35.勇気を示した証です
「ああ心配だ…リタは大丈夫か!?」
「あなた、心配なのは分かるわ…私だって、もう心臓がバクバクだもの!」
「お父様…お母様…、心配しすぎですよ…あと、ティオもいるのを忘れないでください…」
リタとティオがヴィンツェルト学院の入学試験に行ってから1時間ほど経っていた。
ガイアとコスモはリタが心配で仕方なかったが、そんな2人をサイガが宥めていた。
そういうサイガは何故か落ち着いていた。
サイガには、2人に対する信頼を持っていたからであった。
「お前、2人の事信じているんだな…」
「兄ですから」
サイガとヴィスト、そしてピノンは互いに笑い合っていた。
ーー試験会場
その頃、馬車で他の受験者と共に次の試験の会場へと向かっていたリタとティオはワクワクでいっぱいだった。
だが、そんな時だった。
思わぬアクシデントが2人を含んだ受験者達を襲いかかってきた。
「おい!動くな!」
「え!?」
「な、なんだ!?」
馬車の周りは、短剣を持った謎の集団によって囲まれてしまった。
受験者達は察した。
「と、"盗賊"だ!!」
「ごちゃごちゃうるせえ!!」
盗賊は短剣を向けて威嚇するように受験者達を見つめていた。
それはまさに、獲物を仕留める為にチャンスを狙って牙を向けている獣のようであった。
明らかに受験者達を狙った強盗目的の行動であった。
そしてそんな盗賊達を前にして受験者達は普通でいられる訳もなかった。
"殺されるかもしれない"
そんな思いでいっぱいいっぱいで逃げ出したい気持ちの者もいたが、周囲は囲まれている為逃げ場はなかった。
そんな中でも慌てふためながら馬車の御者が口を開いた。
「どうしましょう…あの橋を渡らなければ二次試験会場には行けません…そうなれば、皆さんは不合格になってしまいます…」
「はあ!?」
「冗談じゃねえよ!」
「何とかしろよ!!」
状況が状況とは言え御者に文句を言う受験者。
そんな受験者の事を気にしないと言わんばかりに盗賊は脅しを続けた。
「おら騒ぐな!金目の物を出しやがれ!
「いやああ!!」
もちろんリタとティオも普通ではいられていなかった…。
「あわわわわ~!」
「どどどどどうしよう~!試験に行けないうえに盗賊に狙われるなんてええええええ~!!」
「お姉ちゃん…僕たちどうなっちゃうの!?怖いよお!」
一心不乱状態の2人は既に心が爆発寸前だった。
だが、それよりもリタには他にも大きな心配が舞い降りてきていた。
それは今にも泣きだしそうな顔をしているティオの事であった。
自分はティオの義姉という立場である事を改めて思い出したリタは、"主人"としても"姉"としても何としてもティオを守ろうと思っていた。
(そうだった…私はもう末っ子じゃない…今はティオのお姉ちゃんなんだ…だったら私が…)
しかし、試験の事も考えると気が気でない感じもした。
だが、自分にとっては試験よりも大事な物がある事に気付き、リタは決心した。
「こうなったら、私が相手になるわ!」
なんと、リタは盗賊に向かって魔法を放とうとして手をかざすのだった。
「おいおいお嬢ちゃん、この人数で1人で相手しようってか!?」
盗賊は舐めた口調でリタをバカにする。
しかし…。
「1人じゃない!僕もいる!!」
先ほどのリタの勇姿を見たからか、ティオも前に出ていた。
「なんだ、今度はちっこいガキンチョかよ!」
「ガキンチョじゃない!僕は"竜人"だ!」
「…!!ティオ、行くわよ!」
「うん!!」
リタとティオは勇気が沸き上がり、盗賊に立ち向かった。
多勢に無勢の状態があったが、2人はめげなかった。
2人はヴィストとピノンから教わった魔法の使い方を駆使して盗賊を次々と倒していった。
2人は次々と盗賊を退治していく。
そんな時だった。
2人がつけていた受付で貰ったブレスレットが砕け落ちてしまったのだった。
「え?」
「何!?」
2人はよくわかっていなかった…。
だがその時、なんと盗賊の1人は拍手をしていた。
そしてそれに釣られるかのように他の盗賊、そして御者も拍手をした。
何故拍手をするのか?
その疑問はリタとティオだけでなく、腰を抜かした他の受験者達も気になっていた。
「お見事!いや~実に良い判断です!」
盗賊の1人が口を開いて、ほめちぎっていた。
「え?なに!?何なの!?」
よくわからない状況はすぐに覆ったのだった。
口を開いた盗賊が顔を見せると、すべてを話し始めた。
「失礼しました、私は今回の試験を担当させてもらう事になったヴィンツェルト学院教頭の"アイゼン・ヴェイロン"と申します」
『アイゼン・ヴェイロン』となのったその男性は、なんと学院の関係者で教頭であった。
「今回皆さんを怖がらせるような真似をしてしまった事は謝罪します…実はこの襲撃こそが、学院の入学二次試験であったのです!」
「え!?これが試験?」
「はい、盗賊相手に勇敢に立ち向かう勇気を図るという内容の試験です」
さらにアイゼンが話を進めると、他の盗賊、御者もすべて試験における学院の関係者であった事が明かされた。アイゼンはその後で、重要な説明もし出した。
「皆さん、受付の時にブレスレットを貰ったはずですが…」
「これ?でも私たちのは壊れちゃったけど?」
リタとティオは「どういうこと?」と感じているかのような表情をしていた。
「それでよろしいのです!」
「「え!?」」
「そのブレスレットは、皆様の勇気に反応して砕け落ちるようになっているのです」
受験者は驚愕していた。
「そのブレスレットは勇気を示した証、そして試験突破の証でもあります!」
「試験突破…てことは!?」
「はい、リタ・アスタルトさん、ティオ・アスタルトくん…二次試験合格です!!」
「やった~!!」
「合格だ~!!」
リタとティオは喜んでいた。
『合格』と言われたから当然と言えば当然である!
だが、合格できなかった受験者は不満の声を挙げていた…。
「なんだよそれ!!」
「高い家庭教師雇ったのに!!」
こうして二次試験はリタとティオの合格で方は付き、2人は最後の試験へと挑んだ!
その最後の試験とは…
"面接"であった。




