ミュウの敵(4)
「謎の暴走アームドスキンは未だ暴れております」
ドローンからの映像を流しつつ報道官はスタジオから実況する。
「付近の住民の方は速やかに避難するか地下シェルターをご利用ください」
上空からの俯瞰映像で現状を伝えるのは市民に危機感を抱いてもらうため。パニックよりも避難が遅れることのほうが問題となる状況だった。
「また星間保安機構のアームドスキンが大破して後退していきます。積極的な抑止が行われていないように思えますが星間平和維持軍による大規模な制圧作戦が予定されているからでしょうか? 本局からの発表はまだです」
騒動の根源たる機体は特殊なビームを撒き散らしながら市街地エリアを進んでいる。特に目的もなく、攻撃されるとそちらに進むという印象で、ある程度狭い範囲に誘導されていた。
「素早い対処が求められますが今のところは……、あれは?」
画角に思わぬものが映り込む。
「真っ赤なアームドスキンがやってきました。どこの……、え? どこかで……、まさかあれはヴァンダラムでしょうか?」
冷静に実況していた報道官までもが仰天する。戦闘区域に飛行してきた機体は真紅のボディをさらして降下していく。
「灰色のアームドスキンはレギ・ソウルだと思われます。なぜクロスファイトに参加しているアームドスキンがこんなところへ? 確認が急がれます。はい、本局からの広報があるそうです。繋げます」
パネルに現れたのは本局長のユナミ・ネストレルその人だった。
「お伝えしておきます。ミュッセル・ブーゲンベルク、グレオヌス・アーフの両名はわたしが出動要請して現場に到着したところです」
「そうなのですか? ですが二人がどうして現場に?」
「機密情報としておりましたが、両名は民間治安協力官として登録されております。今回の未曾有の事態に際して動員を決断いたしました」
ユナミは淡々と説明している。
「なにゆえチーム『ツインブレイカーズ』の二人の少年を動員したのでしょうか? 確かにかなりの数のGSO機が損害を受けていると思われますが、困窮するほどではないのではありませんか?」
「見ればわかります」
「は、見れば?」
真っ赤なアームドスキンは当然のように目立つ。着地したと同時に謎のビームの攻撃目標とされた。
「ああ!」
大破したと勘違いするが、白光は腕の一閃で打ち払われている。
「なんと!」
「彼らの機体には、あの怪物に対抗する機能が備わっています。お願いするしかありませんでした」
「彼らに? 局長、怪物とは?」
疑問を投げ掛ける。
「どこから現れたかはまだ不明ですが、あれはヴァラージです。二年前、ジャスティウイングが撃退したヴァラージと同種のものです。特殊な専用機でしか対抗する術を持ちません」
「そ、そうだったのですか」
「現在、退治用の専用武器を準備中です。それまでは彼らに任せるしかないのです。勘違いないように。例えクロスファイト選手であっても、決して正義感に駆られて真似をしないでください。通常装備のアームドスキンではヴァラージには対抗不可能なのです」
ユナミは厳しい口調で告げてくる。くり返し戒めてきた。
「わかりました。こちらからは引き続き現状をお伝えしていきます」
広報を引き継ぐ。
「誰であろうと管理局本部の要請なしに現場に近づいてはいけません。非常に危険な状態です。許可が降りるまで当該エリアへの進入は厳禁です」
報道官は極力冷静に実況を続けた。
◇ ◇ ◇
「ヤベえ手応えだぜ」
ミュッセルは舌打ちする。
「絶対リフレクタで受けようとすんなよ、グレイ。ブレードスキンでさえ結構な反動がありやがる」
「厄介な武装だ。気の抜けない敵だな」
「おう、ここはリングじゃねえ。一発でも食らったらお終いだかんな」
話している間もヴァラージから目を離さない。
「それがわかっているなら安心だ。君は知らない場所のはずだったから心配だったんでね」
「俺はリングも命取り合う戦場のつもりだぜ。食らっても死にはしねえってだけだ。勝負には負けるけどよ」
「負けるつもりは毛頭ないんだな」
生体ビームを弾かれてヴァラージは警戒している。彼らを見据えて動きを止めていた。
「殴って倒せねえ相手でもねえんだろ? マシュリが行けって言ったのはそういうこった」
武器を持たせなかったのは必要ないからだろう。
「中身が生物だってんならなおさらな」
「ブレードのほうが効率よく倒せるのは変わらないさ。君が弱らせてくれれば僕が始末をつける」
「斬れば死ぬのかよ」
どういった生物かは知らない。
「簡単には死なないらしい。でも弱点はある。鳩尾と首元に心臓に似た器官があると聞いてる」
「二つもあんのか」
「両方破壊すれば一時的に活動停止に追い込めるって話だ」
今はリフレクタも展開するし、螺旋光の尻尾でビームを薙ぎ払う仕草も確認している。しかし活動停止させればビームでも焼けるという。
「生物組織でできてるんなら色々と効くはずだぜ。特に烈波とかはな」
「当てられればな。試してみるのも一興だ」
「楽しい喧嘩になりそうだ」
ミュッセルは獰猛に笑った。
次回『怪物と喧嘩(1)』 「こんな街中でやらかしたら目も当てられねえ」