対決への前進(3)
本格的に動きはじめたフラワーダンス。シフトも変わらず距離を詰めていく。エナミがラヴィアーナ主任と図った作戦はそれほど難しいものではなかった。若干の修正で事足りるもの。
「両者、一気に接近していきます! これは勝負を懸けたかぁー!?」
リングアナの声に背を押されるように彼我の距離は縮んでいく。ビビアンも砲撃手の距離は取らずに最初から詰めていった。
「賭けに出ますか?」
オープン回線で挑発してくる。
「それだけの勢いのあるチームなのは認めますよ。ですが、この速度差をして接近戦は無謀です。特にあなた方の得意なスティープルエリアではね」
「あら、そう? ずいぶんと自信のあること。もしかして、うちのアームドスキンがどこ製なのかお忘れ?」
「どこですと? ヘーゲルではありませんか」
「そう、カーメーカーのヘーゲル。車輪に関してはプロだと思わない?」
指摘されると沈黙が返ってくる。疑問を投げかけるには十分な材料だろう。つまり、車輪の利点も欠点も知り尽くしているという意味。
「まさか、我らのアームドスキンに欠点があると? これほどの速度と安定性を実現しているのに、まさか問題があるとでもおっしゃる」
「それを今から証明してあげる」
ラヴィアーナが言うには、アームドスキンに走行輪を搭載するのも一案だったらしい。しかし却下された。それには大きな理由があるのだ。克服できなかったからこその却下である。
「大口を叩く」
「口が悪くなってきてるわよ?」
すでに接敵距離。刃を交えるほどではないが相互に視認できている。ビビアンは狙いを定めて発砲した。レイミンやサリエリも攻撃を開始している。敵チームの足元を。
「くっ!」
舞い散るリングの合成土。視界が悪くなるとともに地面の状態も悪化する。走行に問題が出るほどに。
(機動戦をするタイプには効くのよ。それはツインブレイカーズみたいなチームもそうだし、あたしたちも。そして車輪にも)
穴に車輪を取られて転倒する機体が出る。一斉に高速機動戦を仕掛けてこようとしていた後衛にも。確かにグラウンドローダーはショートレンジシューター向きかもしれないが重大な欠点を孕んでいた。
「これくらいは想定内!」
「でしょうね」
素早く立て直しをするキメラッシュのアームドスキン。元から車輪を取られやすい土の路面。悪路も想定しているのだから提供したメーカーも考えているはず。
(対策している。どうするか)
予想どおりの反応が返ってくる。
(そう、腰を落として前傾姿勢になる。走行安定性を取り戻すために)
転倒も防げる。しかし、重心が低くなっただけ転回速度は落ち、半径も広がっている。偏差攻撃がし易い具合に。機動予想が簡単なのだ。
「なに!?」
「反重力端子も効かせてるでしょ? 穴を飛び越さないといけないから」
照準が変わり、相手が掲げたリフレクタを故意に狙っている。
「重量軽減まですると、なにが起こるかわかる? 車輪のグリップが落ちるの。結果は?」
「うおっ!」
「反動に耐えられず転倒」
キメラッシュの機体は次々と転倒する。次に待っているのはビームの直撃である。ビビアンたちのいい的に変わりつつあった。
「こんな方法が!」
「最初からわかりきっていたことなんだって」
ラヴィアーナに指摘されていた。ただ、対策が取られている可能性を吟味していただけだという。ホライズンが足での走行を採用したのは、どんなシーンでも安定性とグリップ力を保持できるからである。
「それを提案したメーカーは総合設計をしないとこみたいね。アームドスキンの重心位置とかグリップ力とかの想定が甘いらしいわ。速度と安定性のみを重視していたんじゃない?」
「まさか、ロクハンヌ機工が?」
「スポンサーをバラしたらマズくない? 欠点を露呈したばかりなのに」
「しまっ……!」
わりと古株パーツメーカーの名前が挙がってしまう。会心の作と考えて投入したのだろうが、とんだ恥をかいてしまったはず。キメラッシュで実験してから売り込みをかけようとしていたのだろう。
「試合もいただき。おあいにくさまね」
「馬鹿なぁー!」
リーダー機もまわり込んでいたウルジーに突かれて容易に転倒。ビビアンのビームランチャーの餌食となる。他もほとんどがビームの的になり、ユーリィが出番がないと不平をもらす始末だった。
「あっという間に全機撃墜判定! あっけない幕切れが待っていたぁー! フラワーダンス、六回戦、準々決勝進出決定ぇー!」
彼女たちに賭けていたであろう観客がアリーナで湧いている。その数の多さがチームとしての信頼度の証でもあった。フラワーダンスは強豪チームの端くらいに足を掛けている。
「いえーい!」
センタースペースに戻ってハイタッチを交わす。
「決まったね。いよいよ次は?」
「まだ気が早い。あいつらが勝ってからにしときなさい」
「負けると思う? 負けてくれると私は楽できるけど」
レイミンは嘯いている。
「でも、ミュウに特訓の借りを返せなくなるのも癪なのよね。微妙」
「素直に対決したいって言ったら? ミンはほんとにツンデレさん」
「誰がツンデレさんか!」
サリエリにツッコまれているレイミンも今は笑っていられる。六回戦を戦ったあとにも笑っていられるかどうか、それが重要である。
(とにかく全力で挑もう。絶対に後悔しないように)
ビビアンはすでに目標を定めていた。
次回『ミュウの敵(1)』 「おーおー、決めたからって自信満々じゃねえか」