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六.屋根裏部屋の秘密

 横浦(よこうら)に着いた時には、日が傾きかけていた。

 だが一行が宿に向かう様子はない。

 そのまま、ある西洋館へと向かった。


 立派な建物だ。

 中へは、清名、藤堂など、雪原に最も近い、ごくわずかな者だけが供をした。

 もちろん柚月もだ。

 それも、外で待っていようとした柚月を、雪原がわざわざ呼んだ。

 ますます柚月に箔が付いたのは、言うまでもない。


 (やかた)の中は、柚月からしてみれば見たこともない、きらびやかな世界だった。

 隅々まで細かい装飾が施され、天井はどこまでも高く、壁には多くの異国の絵画が飾られて、豪華なシャンデリアが吊り下げられている。


 物珍しそうにきょろきょろする柚月を、清名がたしなめた。

 雪原に言われているのか、清名は館に入ってからずっと、柚月の隣についている。


 大きな扉の前まで来ると、異国の男が両手を広げて雪原を出迎えた。

 恰幅(かっぷく)のいい、金色の髪をした中年の男だ。


 この館の主だろうか。

 柚月がそう思っている目の前で、その男は雪原と抱き合った。

 突然のことに、柚月はぎょっとすると同時に、やはり雪原は、と一瞬男色を疑ったが、清名がすっと顔を近づけ、「あれは挨拶だ」と耳打ちして教えた。


「そ…っすよね」


 柚月はちらりと清名を見上げたが、ここでもやはり、清名は前を見たまま、柚月をちらりとも見返してこなかった。


 扉の向こうは、これまた豪華なつくりの客間だった。

 そこで雪原は、さっきの異国の男とその男の国の言葉で話し合い、時々笑いあった。


 柚月には二人の会話は全く分からない。

 が、二人は通じ合っている。

 それに素直に感動した。


 世界は広く、自分が知らないことが、まだまだたくさんある。

 その実感と沸き起こる好奇心から、柚月の中にわずかに光が差した。


 しばらくの歓談の後、雪原は供の者を客間に残し、清名と柚月だけを連れて、男について部屋を出た。

 前を行く雪原と男は、相変わらず楽しそうに話している。

 が、裏腹に、清名の顔が緊張に染まっている。

 柚月も、はしゃぐ気持ちが収まった。


 廊下は進むほどに、窓が少なくなっていく。

 まるで何かを隠しているかのようだ。

 やがて、行き止まりになった。


 突き当りの壁に一枚、絵が飾られているだけ。

 何もない。

 窓さえない。

 ただの薄暗い廊下だ。


 こんなところで、何があるというのか。


 不審に思う柚月の前で、男は壁の絵をわずかにずらした。

 すると、どうだ。

 絵の後ろから、人ひとり入れる程度の穴が現れたではないか。


 驚く柚月を置き去りに、男は穴にランタンを置くと、自身の体をひょいと持ち上げ、中に入った。

 雪原も続き、清名も入っていく。

 柚月も穴の前まで来た。


 柚月の胸より、やや低い程度の高さだ。柚月は唾をごくりと飲み込むと、中に入った。

 中には階段があり、男のランタンの灯りが上の方に見える。

 柚月はその明かりを目指し、真っ暗な階段を上った。


 一歩踏み出すたび、階段がギシギシなる。

 自然と忍び足になりながら登りきると、上は部屋になっていた。

 おそらく、屋根裏部屋。

 倉庫のようになっている。


 窓一つなく、暗く、誇りっぽい。

 男が持つランタンの微かな灯りだけが頼りだ。

 柚月は目を凝らした。


 何か、ある。

 それも、たくさん。

 生き物ではない。

 だが、(うごめ)くようにソレらはいる。


 男の持つランタンが、部屋の中の物を照らし出す。

 どれも隠すように布がかぶせられて、その下に何があるのか分からない。

 (おもむ)に、男が近くにあったテーブルの布をはいだ。


 舞い散る埃。

 その中に、隠されていた物が姿を現す。

 柚月は埃にせき込んだが、ソレを見た瞬間、咳をすることも忘れ、目を見開いた。


 テーブルの上に現れたのは、大小さまざまな銃。

 続いて、男が別の布を剥がすと、その下からは小型の大砲のような物が現れた。


 どうやって使うのかは分からない。

 だが、放たれる威圧感。

 計り知れない破壊力を持っている。

 そのことだけが、柚月の脳に、直接、強い衝撃となって伝わってきた。


 もしも異国と戦争になることがあれば、この国は確実に負ける。

 冷たい汗が、柚月の首筋を伝った。


 ――このままじゃだめだ。この国は、変わらないと。


 未来はない。

 柚月は強い思いが湧き、硬く拳を握りしめた。

 雪原と男は、テーブルの銃を手に取りながら真剣な面持ちで話し込んでいる。


「ここで見たことは、他言無用だ」


 清名が耳打ちしたが、柚月は言われるまでもなく、口にする気になどなれなかった。

 銃を見た瞬間に直感した。

 雪原は、なぜ、自分をここにつれて来たのか、疑問でならない。


 かつて、同じようなものを、同じような感覚で見たことがある。

 まだ萩にいた頃。

 楠木の屋敷でだ。


 どこからやってくるのか。

 なぜあんなものがあったのか。

 詳しいことは聞かされなかったが、楠木(くすのき)の家にはそういう物がたくさんあった。

 そして何も言われなくても、他言してはならない、ということは幼い柚月にも分かった。


 あれは、決して外に漏らしてはならいない秘密。

 そして今、目の前にあるこれは、政府の機密事項だ。


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