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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
狼の休暇の過ごし方
137/409

翠華杯スタート(5)

 攻勢を掛けようとしていたチーム『センチネルボーイズ』があっさりと退いていく。傍受していたフラワーダンスのチーム回線の会話に踊らされていたことに勘づいたらしい。


「ゲリラ戦にスイッチする気だろうな」

 兄の言葉に目を向けるへーリテ。

「前衛が一つ落とされた。残るトップはもう一人。正攻法ではひっくり返せないと読んだのさ」

「これだけ隠れるとこ多いから一機分の不利くらい取り戻せる?」

「普通なら。さあ、そんな消極策でフラワーダンスの展開スピードに対抗できるかな?」


 後ろを取るまでいかなかったビビアンはメンバーと合流。逆攻勢に向けてシフトを整える。リーダーを中央にサイドをユーリィとウルジーが固めて追撃に移る。


剣士(フェンサー)の位置はここ。でも囮」

 エナミは断言している。

砲撃手(ガンナー)は方向しか掴んでない。真っ向からいくと側撃が待ってる」

「十中八九ね」

「だからウルとミンで遊撃させる。ビビは単機でいけるし、サリは索敵できるから」


 俯瞰カメラで見ればエナミの予想は当たっているとわかる。剣士(フェンサー)が退くルートに砲撃手(ガンナー)が伏兵の網を張っていっている。

 そこへ飛び込む愚を犯さず慎重に進める提案。しかし、そこにも迷彩が仕込まれていた。ウルジーが別行動を取るのは本当だがビビアンも下がり気味。


「これで向こうのコマンダーは索敵ドローンをウルとリィに付ける。目が散った間にビビがまた離れるだろうな」

 グレオヌスの解説は明確だった。

「ほんとだ。ちょっとずつ遅れてる」

「ああやって尾行を切る。相手は正面に捉えているつもりで裏を取られてる」

「バラバラに動いてるの危険な感じするけど作戦なのね」

「決まった範囲、決まった数で対するとゲーム性を帯びてくるのさ」


 剣士(フェンサー)はウルジーペアを引き寄せているつもり。ユーリィペアの索敵に注意しつつ落としに掛かる。だが、すでにビビアンが動いていた。ミュッセル曰く、サリエリが発見した敵を口頭で報告せずリンクで流しているだけなのだそうだ。


(暗黙の了解でこんなことまでできるのとかすごい。ずっと一緒に組んで連携を超えた絆で結ばれてる感じ)

 嘘はついていないが、話していない部分に真意が含ませてある。


 ビビアン機が膝立ちで姿勢を固定して狙撃する。距離があったのでリフレクタで受けられる。しかし、反動で体勢を崩したところにサリエリの狙撃が刺さった。

 砲撃手(ガンナー)が落ちると動揺が広がって連携が切れる。剣士(フェンサー)が反転して遊撃するウルジーを叩きにきた。が、不慣れなスティックに苦戦する。


「ほい」

「なっ!」


 ブレードをかち上げられて開いたところへ即座に避けるウルジー。ブラインドで撃たれたビームが直撃して一発撃墜(ノック)判定(ダウン)

 側撃を仕掛けようとしていた砲撃手(ガンナー)もユーリィに捕まる。一気呵成に攻められ、間に狙撃まで挟まると幾らももたない。


「くぅ」

「残念。迷ってる暇は無しね」


 残った砲撃手(ガンナー)が背後から狙おうと移動しかけたところへ、さらに背後からビビアンが駆けつける。離脱する間もなく至近距離でのビームに被弾して転倒した。


「ノックダウーン! 勝者『フラワーダンス』! 危なげなく三回戦に駒を進めたぁー!」


 センタースペースに集まったメンバーは堂々と勝利を誇る。ハイタッチをする姿にアリーナからの声援はやまなかった。


「若さというのは怖ろしいものだ」

 ブレアリウスがぽつりとこぼす。

「だろ? こいつら、あんたに習った足捌きをもうものにしてやがる。あんまり余計なこと吹き込んでくれるなよ」

「肝心なことは教えていない」

「戦士の心得ってやつか? 生きるか死ぬかなんてリングには必要ねえんだよ」

「お前が知っているのはどうかと思うがな」


 へーリテはミュッセルの笑い方が父のそれに似ているのが不思議でならなかった。


   ◇      ◇      ◇


 別れの日にグレオヌスは両親とブーゲンベルクリペアに残っていた。妹はフラワーダンスメンバーやミュッセルと最後の街歩きに出ている。


(気を遣われたかな)

 おそらく両親との時間を作ってくれたのだろう。


「グレイ、お前、あれと肩を並べるのが苦になっているな?」

 父に図星を指される。

「はい。たぶん今のミュウのヴァンダラムと手合わせすれば勝てません」

「心苦しいか?」

「少し」

 負い目になっている。

「もう練習機は卒業でもいいな?」

「ええ」


 レギ・クロウの整備コンソールでデータを見ていた母も賛同している。なにごとかと目を向けた。


「『レギ・ソウル』の二番機を置いてゆく。使え」

「父上?」

 それはブレアリウスの駆る後継機のコードネームだった。

「今のお前なら使えるだろう。よいな?」

「大丈夫よ。レギ・クロウがこれだけ動いているなら」

「母上……。ありがとうございます」

 そっとハグされる。

「あの娘ら相手でも見劣りすまい」

「かなりシャープな機体だから気をつけてお使いなさい」

「必ずや。母上の名を汚すような成績は残しません。学校でも、リングでも」


 両親の愛を感じる。大事に育てられた自覚がある。あとは期待に応えるべく羽ばたいてみせることだ。それが最大の親孝行だと思う。


 グレオヌスは寂しさなど感じている暇はないと誓った。

次はエピソード『戦い迫る』『レギ・ソウル』 「ゴリゴリの実戦用アームドスキンってな雰囲気じゃねえか」

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― 新着の感想 ―
[一言] グレイ君にもついに新しい機体が……! これは、フラワーダンスチームと当たった時にどうなるのかとても気になりますね!
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