30."ありがとう"って言われるのが好きなんだ!
「きゃあああああああああああ!!」
「牛がこっち来るぞおおおおお!!」
街はちょっとしたパニック状態に陥っていた。
牛が暴走しているからである事もあるが…
「おい!あんたら、何やってんだ!」
「あぶねえぞ!早く逃げろ!」
牛を止めようとしているのかヴィストとピノンが牛の前に立ちはだかっていたからでもあった。
「ヴィスト先生…」
リタとティオも心配していた。
「ヴィスト先生とピノン先生が危ない!」
2人の心配はピークに達していたが、次の瞬間、その心配が吹っ飛んでしまった。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
「モウウウウウウウ!!」
ヴィストは両手で牛の角を掴み、その圧倒的なパワーで牛を止めてしまった。
そしてその傍でピノンが魔法の詠唱を唱え牛を眠らせてその場を落ち着かせた。
牛が寝込むと、2人の前にその牛を連れていた牛飼いの男性がやって来た。
「ありがとうございます!うちの牛を…何とお礼をしたらいいのか…」
「お礼なんていいさ!」
「私達が好きでやった事なんだし!」
2人は鼻にかけるような事を言わず、牛飼いに牛を渡してリタ・ティオと共にその場を去った。
先の2人を見た事で、リタとティオも心配が吹っ切れていた。
「すごかったですよ!まさかヴィスト先生があんな力を持っていたなんて…」
「ピノン先生も、ヴィスト先生と協力して牛を寝かせちゃうなんて…」
「これが主人と使い魔の連携さ!」
「ヴィストが攻撃して私が魔法でサポート、その逆もあるけどね!」
「そうなんですか?」
「ああ、こういった連携も今後大事な事だからな!今度授業に取り入れよう!」
「でも、先生カッコよかったです!牛飼いの人にお礼言われてもお返しを求めないなんて!」
ティオのキラキラした瞳を見てヴィストはにっこりと渡った。
「そんなの当たり前の事さ!俺らは普段ギルドを通して仕事をしているからな!それ以外で見返りなんて最低な事だよ!それに…」
「それに…」
「俺、誰かから"ありがとう"って言われるのが好きなんだ!」
さっぱりとした笑顔でヴィストが嬉しそうな声でヴィストは話した。
「さっきの牛飼いの人も言ってただろ!『ありがとう』って、『ありがとう』っていうのはその人にとっては為になった事をした訳だ…俺はそういう人の為にも雑用の仕事もするんだ」
リタとティオは先の草むしりでの事を思い出していた。
確かにあの時も依頼主が2人に「ありがとう」を言っていた。
それはこの2人にとっても喜ばしい事なんだと改めて知ったのだった。
「そうなんですね!”ありがとう”って言うのは糧にもなるんですね!」
「よ~し!僕もありがとうって言われる為に授業頑張りま~す!」
「その意気だ!」
「頑張ろうね!ティオちゃん!」
こうして役目を終えて一行はアスタルト邸へ帰って行ったのだった。




