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デュアルウエポン(1)

 照らされたリングから強者(チャンピオン)サイドに下がってくるアームドスキンは二機しかいない。他が歩行不能なほど壊れたのではなく、最初から二機しかいないチームなのだ。


(ふざけている。しかし、強いのは認めよう)

 ステファニー・ルニエも事実から目を逸らすわけにはいかない。


 テンパリングスターはまぐれで勝てるチームではない。彼女らデオ・ガイステでも勝敗は五分か若干負け越しというところ。多少の偶然や個々人の調子の良し悪しでどちらに転ぶかわからない相手なのだ。


(危なげない勝ち方をした。この子たちは本物)

 脅威以外の何物でもない。


 いつかは対戦する日が来るであろう。それまでにしっかりと研究しておかねばならない。今日はスカウトだけでなくコマンダーも早めにエンジニアルーム入りして偵察していた。本当はテンパリングスター狙いだったが、もちろんツインブレイカーズのチェックもしたはずである。


「先に(ノース)サイドで待ってんぜ、フラワーダンス」

「言ってなさい」

 オープン回線で冗談を交わしてくれる。


(遊び半分なのは学生の特権でもあるんだけど)

 彼らの本分は学業である。


「聞き捨てならないことを言ってくれるのね?」

 いささか大人げないが言わずにいられなかった。

「気に障ったらすまん。エールだと思って見逃せ」

「無礼を詫びておきます」

「いいよ。いずれ直接その口を閉じさせてあげる」

 こちらは本気の話。

「そうかよ。面白えじゃん」

「そういう意味ですか。憶えておかなければな、ミュウ」

「ええ、忘れないようにね」


 そこまで話してようやく真紅のアームドスキンの顔がこちらを向いた。それまでは眼中に入っていなかったのかと思うと面白くない。


「『ヨゼルカ』か。ガイステニアも悪くないもんを作るんだがな。バランスがいいだけで、こう抜けたとこがねえんだよ」

 評論までされる。

「うちのエンジニアはいい仕事をしてくれてる」

「だから悪くねえっつってんだろ? 程よい価格帯の程よい性能のアームドスキンは程よくそこらの国軍が買ってくれる。そういう作り方をしてるってだけだ。兵器としては出来がいいんだよ。ただリングで確実に勝てる機体にならねえ。お前らのパイロットスキルがねえとな」

「褒められたと思っておこう」

 なんとも微妙な気分になる。

「もうすぐだ。あのゲートをくぐったら俺の言ったことの意味がわかんだろうぜ」

「君のその台詞はフラワーダンスの勝率を下げる」

「へっ、試してみろよ」


 不吉な一言を残してすれ違っていく。それが20mの巨体とは思えない、不気味なほど滑らかな動作なのだから心憎い。


(交友があるから肩入れしてる? それだけで大口叩くほど子供か? それなら、さっきみたいな賢しい戦術は組めまい)

 心して掛からねばならない。


 スカウトの予想に反して昨日の準決勝を勝ち抜いてきたスクール生女子のチーム。調子に乗れば彼女らでも手を付けられなくなるエレインが下されたのも偶然で片づけるべきではないだろう。


(一度たりとて負けたこともない相手でも、今回ばかりはあのヘーゲルのアームドスキンに皆がやられている)

 警戒するに値する。


「なに?」

 ただし、投影パネルに神経を逆撫でするものが映っていた。

「嘗められているのか?」


 先頭を行く赤いストライプのアームドスキン。その手でビームランチャー(・・・・・・・・)を携えている。ビビアン・ベラーネは剣士(フェンサー)のはずであるのに、だ。


「これは驚愕の事実だぁー! 決勝まで来てのコンバートぉー! なにを意味しているのか、フラワーダンスのビビアン・ベラーネ選手ぅー!」

 名調子のリングアナも言葉に困っている。

「乗機はこれも本トーナメントで驚愕の性能を示しているホラぁーイズぅーン!」


 それ以外に編成に変わりはない。しかし、リーダーが武器を持ち替え(コンバート)するだけでもとんでもない変更である。本来ならコンバートなど平場のマッチゲームで試すもの。一発勝負のトーナメントでやることではない。


「ねえ、ステフ。馬鹿にするにも程があると思わない?」

「確かにね」

「収めなさい。社の要望かもしれない」


 とりあえずメンバーを諌めるステファニーであった。


   ◇      ◇      ◇


「ここで出してきたか」

 投影パネルを見ながら、ヘルメットを脱いだグレオヌスが言う。

「抜かせ。お前の提案だろうがよ、ビビにランチャー持たせたのは」

「僕は素直な感想を述べただけさ。彼女はメンバーの中では最も実戦向きなパイロットだよ。ブレード一本でやってきたみたいだけど、ビビならビームランチャーも器用に操るはず。これから証明してくれる。あれだけ(・・・・)練習してきたんだから」

「おう。ものにするには、みっちり鍛えあげねえといけねえかんな。練習時間の半分以上はランチャー持ってたろ」

 特訓は文字通り特訓だったのだ。

「ブレードがそうであるように、ビームランチャーの使い道も画一的であるんじゃない。実戦では利き手にどちらを持つかで状況をどう読んでいるかまでわかるもの。打破の一つの手段だからな」

「そのあたりは俺にはよくわかんねえ。でも、お前が言うんならそうなんだろうぜ」

「相手によって戦術を変える。リングでならコンバートで大きく色を変えることができる。そういう場所だ」


 ミュッセルにはグレオヌスの意見を吟味できるだけの知識がなかった。

次回『デュアルウエポン(2)』 「少しは愛想くらいしてあげたら?」

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[一言] 更新有り難うございます。 認めているからこそ負けられない!
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