表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
狼の休暇の過ごし方
135/409

翠華杯スタート(3)

 レギ・クロウの固定カメラドローンの映像を見ていると、ダードルズのアームドスキンはショートジャンプをくり返しつつ迫ってくる。牽制のビームはグレオヌスのブレードガードで捌かれているが距離が詰まるほどにそれも難しくなる。

 しかし、へーリテの兄は特に動くでもなく待っていた。すり抜け様に砲口が向くのも冷静に見ている。事実、トリガータイミングは合っておらず、通り過ぎたあたりでビームが発射されていた。


「我らがショートレンジシュートアタックを見事に躱したな」

「1mmも動いてないし」


 明らかに不慣れな動作でじたばたと方向転換するゼムロンの一隊。姿勢も定まっておらず、挟む攻撃も怪しい照準でしかない。


「なにこれ、コント?」

「色々なチームがおりまして、なにぶんこのチームなどはほとんど練習もしていないような選手たちなので」

 ユナミの補佐官が解説してくれる。


 兄は落ち着いて直撃しそうなビームだけを払っている。リフレクタを使うまでもないという風情だった。

 対して赤い機体は激しく動きまわっている。当たりそうにもない軌道の光条を大きく避けながら踊っていた。


「はっ! ほっ! っとぉ!」

「器用に躱してくるぞ。もっと散らせ」

「いや、最初から散ってるし」


 軽やかなステップに合わせてバク転や側転、宙返りまで混じえている。それに合わせてアリーナの観客が手拍子まで刻みはじめた。


「こんなショーみたいな試合も組まれるです?」

「いいえ、真面目なのですよ。ミュッセル君はお客さんを楽しませようと道化を演じてくれますけど」

 ユナミはわざとだと言う。

「そうなんですね。ミュウお兄ちゃん、遊んでるんだ」

「いや、あれは簡単ではない」

「ええ、見た目よりもずっと」


 ブレアリウスは楽しげに口端を上げている。デードリッテは興味深げに見入っていた。確かに一瞬たりとも止まらず動きつづけている。見事なバランス感覚だと思うが、へーリテにはその難しさまではわからない。


「そろそろ反撃といくぜ」

「む!」


 跳ねとびつつするすると接近して足を払う。転ばせた機体の脚を掴んで放り投げた。ちょうどレギ・クロウのところまで滑っていく。


「僕に処理しろと?」

「しゃーねーだろ。こいつらみてえな下手くそを怪我させずに撃墜(ノック)判定(ダウン)取るの面倒なんだよ。ゼムロンを壊すのは忍びねえしよ」

「確かに! クロスファイト運営の整備班が涙を流して喜んでいるでしょう!」

 リングアナまで乗っている。


 不承ぶしょうにグレオヌスはブレードを突き立てていく。起動停止させられたゼムロンが積み重なっていき、最終的にツインブレイカーズの勝利宣言がなされた。


「お兄ちゃん、活躍する暇なかったね?」

「ええ、でもとても参考になったかも」

 母は残念に思っているかと問い掛けたが楽しそうにしている。


 よくわからないままにリングが整備されるインターバルを過ごしていると、兄とミュッセルもVIPルームに案内されてきた。すぐに駆け寄る。


「おめでとう、お兄ちゃん」

「ああ、ありがとう、リッテ。出番なかったけどさ」

「う、うん。全機、お兄ちゃんが撃破したことになってるよ?」

 記録だけに言及してフォローすると兄は苦笑いしていた。

「さあ、抽選が始まるな。もしかしたら午後も試合があるかもしれない」

「だったらちゃんと栄養補給しとかないと」

「そうね。ありがたくいただきましょう」


 ランチが準備されている。大した量ではないが趣向が凝らされたものだった。


「さすがに次は来週みたいだ」

 手を伸ばしているうちにリング上に巨大パネルで組み合わせが発表された。

「残念」

「ま、次はフラワーダンスの試合だからさ。応援してあげるといい」

「ビビさんたち! そうだった」


 試合相手が決定した。奇しくも同じAAA(トリプルエース)クラスのチーム『センチネルボーイズ』だ。


「慎重派のチームに当たっちまったな。こいつは地味な試合になんぜ」

 ミュッセルが戦績(データ)を調べながら言う。

「そうなの?」

「電子戦系のメーカーと契約してるカスタマーチームだ。普通に考えりゃ、ねちっこい攻撃をしてくんだろうな」

「あり得るな。障害物(スティープル)を使った探知戦みたいな感じかも」


 グレオヌスが戦闘状況の映像よりはドーム天井の俯瞰カメラのパネルを勧めてくる。そうでないと状態がわからないと言われた。


「一転してタクティカルバトルね。バラエティに富んでいて楽しい」

 デードリッテは純粋に喜んでいる。

『注意して観ておいたほうがいいわ。ホライズンは他とは違う機体ですもの』

「シシルがそう言うならば」

『ええ、市販機として出まわる可能性がありますの』


 シシルが場合によっては父の攻略対象になる可能性を示唆している。若干ではあるが、空気が引き締まったように感じる。


「楽しんでくれよ。あいつら、面白え試合すっからよ」

 ミュッセルが和ませる。

「孫娘も意気込んでおりますので観戦してやってくださいな」

「エナさん、気合入ってた。お兄ちゃんたちと当たるまでに勝てるチームにするって」

「愉快なこと言ってくれてんじゃん。見せてもらおうじゃねえか」

 赤毛の少年は不敵な笑いを見せている。

「研究しておかないとな。もっとも、どこのチームのスカウトも血眼で粗探ししてるんだろうけど」

「まだ早え。今見つけたってすぐ潰されるような攻略法なんて意味ねえぜ」

「ああ、もう少し落ち着いてからか」


 兄たちはフラワーダンスをライバル視しているのだとへーリテも理解した。

次回『翠華杯スタート(4)』 「ここしばらくで、俺がほんとの本気で戦ったのはリッテの兄貴だけだかんよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ