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ミュウの敵(3)

 ヴァンダラムを飛び立たせてもクロスファイト仕様アームドスキンの市街地警報は鳴らない。ユナミの送ってくれた解除コードがシステムの制限を解いてくれている。


(これでレギ・ソウルもブレードグリップを実戦出力にしても警報は鳴らねえはずだな。まともに戦えるアームドスキンになったわけだ)

 物足りない感じはあるが。


「グレイ、ビームランチャー拾ってこなくてよかったのかよ? 倉庫に置いてあるんだろ?」

 相棒は使い慣れているはずだ。

「街中で使えるような代物じゃないさ。ブレードで対処したほうが気楽でいい」

「だがよ、奴はお構いなしでぶっ放してくんぞ?」

「付き合ってられない。施設を壊すのは最低限にしたい。それに飛び道具無しで砲撃手(ガンナー)の相手するのは慣れてるじゃないか」

「違いねえ」


 手元に浮かぶ通信用の投影パネルに笑い掛ける。最近になってマシュリが仕込んでくれた通信システムは使いやすくていい。透過率高めな上に、モニタにウインドウを開かないので邪魔にならない。


「到着するまでに説明しておきます」

 別のパネルにマシュリの顔が映る。

「このタイプのヴァラージにどこまで機能があるかは不明ですが幾つかの武装を備えております」

「お願いします。僕も対するのは初めてですので知識以外は」

「まずは生体ビーム。あの白いビームです。一般的なプラズマ粒子ビームと異なりリフレクタが通用しません。若干の減衰は見られますが威力は衰えないものとお考えください」

 苦々しい内容が伝えられる。

「天下の星間(G)保安(S)機構(O)が手こずってるのはあれの所為だもんな」

「防ぐにはブレードガードしかございません。重力波(グラビティ)フィンでも防げますが、ヴァンダラムもレギ・ソウルも可動式フィンを持っておりませんので」

「ブレードガードか。ってえことは……?」

「ブレードスキンでも防げます。出動を促したのはそれが理由です。二機だけが生体ビームから身を守って接近戦を仕掛けられます」


 無策に送りだしただけではないらしい。二人のパイロットスキルを考慮した上にアームドスキンの性能まで加味して対抗可能という判断だ。


「次に力場(フォース)(ウイップ)

 他のパネルが戦闘映像を映す。

「この金色の鞭状の武器は湾曲するブレードだと思ってください。当たれば普通に斬れます」

「おいおい、どういう仕組みでそんな力場操作ができるってんだ。あり得ねえぞ」

「可能なのがヴァラージという生体兵器なのです」

 聞きたくなかった単語が混じる。

「やっぱ生き物なのかよ。シュトロンの装甲鎧を着てるだけか」

「ええ、中身は別物です」

「こんなケースは初めて耳にします。なにがあったのでしょうか?」

「そこから原因を追っております。対処はお二人でお願いいたします」

 マシュリは原因を探るのに注力するつもりらしい。


(まあな。あんな怪物と戦ってる最中に別のやつが湧いて出てこられちゃ適わねえ)

 そちらは彼女に任せるしかない。星間管理局はそこまで手がまわっていなさそうだ。


「もう一つ、衝撃波(ブラスト)咆哮(ハウル)

 次なる戦闘映像が出る。

「ノックバックしていますでしょう? これは不可視の衝撃波攻撃です。ただし放出器官が必要で通常は口に付いています。この個体に口があるか否かはまだ確認できておりません」

「実物見てみねえとわかんねえな。そういうもんだと思っとく」

「もっと気をつけないといけない。過去のデータだと、一撃で大破もあるレベルの衝撃波なんだ」

 グレオヌスが言い添えてくる。

「マジか。勘弁しろよ」

「既存の兵器の常識が通用しません。そのような敵ですので星間管理局は極秘裏に対処してきたのです。彗星事件以降は衰退傾向でありますが、どこに残っていたのか」

「あの状態からして、ろくでもねえ想像しかできねえんだけどよ」

「わたくしもです」


 問題は怪物がシュトロンの中に潜り込んでいる部分。どこからかやってきて、わざわざ入り込む必要はない。戦闘映像の個体は鎧甲のような外皮をまとっているように見える。

 ましてやメルケーシンという地理的条件。幾重にも固められた守りを破って侵入するのは考えにくい。ならば持ち込まれた(・・・・・・)と考えるのが順当だろう。


「原因追及は後回しでもかまわないでしょう」

 グレオヌスは決然と言う。

「当面は現物の早急な対処が必要です。サポートをお願いします」

「必要な情報は随時に。まずは現在の位置情報をご確認ください」

「ありがとう。どうにか二人で倒せればいいのですが」


(忙しいって言ってんのにサポートまで頼むのかよ)

 親友の言動に疑問が湧く。

(まるでマシュリがマルチタスクなんて屁でもねえみてえな物言いだぜ。あいつにだって限界あるだろうに。いや、もしかしてねえのか?)


 そんな思いまで頭に浮かぶ。信頼の深さでは比べられないはずなのに、付き合いの短い相棒のほうが彼女を知り尽くしているように感じる。


「ま、そんなのはあとだ」

「なんだい?」

「なんでもね。見えてきたって思っただけだ」


(あいつが自分から明かすまで訊かねえ。そう決めてんだからな)

 気を取り直す。


 眼下の道路上には異様の影。警察機の攻撃を跳ね除けつつ白光を撒き散らしている敵がいる。装甲の間から覗く部分に駆動機の外観はなく、被膜のようなものに包まれていた。中身を想像したくないほどの異様だ。


 ミュッセルはいつにない緊張を持ってヴァンダラムを降下させた。

次回『ミュウの敵(4)』 「まさかあれはヴァンダラムでしょうか?」

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