26.お前が殺したんだ!
今回はユーリの過去の話をします。
ーー12年前
アスタルト邸には、父ガイアを支える2人の秘書がいた。
秘書の名前は「ドミス」「リサ」。
仕事も出来て気が利く良くできた男性と女性だった。
「旦那様、こちらの資料まとめておきました」
「ありがとうドミス…リサ、コーヒーを頂けるかな?」
「かしこまりました」
2人は夫婦で、5歳になる最愛の息子が1人いた。
「おかえり、父さん、母さん!」
「ただいま、"ユーリ"!」
「待っててね、今ご飯にするから!」
最愛の息子の名は「ユーリ」。
彼こそが後の"ユーリ・アスタルト"であった。
実は元々ユーリは貴族ではなく、平民であった。
貴族に仕えている両親を誇りに思っていた健気な子供であり、そんな彼にとって両親は自慢の両親でもあった。
ーーある日
仕事の都合でガイアは馬車を利用して遠出をしていた。
その馬車にはドミスとリサも乗っていた。秘書として領主であるガイアに、着いていくのは当然だったからであった。
だが、そんな時に悲劇が起きた。
馬車が崖を昇っていた時の事。
突然の落雷が馬車を目掛けて激突し、崖崩れが発生し馬車もろとも落石。
馬車に乗っていたガイアと御者は重症を負ったものの、ドミスとリサは帰らぬ人となってしまった。
後日、ドミスとリサの葬儀が行われた。
協会の中には棺桶に仰向けにまるで眠っているかのような表情をしたドミスとリサの遺体、そんな2人の死を悔やむ大勢の人間、その中でもガイアとコスモは涙を見せていた。
しかし、彼ら以上に2人の死を悲しんでいる人物がいた。
それは実の息子である"ユーリ"であった。
ユーリは涙を堪えることが出来ず何度ももう二度と目覚めない両親を呼び掛けていた。
葬儀が終わり、行く宛を無くしたユーリ。
そんな彼を見て、ガイアは言った。
「ユーリ、君のご両親は本当に立派な秘書だった…私には勿体ないくらいの友でもあった…」
「……」
「ユーリ、家に来ないか?」
「え?」
こうしてガイアはユーリをアスタルト家に養子として迎えた。
同時に、兄妹となる当時6歳であるサイガ、2歳のサティ、そしてまだ赤子だったリタを紹介され新たな生活が始まった。
だが、いきなり貴族としての生活は当然ながら慣れるものでもなく、ましてや両親を失ってまだ間もない事もあり、ユーリの悲しみは癒える事はなかった。
そんな時だった…。
邸内の廊下にある壺をユーリは割ってしまった。
事故ではなく意図的にであった。
それを知ったガイアはユーリを叱った。
しかし…。
「何だよ…、壺くらいでよ…」
「え?何言って…」
「壺なんてまた新しいの買えばいいだろ…でも俺の父さんと母さんは壺みたいに新しく買って戻ってきたりしねえんだよ!」
「……?」
「お前を父親だなんて認めない!お前が父さんと母さんを殺したんだ!!」
怒鳴ったユーリはその場を走って立ち去った。
走った先にはサイガがいた。
「そんなに憎いの?お父様が…」
「…何だよ…」
「あれは事故だったんだ…お父様だって殺意があった訳でも狙っていたわけでもないんだ…」
「…うるせえ…」
「え?」
「お前だって兄貴だなんて認めねえよ!俺らは他人なんだからよ!!」
ユーリはまたしても走り去った。
既に彼は自暴自棄に近い状態になっていたのだった…。




