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デュアルウエポン(5)

 常にディフェンディングチャンピオンであったプライドだけではない。クロスファイトというゲームを楽しむのがメインになっている。ステファニー・ルニエの心は弾む。


(こんなバトルができるなんて。だからクロスファイトはやめられない)

 痣だらけになってモデルを干されてもいい。


 赤ストライプのホライズンが走っている。ブレードの間合いから逃げるためではない。自分の間合いに持っていくためだ。


「勝手させるもんか!」

 ヤコミナが援護射撃してくれる。

「そこ」

「なんっ!」


 応射された。当然だ。ビビアンが持っているのはブレードではなくビームランチャーなのだから。彼女を狙える位置は彼女からも狙える位置なのである。


「射線、あり。ミン、狙えそ?」

「ちょ、無理だった。少し動く」

「はいな」

 しかもビビアン機の砲撃が狙撃手の位置を示している。

「エナが捕まえたって。誘導してもらう」

「索敵見えた。挟む?」

「できたら」


 これで迂闊に狙撃ができない。オープン回線での会話も意図的なものだ。


(なんという連携。元からタクティカルチームだったけど、さらに洗練されている。勝ちを拾うなら速やかにビビアンを落とすしかない)

 そう思わされている可能性もあるが選択肢もない。


「勝負!」

「受けて立つ!」


 リフレクタをかざして走る。ビビアンのビームに叩かれる。それでも突き進んだ。自身の本領である距離をキープするために。


「度胸は認める。新しいことは怖いものだ」

 ブレードを振りかぶる。

「しかしビームインターバルは消えない」

「だと思う? あたしは連射しない。常に撃てる状態にしてる。連射しないほうの恐怖を克服したから」

「敬意を示そう。だが、わたしが勝つ!」

「負けられない理由がある!」


 ブレードはリフレクタで滑らせて流される。反動で機体も横滑りするが、スライディングしながら筒先を向けてきた。間一髪で躱す。


(することは同じ。追い詰めた狙撃手を仕留めるときの要領でいい)


 ところがホライズンはもう立て直している。驚くべき足回りの粘りだった。追い打ちのブレードは容易に躱されてしまう。


「それがお前の答えか」

「そうよ。相手によって武器を持ち替える。戦術によっても持ち替える。一番自分が活きる戦い方をする。ホライズンはそれを許してくれる」


 半身でビームを避ける。切っ先を飛ばすとビビアンは仰け反って躱した。そのままビームランチャーを地に着けバク転する。着地した瞬間に横っ飛び。落ちた剣先が跳ねあがってきていたからだ。


「素晴らしい。最高の好敵手だ」

「あなたは強い。でも負けない」


 横滑りして低い位置からビームランチャーが狙ってくる。リフレクタを押しつけた。右手まで添えて反動を逃がす。避け際にブレードを突き入れるつもりだった。

 しかしビビアンはさらに踏み込んでいる。肩を当てて押し退けながら砲口を上に向けてきた。ブレードの間合いのさらに内である。


「なんと!」

「こうでもしなきゃ!」


 頭部が被弾判定を受ける。モニタがブラックアウトした。咄嗟にバックステップして回復までの時間を稼ぐ。


剣士(フェンサー)同士のバトルならそれで良かった。でも今のあたしは砲撃手(ガンナー)だわ」

「んぐぅ!」


 迂闊さに変な声が出た。恥ずかしさより悔しさのほうが勝る。無念で胸が満ちる。


「ヤコミナ!」

「ステフ?」


 ビームが着弾してヨゼルカが機能停止する。発信はできなくなった。残された戦友の悲鳴。それも長くは続かなかった。


撃墜(ノック)判定(ダウン)! とうとうデオ・ガイステが落ちたぁー! 勝者ぁー、チーム『フラワーダぁーーンス』!」

 アナウンスも最高潮である。

「女王杯・虹、優勝ぉー!」


 アリーナがドッと湧いてなにも聞こえない。回復したモニタに赤ストライプのアームドスキンが映っていた。


「ナイスファイト」

「お互い様よ。嘗めないで真剣に戦ってくれてありがと」


 ステファニーは助け起こされた。


   ◇      ◇      ◇


 全員で駆け寄る。ホライズンの輪ができた。ブレストプレートを跳ねあげてお互いの顔を見る。皆が情けないくらいに涙で濡れていた。


「勝った。優勝した。ほんとよね?」

「ほんと。もう誰にもなんにも言わせない。ワークスチーム『フラワーダンス』の誕生よ」

「最高にー。まだゾクゾクするに」

「報われた。これまでで一番頑張ったんだもの。当たり前!」

「機体に名前書いていい?」


 素っ頓狂なことを言うウルジーに皆で笑った。泣きながら大笑いした。嬉しくて皆で肩を組み輪を作った。しかし、これで全員ではない。


「みんなで!」


 手を差しだす。入場ルートの向こう、エンジニアルームへ。そこには顔を覆って号泣しているエナミがいる。

 後ろからラヴィアーナに促されて顔を上げた。涙だらけになった手が差しだされる。皆で輪になった。離れていても共有できる。


「応援してくれたみんなもありがとー!」

「感動のドラマが待っていたぁー! リングに、アリーナに来てくれてありがとう! どうか彼女たちに盛大な拍手をぉー!」


 アリーナの輪からビビアンたちを含めた皆を称える声が響き渡った。

次回エピソード最終回『祝勝』 「あなた方は今日から正式に我が社の一員です」 

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― 新着の感想 ―
[一言] 『フラワーダンス』の皆、おめでとうございます! 機体性能はもちろんですが、やっぱりチームワークと皆の努力の賜物ですね!
[一言] 更新有り難うございます。 ……サッパリとした女性陣に比べ、 男性陣(敵チーム)の当て馬感が……!?
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