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狼頭人身の留学生(1)

本作はシリーズものですが、どこから読んでもあまり支障なく読める仕様になっております。

世界観、設定などは重複していますが、主人公はじめ登場人物は章ごとに異なります。ただし、再登場や子孫の場合もありますので最初から読んでいただくとより楽しめます。

「僕とお付き合いしてください」

 グレオヌスははっきりと相手に告げた。


 人生初めての経験である。変な汗は出るわ、足は震えそうになるわ、気取られないよう隠すので必死だった。


(絶対変に思われてる。でも、こんなの初めてなんだ)

 口にせずにいられない。

(嫌だろうな。人類種(サピエンテクス)が八割以上を占める社会で、獣じみた顔の男に告白されるなんて。怖いとしか思われてないかもしれない)


 留学してきたばかりの物珍しい獣人種(ゾアントピテクス)が真紅の輝くような美少女に一目惚れしてしまった。気持ちを抑えられず、だが極力口調が上ずらないようにした。少し声が震えているのが恥ずかしい。


(せめて友達からでも)

 わずかでも親しくなりたい一心である。


 そう祈りながらグレオヌスは返事を待った。


   ◇      ◇      ◇


 時は遡る。


 グレオヌス・アーフは航宙客船の慣れないスロープを踏んでその地に降り立った。そこは惑星メルケーシンの大地。


(案外済んだ空気をしてる)

 ついそんな感想を抱いてしまう。


 それもそのはず、ここは星間管理局本部が置かれている惑星(ほし)である。いわば星間銀河圏の中心といっても過言ではない。先進的な街並みを想像していた彼は拍子抜けしてしまう。


(緑豊かだし)


 メルケーシンの首都タレスの中央宙港だというのにランディンググリッドを囲う緩衝地帯は小振りな樹木と緑濃い下生えが存在した。なんとものどかな光景である。


「グレオヌス君」

 二十代半ばと思われる男が話し掛けてくる。

「はい?」

「内務部官のサリウスです。メルケーシンへようこそ」

「これはどうも」

 十六の子供相手に丁寧に接してくる。

「案内が必要かと思いましてね?」

「ありがとうございます。ご厚意はありがたいのですが、今日は学校に挨拶に伺うだけですので。オートキャブを使います」

「そうですか。では、お気をつけて」


(気を遣わせてしまったな)

 わからなくもない。なにせ彼はある意味重要人物である。


 父に『ザザの狼』の異名を持つ、誉れ高き星間(G)平和維(P)持軍(F)第一遊撃艦隊戦隊長ブレアリウス・アーフ。母に『銀河の至宝』の高名轟く、星間銀河学術会議理事長にしてGPF特例技術顧問デードリッテ・H・アーフ。

 銀河規模で有名人の二人の間に産まれたグレオヌスに注目が集まらないわけがない。これまでは、ほとんどを両親のいる戦闘艦『シシラーレン』か、ジュニアスクールの宿舎でしか過ごしていなかったお陰で騒がれずに済んでいた。


(今回の留学ばかりはちょっと覚悟しとかないといけなさそうだな)

 ため息が出る。


 父の背を追ってGPF隊員を目指すには公務官資格が必須。リモート学科も充実していてシシラーレンに乗艦したまま取得するつもりだった彼に父ブレアリウスは告げる。「外で勉強してこい」と。それで留学と相成ったのである。


(社会勉強が足りないと思われたんだ)

 それは否めない。


 甘い両親ではないが親元にいる期間が長い。それだけでなく彼にはもう一人の親、ゼムナの遺志『シシル』までいる。赤ん坊の頃から恵まれた環境にある息子を社会生活へと導きたかったのだろう。


(でも、当たり前のように戦場を知ってる僕に社会を学べと言われてもな)


 戦闘艦の中など生活の縮図のようなもの。色々なものが濃密に詰まっている。知らないのは平和と同年代の子供との遊びくらい。それを経験してほしいのか。


(とはいえ、首都タレス(ここ)だって普通の場所じゃないと思うんだけど)


 惑星メルケーシンは国家ではない。管理局本部と傘下施設、協力企業の施設、生活産業施設があるだけで、人口の70%以上が国籍を持たず管理局籍を持つだけの人々である。惑星(ほし)一つが星間管理局の直轄地でしかない。


(とても公用地にはみえない)

 目的地を伝えたオートキャブから流れる窓外を眺める。


 整然と続く道路と清潔感のある街並みは洗練されているといえよう。併せて生活感もしっかりある。街行く人には活気があって、行動が地に足付いた印象。

 強いて違いを挙げるとすれば、管理局の制服や象徴的なロゴの入った服装の人物が多い点だ。当たり前ではあるが、公的区画が続く場所では特に目立つ。


(あれか)


 高層建造物が並ぶ公的区画を抜けると公共施設が集められている区画に入る。そこは中央(セントラル)公務官(オフィサーズ)大学(カレッジ)やグレオヌスの通う公務官(オフィサーズ)学校(スクール)などが含まれる。全体的に低層建築が大半を占めていた。


(その向こうが生活スペースになってる。事前に聞いていたとおりだ)


 一転して高層の商業施設や居住建築が並ぶ一角が遠く続いている。彼の住居となるホテルもそこにあるのだった。荷物はすでに近くの倉庫に届いているはず。なにせ身の周りのもの以外は大物ばかり。


(このへんは特に緑が多いな)


 公共区画一帯は意識的にか緑地が目立つ。そこに集うのも若い人がほとんど。平日の昼間であるのを鑑みれば当然か。

 並木が切れると視界いっぱいに校舎が並んでいる。間を埋めるのは芝生や人工土、グリップシールされた運動スペース。視覚の優れたアゼルナンには行き交う生徒の姿もはっきりと映った。


「さあ、ここが明日から僕の生活のメインとなる場所だ」


 校門の前に立ったグレオヌスは、これから予想だにしなかった生活が待ち受けているとは知る由もなかった。

次回『狼頭人身の留学生(2)』 「それと、なんか可愛い」

初日、一挙三回分更新です。引き続きお楽しみください。

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