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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
戦い迫る

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挑戦は言の葉で(2)

(操るなってどういうことなんだ?)

 グレオヌスにはその言葉の意味がわからなかった。


 父の教えだ。操縦に関わることなのは確かだろう。しかし、理解におよびはしない。説き聞かせてくれるタイプでもないので、くり返し尋ねても答えは出まい。


(僕が自ら答えにたどり着くしかない。そう思ってレギ・ソウルに乗ってきたけど、未だに掴めない。父上の領域には届かないのか)


 足元が崩れそうな感覚だ。わずかに踏みとどまれているのは、ブレアリウスが告げてきたからの一語に尽きる。父は彼ならできると信じてくれているのだ。


(買いかぶりかもしれませんよ、父上? でも信じてくれるなら僕は……)

 恐怖を振り払う。


 負けるのは怖い。称賛を送ってくれている人々が手の平を返したように罵声を浴びせてくることもある。

 ミュッセルに見限られるのも怖い。グレオヌスならばと差し伸べてくれた手が落胆の果てに引かれるかもしれない。


(それより……)

 彼には怖いものがあった。


 σ(シグマ)・ルーンの向こうにあるもの。深淵のような暗い穴。その先にあるものに触れると帰ってこれないような気がする。なにもかもどうでもよくなってしまいそうで怖ろしい。アームドスキンが破壊兵器だとよく知っているがゆえに。


「手を伸ばせば……、もし破壊に酔うようなことになったら」


 醜態をさらしたエレイン・クシュナギどころでないバイオレンスドランカーになってしまうかもしれない恐怖が彼を捕らえて放してくれない。自制心に自信が持てなかった。


「レギ・ソウル、僕は君を信じてもいいのかい?」


 母の手掛けた機体である。間違いがあるはずもない。それが、どうあろうと兵器であっても。


「レギ・ソウル、君は僕を信じてくれるかい?」


 闘神(レギ)の魂はその名のとおりにグレオヌスに宿ってくれるだろうか。破壊でなく平和への闘争のために。


「行こう、万が一のときも正してくれる友が傍にいるうちに」


 深淵に足を掛けた。思い切って身を躍らせる。濃厚な闇の中に光が生まれた。光は繋がり流れとなってうねる。徐々に形をなしていく。それは紛れもなく人の形をしていた。レギ・ソウルという人の形を。


ここ(・・)か!」


 一体化した。みなぎる力がそこにある。衝動のままに押し流していくようなものではない。彼の意思を具現化してくれる大きな力が発現した。


「これは……?」


 鼓動のように力を生みだす対消滅炉(エンジン)。血潮のようにチューブを流れるプラズマ。それを糧に力を増す駆動ジェルのうねり。そして、マッスルスリングのたわみまでもがグレオヌスの感覚と一つになる。


「これがアームドスキン(・・・・・・・)か!」

 感動が自然と口をつく。

「やっとこっち側に来たのかよ、グレイ?」

「ミュウ、君はこの領域にいたのか?」

「はん、俺はここに来れる機体を作るために苦労してきたんだって」


 だからミュッセルは人と同じ働きをする構造や駆動系を求めてきたという。アームドスキンと完全に一体化するために。その意志も力も具現化してくれる器として。


「とうぶんお前との真剣勝負は遠慮すっか。操縦技術だけで俺と五分にやる奴が掴んじまったら敵わねえよ」

「そんな冷たいこと言ってくれるな。せっかくの僕たちの共通言語なのにさ」


 レギ・ソウルの五体はグレオヌスの意のままである。それだけではない。索敵パネルを確認せずとも障害物(スティープル)の位置が手に取るようにわかる。センサーまでもが彼の神経系と繋がっているかのようだった。


(こんな世界があったのか。僕はなにを怖がっていたんだ?)

 今までの恐怖を悔いる。


 幼いときから戦闘を見すぎていたのかもしれない。その先にある無惨な光景ばかりを。戦いが生む人の心の闇ばかりを。

 別の側面もあると理解はしている。広い視野で見れば苦しみを拡散させずに一部に留めておく措置であると。概念としか映っていなかった。


(どこかでアームドスキンを破壊の権化と感じていた。それが怖れの源泉だった)


 今は勘違いだとわかる。アームドスキンは兵器なのだ。人が用いる力の象徴でしかない。破壊を行っているのはアームドスキンではなく人なのである。それを戒めるのも人の意思でなくてはならない。


(意思を顕現させる器。それがアームドスキンなんだ)


 結論が狼頭の少年の頭に綺麗にはまり込む。不動のものとして意識の中心に据えるがごとく。考え方、在り方の起点として。


(そう、操るんじゃない。振るうんだ。自らの力として)


 左足を引く。さらさらとした人工砂の地面を掴む感触がする。斜め下から跳ねてくる斬撃を紙一重で躱す。力場が放つ熱が肌を炙るように感じた。ビームコートが蒸発して失われている。身体の各所にそんな場所があった。


「これなら!」


 右足を滑らせる。機体はスピンし、剣先はアングル型のスティープルをかすめたのみ。抜けた剣身をリフレクタの下、数cmのところへ入れる。そこで重心をわずかに前へ。自然と踏み込み、スムースに相手のボディを舐めていった。


撃墜(ノック)判定(ダウン)! やはり剣士(フェンサー)一人ではブレードの牙持つウルフガイを押さえきれないー!」


 リングアナの声を背にグレオヌスは駆けだした。

次回『挑戦は言の葉で(3)』 「本物の剣闘技ってのを教えてもらえよ」

今日で集中更新を終えます。明日より朝7時一回の更新です。またストックが溜まったら再開しますのでお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 覚醒し(めざめ)た!?
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