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友にして好敵手(3)

 作動ジェルのチューブが次々と外されてシリンダも取り外される。ミュッセルは非常に手際良く作業を進めていた。グレオヌスはただ部品を受け取る係になっている。


「ひと通り外したら取り付けする」

 今さらな手順の説明。

「終わったらジェルチューブを引っこ抜いて、タンクとコンプレッサも要らねえから取っ外す。そのあと制御器付けて信号ラインを繋げて動作テストすんぞ」

「結構大改修に聞こえるけどさ」

「それなりにな。右肩終わったら左肩だ」

 ずっと働かされそうである。

「力仕事は頑張る」

「おう、それが股関節に両肘、両膝って続くからよ」

「本気で?」


 予想外もいいところだ。次の試合まで終わるのかと不安になってきた。


「しゃーねーじゃん。お前のお袋さん、そこまでトルクアクチュエータ組み込んじまってんだ。周囲を固めるシリンダまで全部換装して、やっと本格的に主要関節が切り替えられんだ」

 他人の所為にしている。

「君の自己満足じゃないのを祈るよ」

「心配すんな。微妙にタッチが変わんだよ。駆動バランスも良くなっから」

「詐欺師にも向いてるかもしれないな」

 言いくるめられている気分になる。

「人聞き悪いこと言うんじゃねえ。見てみろよ。この構造は明らかに拡張性を意識してあんだろ?」

「いや、僕にはわからないから」

「そうか? 制御器が綺麗に収まってコネクタもユニバーサルになってるあたりが俺に変えろって言ってるけどよ」

「それはエンジニア同士でしか通じない言語だと思うね」


 横でマシュリも頷いている。グレオヌスに同意してくれているのかミュッセルに賛同しているのか読み取れない。


「で、僕は幾つのシリンダを運べばいい?」

 そこに行き着いてしまう。

「ああん? 86本だ。大したことねえ」

「了解だ」

「こんなに軽くちゃ筋トレにもなんねえぜ」

 いわれもないクレームまで付けられた。

「見て憶えてくだされば別々に作業を行えますよ?」

「あなたがおっしゃるほど簡単には思えないのですよ、マシュリ?」

「そうでしょうか。簡単な部類だと思うのですが」


(ああ、この人たちには僕の常識が一切通用しないんだ)

 ちょっと泣きそうになる。


「これが済んだらレギ・ソウルの機体重量はだいたい3%落ちる。それだけ加速も良くなんだぜ?」

 好条件を教えられる。

「なんとなくわかってきたよ。君たちがその3%に苦労してるんだろうってことは」

「やっとかよ」

「でも、僕たちパイロットはもっと装甲を厚くしてくれとか無理難題を言ってしまうんだろう」

 想像がつく。

「それだ! 本当に馬鹿なんじゃねえかと思うぜ。装甲厚くしたってビームもブレードも防げねえっつーの。紙っぺらじゃ適わねえがデブリの衝突で壊れねえくれえで十分だ」

「あと、君の拳骨くらいはってとこかな」

「違いねえ」


 美少年は油まみれになってゲラゲラと笑っている。その間も手は止まらない。


「ま、レギ・ソウルもブレストプレート方式になってっから作業もやりやすくて助かってる」

 ショルダーユニット基部が完全に露出している。

「衝撃にも強いし、一部はメンテナンス性も悪くない。良いとこばかりな気もするけどさ」

「そうでもねえな。開放するにはよ、胸部を覆う装甲パーツをこの肩のラインで切らなきゃなんねえ。接合部ができちまうんだ」

「ちょうど、この位置?」

 彼らが作業している場所である。

「おう。ハッチ方式だとこの部分はショルダーユニットの下で継ぎ目なんてねえだろ? そこに継ぎ目ができるってことは肩っていう肝心な部分の弱点が一つ増えるってことだ」

「確かに。若干防御が落ちるかな」

「気にするほどじゃねえ。が、気にならねえほどでもねえ。その程度ってとこか」


 何事にも欠点はある。ブレストプレート方式はコクピット周りの防御強化を謳いつつも一部を犠牲にしているのだそうだ。


「納得したか? 今日中に肘まで終わらせるぜ」

「おおせのままに、姫君」


 グレオヌスは足蹴にされながらも次のシリンダを手渡した。


   ◇      ◇      ◇


 培養液から取りだされた試作品は様々なテストに良好な反応を示す。主任研究員は予定どおりアームドスキンへの組み込み試験のスケジュールに着手していた。


「問題はなさそうだ」

「はい。このとおり腱形成もされていて、機械親和性も悪くなさそうです。見た目はあれですけどね」


 ぬらぬらとした表面の試作品は正直気持ち悪い。生物から取りだした筋肉とは違い、均質な棒状をしているだけにそう感じるのかもしれない。

 電気信号に応じて収縮するさまなどは丸っきり生体部品なのに、血の通っていない白さを維持している。彼らが生化学の専門家であるほど違和感を覚えてしまう。


「チャックによる締め付け圧には注意したまえ。耐圧は検証しているが、試験中に壊死したのでは適わない」

「理解しています。ですが、駆動確認も必要なのでそれなりのクランプ力が必要です。端部加工をしたくないですから」

「実用段階を見越せばな」


(推測どおりの性能を発揮してくれれば、この生体部品は世界を変えるぞ)

 小型軽量化にも大型機器の拡張性にも多大な貢献をする。


 主任研究員は作業状況をつぶさに観察していた。

次回『対決への前進(1)』 「ずいぶん面倒なギミックを使ってるものだわ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 準備は着々と。(ロマンスは?)
[一言] 回を追う毎に冗談を言う回数が増えていくグレイくんに、今日もニヤニヤしちゃいました。 バランスよく砕けてきましたね!
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