にはウケる。ハンデのつもりで相手にも客にもサービスしてやれ」

「そういう意味か」

 狼頭は考え込んでいる。


 アクションを大きくするのは相手選手に攻撃を読ませるということ。おそらく今まで削ぎ落としてきたものを付け加えろと教えている。


(ちょっと酷かもな)


 ミュッセルは苦笑いしながら友人の肩を叩いた。

次回『リクモン流(1)』 (僕の操縦は玄人ウケしないのだろうか?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 操縦技術はどの位のレベルで?
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