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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
狼の休暇の過ごし方
134/409

翠華杯スタート(2)

 時は流れて週末。一週間の見学を終えて、今週は両親と過ごしていたへーリテは楽しみにしていたクロスファイトドームにやってきた。


(すごい活気。アリーナで観てみたかったかも)


 案内されたのはVIPルームである。しっかりと防護も効いて安全で観やすい環境は整えられているが、アリーナ含めての一体感には欠ける。


(お父さんやお母さんはアリーナに行かせられないものね)


 ましてや今日は同席者もいる。本局長のユナミ・ネストレル、エナミの祖母に当たる人物だ。


「お子さんの試合を皆が楽しみにしていらっしゃいますよ」

 穏やかに説明している。

「多少は慣れてきただろうか」

「ええ、こういう場は面食らったでしょうね。ブルーは実戦しか教えていないもの」

「見応えがあると好評です」


 会話が交わされているうちに時間がやってくる。(サウス)サイドから対戦チームの入場が始まった。


「第一回戦最終ゲームとなります! 挑戦者サイドからの登場はチーム『ダぁードルズ』! ノービス2クラスでの参戦! なにごとも雑な彼らがどこまでいけるのか楽しみです!」


 入場してきた五機は全てが砲撃手(ガンナー)である。かなり消極的な構成だが、今の風潮だと断言できない。


砲撃手(ガンナー)のみか。それもレンタル機ではな」

 父は間合いを詰めれば楽勝だと考えている様子。

「そうでもないかも。今のトレンドはショートレンジシューターだもん」

「わたし、少し観ちゃった。走りながらガンアクションするスタイルね」

「それをゼムロンでやるのか?」

 へーリテやデードリッテの主張にブレアリウスは懐疑的である。

「たぶん」

「重いだろう」

「それもたぶん」


 見るからにのしのしと歩くアームドスキン。いくら反重力端子(グラビノッツ)を効かせても軽快に走りまわれるようには見えない。


「わたしがシュトロンをカスタマイズしたって噂が流れているの。困ったものね」

 母は迷惑そうに言う。

「お前があんなもので満足するわけがなかろう」

「ええ、ノータッチです」

星間()管理局()興行部()の依頼で軍務部の工廠に設計させたものです。強度だけは仕様をクリアしているという話ですが如何にもですね」

 あまりウケの良い機体ではないとユナミはいう。

「嫌んなっちゃう。本物を投入してやろうかしら」

「間に合せですよ。急ピッチで開発も進めておりますの。お待ちになってくださる?」

「はーい」


 デードリッテは生返事をしている。あれは、もう頭の中でタスクが動きはじめているサインである。


(お母さん、作っちゃうね)

 へーリテは確信した。


「対するはチーム『ツインブレイカーズ』! 碧星杯で大波乱を巻き起こした噂のチームがここで見参だぁー!」

 リングアナのボルテージが上がる。

「まずは『天使の仮面を持つ悪魔』! 『紅の破壊者』! ミュッセぇール・ブぅーゲンベルぅーク選手ぅー! 乗機はヴァンダラム!」

「帰り道に気ぃつけろ?」

「おおっとー! わたくし、アナウンサー生命の危機に瀕しております! もしものときは観客の皆様、証言をお願いいたします!」

「安心しろ。そんときはこの世にいねえ」


 噂に聞いていたコミカルなやり取りが交わされる。上のアリーナからは笑い声が漏れ聞こえてきていた。


「続いては『狼頭の貴公子』! 『ブレードの牙持つウルフガイ』! グレオヌぅース・アぁーフ選手ぅー! 乗機はレギ・クロウ!」

 一旦立ち止まって礼をする兄。

「ワイルドかつプリティな容姿で今日も乙女心を奪っていくぅー! なんと罪作りな少年なのでしょうかぁー!」

「人聞きの悪いことを言わないでくださいよ」

「運営は公式ファンクラブを立ち上げるとか立ち上げないとか!」

「ただの作り話じゃないですか!」


 歯切れのいいツッコミを入れる兄などついぞお目に掛かったことはない。しかし、感化されたか若干様になっている。


(人は変わっていくのね、お兄ちゃん……)

 少し悲しい気分になってしまった。


「お待たせしました! では試合を開始しましょう! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 VIPルームからも遠目にセンタースペースが拝めるがいささか遠い。カメラドローンの映像がパネルに表示される。気を利かせたか、レギ・クロウを光学ロックした背後からの映像も付けられていた。


「新参の暴れん坊どもめ、我らダードルズのショートレンジシュートアタックを食らうがいい!」

 宣言する。

「おい、あんなこと言ってんぞ?」

「ああ、作戦がモロバレだね。黙っていれば効果的だったかもしれないのに」

「そんなこと言って遠距離で仕掛けてきたらどうする?」

 これもオープン回線での会話。

「裏かぁ」

「まあ、待て。裏の裏かもしんねえぞ」

「エンドレスだな」


 口車に乗せられる相手チーム。出るも引くもできなくなっている。ヴァンダラムなど呑気に腕組みをしていた。


「おのれ、言葉で翻弄してくるとは侮りがたし」

「まさか、本気で詰めてくる気かよ」

「裏もないとは恐れ入るな」

 ミュッセルはさり気なく半身にかまえた。

「ぐ……」

「それ言っちゃ駄目だって、グレイ。可哀想じゃん」

「失言だったな、申し訳ない」

「こ、攻撃ー!」


(そんな挑発までできるようになっちゃったのね)


 一本気で融通の効かなかった兄が順調に社会性を得ていて、へーリテは安心した。

次回『翠華杯スタート(3)』 「ええ、見た目よりもずっと」

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