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デュアルウエポン(3)

 ステファニーは目を瞠る。追っている赤ストライプを施された機体は跳ねるような走り方ではない。しっかりと地に足を着けた走行をしている。


(それなのに速い)


 普通、アームドスキンは反重力端子(グラビノッツ)を効かせて機体を軽くし、ステップを刻みながら走る。空中での機動も加えて方向転換する。そのほうが少ない衝撃で足回りの負荷も小さく安定した走りができるからだ。


(あの機体は走ることも前提にして作られている)


 地上機動もできるだけでアームドスキンは革新的だったのに、反重力端子(グラビノッツ)出力を抑えて素早い走行まで可能になっているのは画期的だ。摩擦を使うだけ転進も速い。


(少年たちの機体の動きを見ているようだ)

 先ほどの試合が記憶に新しい。


 走る、殴る、斬る。完全に人間がする動作を再現しているアームドスキンにテンパリングスターは追いつけなかった。そして今、彼女のヨゼルカもホライズンに離されつつあった。


(これが新しい潮流か? クロスファイトがもたらしたものなのか?)


 まだわからない。そうなのだとしたら、ステファニーたちデオ・ガイステも完全に取り残されている。


「切り返し速い。ロニヤ、大きく避け」

「なんなの、こいつら」


 姉妹も手間取っている。索敵状況では黄色ストライプを孤立させているのに仕留めきれていない。この二人にしては珍しい。


(もしかして引き離された? わたしが前衛(トップ)同士の衝突に参加しないように?)


 深追いしてしまっている。メンバーの戦闘状態がモニタにラップさせた索敵表示でしか確認できない。


「戻る?」

「いい、どうにか落とす」

 ヤコミナは不利と見ていない。


「挟まれながらも善戦するユーリィ選手! おっと、ここで援護も入ったぁー!」


「あの角度で? 厄介な」

「サリエリだ」


 三次元的な狙撃にいつも苦戦させられる。最終的には下せるが、時間を掛けさせられる、あるいは一機くらいは落とされる。フラワーダンスは侮っていい相手ではない。


(それが戦略的になっている。コマンダーの力か。そのうえにヘーゲルの機体が下駄を履かせて捉えづらい)


「サリエリの位置は?」

「狙点予想しか出ない」

「もう移動しているな。く!」


 見ているつもりだったのにビビアン機を見失っている。気を取られているうちに身をくらませた。これまでどおりの組み立てが通用しない。


「索敵消えた。ステフ!」

「問題ない!」


 狙撃が来る。狙点予想が出てその位置にホライズンも確認する。表示に復帰した。追うほうに専念しないと逃げられそうだ。


(違う。釣られているか)


「しつこいに!」

「逃がすわけ」

「ないじゃない」

 苦戦している。


「ユーリィ選手、追い詰められたぁー! 万事休すか!」


「抑える! 仕留めて!」

「そのまま!」

「やられないのにゃ!」


「モニカ選手が狙撃をガードしてロニヤ選手が攻める! これは難しい! ユーリィ選手、足を使えない状況になってしまった!」


「ふんにゃー!」

「あんた程度の腕でぇー!」


 ロニヤ機にダメージ表示が出た。左腕を落とされている。しかし、わずかに遅れてユーリィ機が撃墜(ノック)判定(ダウン)表示になった。無事に仕留めたようである。


「なぁっ!」

 ところがほぼ同時にロニヤも落ちた。

「狙撃された!」

「レイミンを失念するな」

「ごめんにー」

 オープン回線は混雑気味。

「いい。一つ道連れにしてくれたから結果OK」

「なんだってのよ!」

「動け、モニカ! もう一人の狙撃手の位置がわかってない!」


 お互いに前衛(トップ)が一機ずつ落ちている。痛み分けと言いたいだろうが、フラワーダンスはジリ貧だ。前衛は残り一機、しかもスティック使いという難しい状況。


(ビビアンは苦し紛れを言うような選手だったか? 彼女は『バトントワラー』と呼ばれるほどクレバーな指揮官だったはずだ)

 嫌な予感がする。


 ともあれ、前衛一に後衛二という同じ形にされたのは困る。ここはステファニーが戻ってバランスを傾けるのが好手なはずだ。


「ヤコミナ、戻る」

「ごめん。そうしかなさそう」

「気にしない」


 気を取られているのは彼女のほうだ。ビビアンのホライズンが障害物(スティープル)の隙間にチラチラと見えている。並走されていた。


(なにを考えている? わたしを逃すまいとするんじゃない。急いでフォローにまわるでない。ただ、張り付いているだけ)

 意図が読めない。


「こいつを落としたら勝負ありだし」

「勝手」


 モニカはウルジーと対峙している模様。剣士(ブレーダー)とスティック使いは相性が悪いがそれは一対一でのこと。砲撃手(ガンナー)の援護ありでは圧倒的に有利な展開である。


「これは厳しいー! フラワーダンス、選択を誤ったかぁー! 前衛一枚ではもたないか!」


 リングアナの見方は正しい。ようやく視認できた状態もモニカが押している。ウルジーは防戦一方になっていた。


(戻るまでもなかったか?)


 スティックを地に叩きつけて回避するという芸当までしているが、狙撃手の目からは逃れられない。リフレクタを使いにくいという欠点が露骨に表れている。


「落ちろぉー!」

「ふっ!」


 ブレードを回避したウルジー機が右足にビームを受ける。しかし、倒れながらもモニカの腕をスティックでかち上げた。その瞬間にモニカのヨゼルカは直撃を受ける。


「なんでー!」

「道連れ」


 黒ストライプのホライズンも二方向からの狙撃で落ちる。フラワーダンスは前衛を二枚とも失ってしまった。


「間に合わなかった」

「どんまい、ステフ」


 ステファニーの耳に届いたヤコミナの声は喜色を含んでいた。

次回『デュアルウエポン(4)』 「優勝目指して隠してきた彼らの切り札なのだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 まぁ、試合だから取れる戦術か?
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