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デュアルウエポン(2)

(ノース)サイドからの入場はチーム『デぇーオ・ガぁーイステぇー』! トップチームを脅かさんばかりの実績を誇るガイステニア社のワークスチームが安定の決勝進出ぅー!」

 毎回のことにアナウンスも安定している。

「六連覇中の女王杯の優勝カップは今回も彼女たちの手に渡るのかぁー!」


 入場するとアリーナからは黄色い悲鳴に近い声援。ステファニーのファンは若い男性が中心だが女の子も多い。モデルとしてのファンクラブに届くメッセージは半数近くが若い娘が占めていたりもする。


「少しは愛想くらいしてあげたら?」

「今は集中したい」

「ほんと、パイロットモードのときのステフは冷たいんだから。そういうとこが中性的だって女の子にモテてるんだろうけど」


 モデルの撮影のときなら愛想もする。笑顔だって振りまく。それが仕事なのだから朗らかな自分を演出する。しかしコクピットでは別。戦闘モード全開でいきたい。


(こっちがやりたくてやっている仕事だもの。本当はこれ一本でいい)


 モデルの仕事は選手として有名になってから勧誘を受けた。人気が出れば、より斡旋を受けやすくなると始めてやめられなくなっている。

 モデル側のエージェントなどは、身体に痣が付くパイロットをやめてほしいと言ってきたりもするが拒んでいる。そんなのは本末転倒だ。やめるのならどちらが先かという話。


(正解が見えない。練習時間を削られるのがいや)

 ステファニーの悩みの種だ。

(チームとして注目されるのはシーズン二回の女王杯のときくらい。オーバーエーストーナメントとかでもっと勝ちたい。なのに過激な訓練をするとモデルの仕事のときにクレームが付く)

 煩わしくて仕方がない。


 ジレンマに襲われる。上位トーナメントの斡旋が欲しければモデルは続けるしかない。しかし練習時間を奪われる所為で出場しても思うように勝てない。


(それでもファンは応援してくれる。それは裏切り? 胡座をかいていていいの?)

 昨シーズンくらいからずっと葛藤している。


 いっそのこと負ければ。思いが去来する。しかし彼女を支えているのはクロスファイトでの真剣勝負の一瞬だ。捨てられはしない。


「うしろに下がって指揮にウェイトを置くつもり? でもトーナメント前からコマンダーを置いてるはずなのに。どう思う、ステフ……。ステフ?」

 質問されているのに気づくのが遅れる。

「あ、なに?」

「珍しく気もそぞろ? そんなに怒ってる?」

「いや、ビビアン選手の意図はまったく」

 正直なところわからない。

「試合始まっちゃうから冷静にね?」

「大丈夫。落ち着いてる。いつもどおりのパフォーマンスはできる」

「ちょっと向こうの出方をうかがってからシフトを決めるね」


 デオ・ガイステにコマンダーはいない。スポンサーはアームドスキン評価が第一で勝利は二の次。契約時にそう言われている。チェック箇所の指示はあっても作戦指示はない。

 なので砲撃手(ガンナー)のヤコミナ・ポステがコマンダー代わりの戦術担当だ。彼女がうしろにいて作戦を立ててくれる。


「モニカとロニヤは下がり目で。セオリーならユーリィが突っ込んでくる。黃色ね。要警戒」

「はいな」

「止める。スティックも来るかもよ」


 肩を並べる前衛(トップ)剣士(フェンサー)、モニカ・チャガーとロニヤ・チャガーは一つ違いの姉妹。連携密度は独特のものを持っている。意見する必要もない。


「ウルジーはあたしとマヌエラで止める。突出してくるようなら仕留めてくれるとありがたい」

 具体的な指示をしている。

「ちょっと厳しいかも」

「うん、フラワーダンスの後衛(バック)癖強(くせつよ)だし」

「そっちはステフが動いて惹きつけてくれるから。可能なかぎり早めに一つ落とせれば勝負は早い」


 もう一人の後衛(バック)はマヌエラ・フィルコデ。無口で作戦に口出ししてくることはない。ヤコミナに上手に使われるくちである。それで満足している様子なのでステファニーもなにも言わない。


「さ、始まるよ」

「みんな、よろしく」


 プライベートでまで仲良くしているメンバーは限られる。しかし、まとまりはいいチームである。モデルのファッションパイロットではなくリアルバトルを楽しみたいのならチームを抜ける選択はない。


「それでは女王杯・虹、決勝を開始します! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!!」


 リングに響くゴングとともに試合が始まった。これまでどおり、フラワーダンスは障害物(スティープル)の林へと消えていく。リーダーの砲撃手(ガンナー)がいち早く下がっていったところを見ると彼女は狙撃に専念するらしい。


(互いを削り合うギリギリの距離を自分から捨てた。そんな敵にわたしは負けない)


 ヨゼルカを走らせる。変わらず軽快だ。林立する鋼材の(スティープル)を左右に躱していると赤い髪の少年に言われた台詞など頭から吹き飛んだ。快感に下半身が疼くように感じる。


「狙撃来てる。三方向。黒スト、警戒ね。モニロニは能動的に」

 ヤコミナの判断は早い。

「ステフ、捕まえられる? 早いとありがたい」

「見えた。追う」

「お願い」


 赤ストライプの砲撃手(ガンナー)を見つけたステファニーは素早く転進した。

次回『デュアルウエポン(3)』 「なんなの、こいつら」

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