翠華杯スタート(4)
「そして北サイドからは今トーナメントの目玉! 女王杯優勝チーム『フラワーダンス』がシードで登場です!」
リングアナの宣言にアリーナがドッと湧く。
「ヘーゲルの革命アームドスキン『ホライズン』で先頭を切るはチームリーダー『二刀流』ビぃービアン・ベラぁーネ選手ぅー!」
赤ストライプの機体が歓声に押されるようにセンタースペースへと歩を進める。その一挙手一投足に声援が送られていた。大人気チームに昇格である。
彼女がビームランチャーを携えていることで期待の声はやまない。安定した足運びに、他の選手が登場する間もずっと応援が降り注ぎつづけている。
「今シーズンの翠華杯はどこのチームが最強の座に輝くのか!? 四天王トップチームが順当に優勝を手にするか? あるいは新星の如く現れた『フラワーダンス』か? はたまた破天荒な『ツインブレイカーズ』か? 誰にも予想できません!」
リングアナのフレディ・カラビニオはここぞとばかりに煽りにいく。それを受けてアリーナも興奮の渦に包まれていた。
「一回戦終わったからって気が早えぜ。まあ、俺たちがいただくがよ」
へーリテがうかがうとミュッセルの獰猛な笑みに当たった。
「勝つ気なの?」
「当然」
「でも、テンパリングスターを負かしちゃったから研究し尽くされるってビビさん言ってた」
四天王の一角を切り崩している。
「まだまだこんなもんじゃねえぜ。ここしばらくで、俺がほんとの本気で戦ったのはリッテの兄貴だけだかんよ」
「すごかったって聞いた。観たかったなぁ」
「おう、激アツだったぜ。試合もグレイもな」
グレオヌスは静かに微笑んでいるだけでなにも言わない。それだけ壮絶な一戦だったのだろうか。
「それでは試合を開始します! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」
詳しく聞く暇もなく試合が始まる。一言も交わすことなく両チームのアームドスキンが障害物の林へと消えていった。非常に静かな立ち上がりである。
「ここならチーム回線も入る。盗み聞きしようぜ」
ミュッセルがコンソールを操作する。
「回線傍受も有り。私の誘導も漏れてるかもしれないと思って」
「ラジャ!」
「向こうの目だって十分じゃない。こっちの位置が把握されてなければ問題なし。上まわる機動力で取りに行くわよ」
ビビアンの威勢のいい指示が飛んでいる。
「左展開。ビビ殿で」
「わたしが三基目のドローンをやる。掴んで」
「よろ。気をつけて」
ホライズンは右回りに動きはじめる。サリエリがスティープルに留まって索敵に専念し、その防御にビビアンが残っていた。
「もう狙ってきた」
サリエリ機が障害物の裏へ。
「射線あり。分析」
「承り。ウル、先行。罠張って」
「うい」
戦列を作りつつウルジーが残る。
「エナはやらしいぜ。これ、聞かせてる気なんだからよ」
「エナさんが?」
「ああ、伏兵があると思わせる。相手に警戒させるもよし、ドローンを一つ割かせるもよし。どっちにせよ有利に働く」
兄も賛同する。
戦略的な判断をしつつも戦術的指示を行っているという。普段のおっとりしている様子からは思いもよらない。
「っと、身内に聞かせるような台詞じゃなかったか」
「かまわないわ。あの子の資質はわたしも知っておきたいもの」
ユナミは鷹揚にかまえている。
「後継者に仕立てあげる気か?」
「いいえ、彼女が将来の望みを口にしたときに助言するため」
「それがあんたの椅子でもってわけだな」
大人の会話をしている。兄だけでなく、赤毛の少年も見た目に違えて意外と大人なのだと思わされた。
「ウルに食いついた。リィ、フォロー急いで」
「はいにー!」
各個撃破に動いたセンチネルボーイズのアームドスキンがウルジー機に集中していく。
「合流したら下がる。ビビは裏に入って」
「見えた。一射入れた」
「OK、ミン。こっちからも確認」
砲撃戦が始まる。俯瞰映像で障害物を縫う輝線が走った。応射もあるが途中で途切れるのは鋼材に当たっているからだろう。
「動線分析見て」
エナミが素早く対応する。
「どっちに賭ける?」
「右」
「乗った」
後衛組が移動する。
「ドローン、キャッチ。正解。待って。四つ」
「一つは?」
「こっち。迂回入れてた。仕留める」
保険に動いていたビビアンのホライズンが速度を上げる。裏に回ろうとしていた剣士を捕捉していた。牽制砲撃を入れて足留めすると急接近する。
「ここで激突だぁー! ビビアン選手、走るぅー!」
するすると障害物を躱しながら接近するホライズン。アナウンスで察した相手は動きを止めて警戒するが、予想外の速度で飛び込んできた。
咄嗟にブレードをくり出すも宙を裂く。スライディングしたビビアンがすり抜けつつ脇腹にビームランチャーを向ける。ビームが炸裂すると反動でプレートに叩きつけられた。
「ノックダウぅーン! 最初に落ちたのはセンチネルボーイズぅー!」
即座に機体を立て直したビビアンは走りつづける。欠片の油断もなく追い詰めにいくつもりのようだ。
「速い。こんな機動戦をするの?」
「驚いたかい? 彼女たちはこのペースで練習もしてるから相手するのも大変だ」
兄の口振りにへーリテはゲームと呼べる範囲を超えていると感じた。
次回エピソード最終回『翠華杯スタート(5)』 「決まった範囲、決まった数で対するとゲーム性を帯びてくるのさ」