怪物と喧嘩(4)
ミュッセルとグレオヌスのワンツーで何度も挑みかかるも致命的な一撃は届かない。恐るべき反射神経で避けてしまうからだ。小さなダメージを積み重ねて削るに留まっている。
(堪ったもんじゃねえな)
終わりが見えない。
「我慢比べかよ」
苦言がもれる。
「こっちのスタミナが切れるかあっちが音を上げるか勝負だってか?」
「父の艦には万が一の退治薬が備わってたんだけどさ」
「そいつはどんなもんだ?」
自分に使えるものかどうか。
「物理弾頭。薬剤だから当てるしかない」
「お前のブレードを避けるような奴に礫を当てろってのか? 厳しくね?」
「色々細工されてる。実際に撃滅できていたから問題ない、……はず?」
(そりゃ使い手が慣れてりゃの話じゃん。ここらへんのGSO機に使えんのか?)
ミュッセルは見通しが怪しいと感じる。
ヴァラージも学習してきていた。前面に立つヴァンダラムを追い払おうと生体ビームを多用してきている。とどめの斬撃に繋げるための烈波を警戒しているのだ。
(ダメージを積み重ねるのさえ厳しくなってる。どうしたもんかよ)
激闘の結果、周囲は徐々に拓けてきている。建物が根こそぎ失われつつあるのだ。お互いに動きやすくなりつつある。つまりは回避も容易になってきているということ。
「嫌がってる気配はするから続ければよくないかい?」
「決め手に欠ける攻撃をだらだら続けてっと、どっかでしっぺ返しを食らう気がしてよぉ」
「マシュリに聞いた攻撃手段もひととおり出揃ったと思うんだけどさ」
グレオヌスの主張はパターンで追い詰める方法。確実性はあるが消極策でもある。育ってきた環境の違いがそうさせるのだろう。彼の成長の遅さは冒険心の乏しさが原因だと思う。
(踏み込みがほんのちょっとだけ浅い。たぶん、心のどこかで退治薬とやらが届くの待ってやがんな。実績のある方法のほうを選びたがってんだ)
時間稼ぎの意識が邪魔をしている。気持ちはわからなくもない。これは試合ではなく実戦だ。命に危険が及ぶ可能性がある以上、必要以上の冒険をしない。それが軍隊で培った感性なのだ。
「もっと俺を信じろ」
「信じてるさ。でも、この敵は君が想像している以上に危険なんだ」
「違う。俺の限界をお前のものさしで測るな。本気でやれねえってんなら……」
「僕は本気だ。こんな場面で手を抜くか。それは侮辱……、やめよう。間に合ったから」
相棒が待ち焦がれていた物が到着したらしい。星間平和維持軍のエンブレムを付けた部隊が大振りなビームランチャーを装備してやってきた。
(あれが物理弾頭を発射できるやつだな)
一瞥しただけで電磁投射機だと思った。
「そこの二機、こちらは対応を任されたGPF部隊だ。アンチV弾頭を使う。下がりなさい」
オープン回線で通告してきた。
「当てられんのかよ?」
「方法は考えている」
「任せよう、ミュウ」
レギ・ソウルが下がるのならミュッセルだけ残っても意味がない。警戒を解かないままジリジリと距離を取る。
するとヴァラージの目標は部隊に変わった。飛行する一団に生体ビームが浴びせられる。予想していた攻撃に散開しつつ作戦を開始する。
(なるほどな)
右手のビームランチャーの他に左手にはバルカンランチャーもかまえている。一斉に集中攻撃を開始した。弾幕にさらされたヴァラージはリフレクタで守りに入る。
足留めに成功したところで物理弾頭による狙撃に移行する。正面に撹乱する数機を残して狙撃班が側面に展開。発射音が空気を鳴らす。
(無理だぜ、それじゃ)
任意にリフレクタを創出できるので腕は空いている。フォースウイップが宙を舞って迎撃された。斬り裂かれて四散する。
「広く展開。包囲に移る」
想定はしていた様子。
「全機、淀みなくアンチV攻撃せよ。一発着弾させれば状況は変わる」
「了解」
惜しみなく退治薬が使われるが、ヴァラージも黙っていなかった。リフレクタの鎧をまとったまま跳ねるように移動。完全に意表を突く。
「ヤベえ! 躱せ!」
「おごっ!」
警告は間に合わない。生体ビームだけを警戒していた隊機は衝撃波咆哮の直撃を受けてしまう。ヒップガードが弾け跳び、空中でもんどり打つとそのまま墜落した。
「保護しろ。攻撃は継続」
「回避を……、ぐは!」
次々にブラストハウルが命中して落とされていく。隊機はヴァラージの顔の前から逃げ惑うしかなかった。
「これは厳しい」
グレオヌスも作戦続行を困難と断じる。
「隊長、僕たちで動きを止めるので、その間にアンチVを使用してください」
「しかし、君たちがいては発砲できない」
「使用するのはアンチV弾頭だけで。誤射しても問題ありません」
ヴァラージ以外に効果はないらしい。
「……わかった。協力を要請する」
「そういうことだ。ミュウ、もうひと働きしよう」
「最初からそうしろってんだ」
対処方法を編みだしているから代わるよう言ってきたのだと思っていた。だから様子見したのに、敵の攻撃法さえ頭に入っていなかったらしい。アンチV弾頭を使用すれば倒せるものと思い込みをしていたのだろう。
(成功体験ってのは、たまに人を馬鹿にさせっからよ)
通り一遍倒の認識しかなかった対処部隊にミュッセルは落胆した。
次回『怪物と喧嘩(5)』 「怖くて仕方ないの。これって私がおかしいの?」