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デュアルウエポン(4)

「削られたけど結果は変わらない」

 ヤコミナがチーム回線を使う。

「アームドスキン『ホライズン』を研究しただけはあるでしょ? かなり動きはいいけど、腕前(スキル)でうちのパイロットのほうが勝っているのは確実。そして、フラワーダンスは前衛(トップ)を失った」

「勝負は見えたと?」

「狩り尽くすだけ。それで勝てるじゃない」


 開けた場所ではないリングでの接近戦のない敵は難しくない。ビームの応酬ではまず勝負がつかないからだ。そこで有効なのが剣士(フェンサー)。接近してしまえば障害物(スティープル)を利用しつつ撃たせてインターバルを待つのみ。


「今は数的有利はない。体制を立て直そう」

 ステファニーは提案する。

「フラワーダンスにゲリラ戦をされると、どこで足元を掬われるかわからない」

「一理あるわね。まずはマヌエラと合流を待とうかな」

「来ている」


 聞いていた砲撃手(ガンナー)も二人との合流に動いている。しかし、なにか引っ掛かった。そこは彼女が辿ったルートに近い。


(ビビアン、いつ見失った?)

 ゾクリとする。


「マヌエラ、警戒!」

「……!」

 息遣いだけが届いた。

「システムリンク! ガンカメラ、5番機!」

「ぐ、ビビアン!」

「ひそんでた? まさか狙われ……、なに?」


 画面が大きく動く。マヌエラの視線に連動している所為だ。しかし、狙撃を受けているそれではない。


「まさか!」

「なにを!」


 走っていた。赤ストライプのホライズンがである。スティープルを縫い、マヌエラの狙撃も縫って接近してくる。連射制限で狙撃が停止させられる。

 マヌエラも身をさらしているままではない。アングル型のスティープルに隠れた。インターバル明けに砲口を突きだす。そこには至近距離でジャンプしているホライズンの姿。


「あり得ない……」

 ヤコミナが呆然ともらす。


 プレート型の影に入った機体は高い位置に現れた。端に指を引っ掛けつつ舞い降りてくる。マヌエラ機のすぐ傍に。

 狙いをつける暇もなかった。咄嗟にリフレクタを挟み込んだだけ立派だろう。しかし至近距離で放たれたビームの反動でノックバック。体勢が崩れたときには横にビビアンがいた。


「ノックダウぅーン!」

 アリーナがどよめく。

「これはなんということだぁー! ビームランチャーは持っているが、ビビアン選手の動きは前衛(トップ)のままだぁー! どう表現すべきか! まさにショートレンジシューター!」


 ビームランチャーを持って走り撃つ。狙いは定まらず牽制にしかならない攻撃方法である。

 しかしフラワーダンスはどうしていたか。後衛(バック)は普通に走りながら撃って当てていた。ならば前衛(トップ)がその動きができても変ではない。


「あのゲートをくぐったら俺の言った意味がわかんだろうぜ」

 赤い髪の少年は言った。


(ヨゼルカは一つ抜けたところのないアームドスキンだと。ホライズンはどこが抜けている? あの走行安定性だ)


 最大限に活かしてきたのである。その答えがショートレンジシューター、ビームランチャーを持った前衛(トップ)の誕生だ。


「やられた」

 ようやく気づく。

「あれは苦し紛れじゃない。優勝目指して隠してきた彼らの切り札なのだ」

「そんなの誰が!」

「誰も気づけない。誰も考えないからだ」


 考えた人間がいた。スカウトが、フラワーダンスとツインブレイカーズが合同訓練していたという情報を上げてきていた。


(もし、彼らがビビアンの可能性に気づき指摘していたら。もし、彼女がそれを可能にする練習を重ねていたら。いや、もう仮定ではない。現実にしてきた)


「マズい。狩られるのはわたしたちの側だ」

「それこそあり得ない。あたしたちはクイーンなのよ」


 ヤコミナは認めたがらない。しかし、現実はそこまで来ている。


「サリ、ばっちりだった」

「もち。狙点はエナに送って監視しといてもらったもん」

 オープン回線で会話してくれる。

「準備OK。追い出し、よろ」

「はいな。じゃあ開始、ミン」

「りょーかい」


 ステファニーはヤコミナ機を押して自分もバックステップする。その瞬間に狙撃が来た。追いだされる形になってしまう。


「仕組まれた。撃ってこなかったのはビビアンがマヌエラを撃破して配置につくのを待っていたからだ。我々は察知されている」

 どこかの障害物(スティープル)の影にコマンダードローンがひそんでいる。

「ぐぬ、こんな手」

「認めろ。フラワーダンスは強敵だ」

「わかった」

 絞りだすような声の相棒など珍しい。


(ここからひっくり返す。考えろ。どういう形に持っていけば勝てる?)

 狙撃を避けながら悩む。


 本当は狙撃手を一つでも落とせればいい。彼女とヤコミナが組めば可能だ。しかしビビアン機の攻撃力が読めていない状態で背を向けるのは無謀。そこに落とし穴を感じる。


(敵のコマンダーはそう仕向けてきたのだ。だからオープン回線でしゃべらせた)

 プレッシャーで判断を誤らせる作戦である。


「乗るか。わたしがビビアンと接近戦をやる。援護しろ」

「そっちを攻める? そうよね。チャンピオンが守りにまわったらみっともない。正面から潰しに行く」

「そうだ」


(パイロットスキルでは劣っていないのだから活路はそこにある)


 ステファニーは苦しいながらも、ギリギリの勝負に喜悦を覚えていた。

次回『デュアルウエポン(5)』 「負けられない理由がある!」

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