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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
狼の休暇の過ごし方
121/409

トレンドリーダー(1)

 自主休業中のブーゲンベルクリペア。どうしても断れないお得意様の仕事だけ請けていたが、それも週末には履けた。広いメンテスペースにあるのはヴァンダラムとレギ・クロウだけである。


(アピールチャンスだものね)

 両親は旅行中。エナミはここぞとばかりに訪っている。


 本当は二人の食事の世話をする話だったのが、拡大してトーナメントの打ち上げパーティーになってしまった。残念ながら個人的な見せ場を作れずフラワーダンスの女子でブーゲンベルク家のキッチンを占領している。


「助かるぜ。自動調理器(オートクッカー)があるにせよ飽きが来てよ」

 わいわいと賑やかなキッチンを横目にミュッセルが言う。

「食べに出ようにもさ、ヘーゲルショップにリフトバイクを預けちゃってるから遠出もできない」

「例のお礼?」

「そう、ラヴィアーナさんが引き取って最高のカスタムしてくれるってね」


 買い込んだ食材を自動調理したりデリバリーを頼んだり近場のレストランに足を運んだりとバリエーションを加えてやり過ごしているらしい。

 そこが女子たちの狙い目になってしまった。独自に打ち上げを画策していたのをブーゲンベルク家が都合のいいスペースを提供する形に収まっている。


「マシュリ、監視頼む」

「わたくしも料理はできませんが」

「おかしな冒険と余計な探検だけしねえように見ててくれ」


 それはエナミも気掛かりだった。女子も集まれば悪ノリするものである。せっかくのチャンスを料理の失敗で棒に振りたくはない。彼女は母の指導でそれなりにできるのだから。


「グレイ、コーティング剤のカットの続きやんぞ」

「なんでこんな塊で発注するのさ?」

「スペース食わねえからだよ。粉末でも売ってるが袋の分が邪魔。砕く手間掛けりゃ場所取らずに置いとけるじゃねえか」


 それに安上がりだという説明が続く。寝室以外は全て続き部屋(オープン)であるブーゲンベルク家ならではの光景が展開されている。


「なんで切ってるのに?」

 料理に興味のないユーリィは二人のほうに行ってしまった。

「そのままじゃ吹き付け機(コーティングマシン)の溶解槽に入んねえからだよ。溶けるのにも時間食っちまう」

「小さいブロックで売ってないのに?」

「そしたら箱で届くじゃん。開梱すんのも箱処分すんのも金が掛かんだ」


 だからクレーンでないと扱えないような塊で発注するらしい。コーティング剤そのものは透明のアクリルみたいな大型ブロックだった。

 フラワーダンスの面々も興味深げに聞いている。レンタル機を使い、今度はメーカーの機体(マシン)を使う彼女らには無縁の作業なのだから。


「うっし、準備すっか」

「テーブルを出せばいいな?」


 切削作業を終えて溶解槽に資材を放り込んだ男子組は打ち上げ準備に掛かる。力自慢のユーリィと料理に飽きたレイミンはそっちに加わった。


「意外でしょ? うちの中だとウルが一番料理上手かったり」

「うん、びっくり」

「地道な作業好き」


 テキパキとこなして見た目もよく盛り付けていく。手料理にしてはなかなかなものができあがり、テーブルに並べられていった。


「じゃ、改めておめでとー。ありがとー」

「かんぱーい」

 一週間を置いて打ち上げが始まる。

「練習しねえでいいのか? サボってたらすぐに追いつかれっぞ?」

「今ホライズンがないんだもん。一度解体されて全品応力検査だって」

「本チャンのオーバーホールか」

 ミュッセルにはすぐにわかったようだ。

「トーナメント四戦でどんくらい疲労してっか調べてえんだ」

「細かいんだな」

「戦闘艦じゃそこまで手ぇ出せねえじゃん。いつバトるかわかんねえんだろうし。そういうとこだと交換対応だな」


 試合後翌日から解体されている。あれからメンバーは鈍らない程度に交代でシミュレータを使うだけの練習になっていた。


「対戦申し込みもあるけどヴィアさんが断ってる」

 親しくなったスタッフも愛称呼びになった。

「チームとしては対戦データが欲しいところだろうな。正直、計りかねてるだろう」

「映像分析かけたら違いくらい出るんじゃない?」

「そうでもないんだ、サリ。実際に手合わせしないと反力とかが測定できない。パワー推定もできてないな、きっと」


 グレオヌスの説明は合っている。申し込みのほとんどはワークスチームである。ホライズンの分析作業を焦っている様子。


「連中も思い知ったんだろうぜ。目玉機能がねえと勝てねえ時代が来る。勝てねえと対戦チャンスが減る。減ると開発に遅れが出る」

 時代の流れを解いていく。

「ヘーゲルの動きは星間管理局の趣旨に合っている。中途半端に落ち着きを持ちつつあったクロスファイトに新風を送り込むのに一役買うと。密約があったんじゃないかと思えるくらいだ」

「そうなの、グレイ?」

「あくまで推測の域を出ない。ま、陰謀論レベルだな」

 肩をすくめている。

「いいじゃんよー、対戦申し込みあんだから。ツインブレイカーズなんて見てみろよ。マッチゲームはどこも受けてくんねえぜ」

「あんたが壊すからでしょ! テンパリングスターのフィックノスの有り様なんて悲惨だったじゃない」

「あそこで新しい奥義なんて出すから」

 非難の的である。

「しゃーねーじゃん。間合い取ってまともに勝負してくれねえ奴が悪ぃ」

「するか!」


 エナミは、ビビアンのツッコミに鼻を鳴らすミュッセルの頬を突付いて笑った。

次回『トレンドリーダー(2)』 「はいはい、いい子いい子」

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