対決への前進(2)
速いと言われれば速い。けたたましい擦過音を響かせてキメラッシュのアームドスキンは走行していく。リングの土の上を滑るように後退していった。
「誘いに乗らないほうがいい?」
ビビアンはコマンダーに判断を任せる。
「当面はいつもどおりで。今、ヴィア主任とジアーノさんが分析してる」
「ラジャ。シフトは変わらず。フラワーダンス、散開」
「承り」
舌を噛みそうな応答も彼女たちのスタイル。以前から培ってきたものを前面に出すことで平常運用を自覚させる。
(差がつくもの? 見てみないとわかんないわー)
接敵するまで判断できない。ラヴィアーナやジアーノも分析するにはデータが必要だろうと思う。
「エナ、ちょっと急ご」
提案する。
「焦らなくても」
「ううん、当たってみないとわかんない。たぶん、ヴィア主任たちも。材料集めから」
「確かに。誘導する」
(やってみないとわからないスタイルとかミュウたちに似てきちゃってるかも)
苦笑いする。
(でも、実際そうなんだし。これって実力に自信がついてきているってことなのかもね。結果も出てるし、いい傾向)
いきなりの衝突にも対処できるという自負。それが起こさせる行動であるようにも思える。
「無理な仕掛けはなしで。まずは見極めからよ」
「了解」
ホライズンは変わらず安定している。ビビアンの視界では混み合う障害物を左右へと躱しながら結構な速度で走っていた。
幾らもしないうちにキメラッシュの機体の姿も捉える。やはりスティープルの林を滑るように抜けている。相応の準備をしてきたということか。
「案外早い。見えてる?」
「もち。しばらくもたせて」
バックアップに頼れるのもワークスチームの利点。
キメラッシュは機体を左右に傾けながら駆けている。現実に上半身はそれほど揺れていないように見えた。ホライズンと同じくらいの機動戦が可能かもしれない。
「仕掛けてみる」
「OK。どうぞ」
レイミンもバックアップ配置完了を告げてきた。
障害物の隙間からの狙撃。そのままでは当たらない射線だったが相手は反応した。するりと躱してさらに接近してくる気配を見せる。
「自信満々。ひと当てしないと気がすまなさそう」
「だいじょぶ。フォローできる。行って、ビビ」
「よろ!」
チーム内でも最も機動戦を得意とする彼女が味見をすると判断。ユーリィの突進力も優れているが、やや直線的なので向いていない。威力偵察ならビビアンが適任である。
「驚くべき機動性を見せるキメラッシュ! これは面白い対比です!」
リングアナも注目する。
「両者、素早い動きでまもなく接触ぅー! この対決はどちらに軍配が上がるかぁー?」
キメラッシュのアームドスキンが連射してくるが林を貫いてくるのは一部のビームだけ。機動力を活かしながらの戦闘にはフラワーダンスに一日の長がありそうに思える。
(もっと近づいてみる)
ホライズンを走らせる。ときには左手の指をスティープルに引っ掛けて強引な旋回をしつつ相手を幻惑。そういう訓練も普段からしていた。
(ついてこれる?)
すれ違い様に感じる速度は相手のほうが上。やはり足を動かすよりは車輪の回転力が速度を叩きだす。構想は間違っていないかもしれない。
(でも、旋回性能はこっちが高い)
大きくまわり込むように旋回するキメラッシュ。対してビビアンのホライズンはポール一本を迂回するだけで方向転換している。射撃に入るまでの時間は短い。
二射交えると正面から攻撃してくる愚を避ける。一定の間合いを取りつつ牽制のビームを放ってきた。それも半数以上がスティープルに食われている。
「射撃慣れてないうちに仕留めたほうがいい気もする。どう?」
打診してみる。
「分析もう少し……、待って! ヴィア主任が無理しないほうがいいって。今から説明もらう」
「ラジャ。もたせる」
「じゃあ、遠ざけるねー」
レイミンの狙撃も来る。キメラッシュチームは狭隘を平気で抜けてくる彼女の正確な照準に慌てて回避をしている。若干の混乱が見られ、一機がプレートタイプのスティープルに激突して止まっていた。
「焦らなくてもいい。連中、こっちに合わせて投入したつもりなんだけど、実戦経験の足りなさが露呈してる。不利ってほどじゃない」
できた時間に彼女は接触したときの肌感覚をメンバーに説明する。速度差や旋回性能の違いは、いざ戦闘になったときに大きく作用するはずであった。
「機動力の差はちょっと難しいって感じてる。当てられるって言えないかも」
高速のアームドスキンに狙撃を当てる難易度の高さをレイミンは指摘する。
「スティープルエリアだとなおさらね。牽制以上は期待しないで」
「後衛の意見は了解。エナが吸いあげて作戦立ててくれると思う。前衛は?」
「問題ないにー。ビビのガンカメラ見てるから目は慣れてきたのに」
ウルジーも頷いて寄越す。
「問題なし」
「こっちはだいじょぶ。そっちは?」
「じゃあ作戦を伝えます。まずミンとサリの狙い所は……」
エナミの作戦にビビアンたちは傾聴した。
次回『対決への前進(3)』 「もしかして、うちのアームドスキンがどこ製なのかお忘れ?」