第四話 覚醒
色々と説明を省いてしまったのでここでやっておきます。
能力・・・スキルといい、教会での”神声”により、個人個人に1つ~3つ与えられる。主人公の能力は「不死」と「増幅」である。「増幅」に関しては能力が分かっておらず、今まで一回も使われていない。
魔法・・・大気中の魔粒子を体内で魔力に変換して、魔法を放つ。魔法を放つことが出来る生命の体内には”器”と呼ばれる器官があり、ここに魔粒子を取り込むが、魔法を放ちすぎると劣化して委縮するため、管理が必要。
魔族・・・人間以外の知的生命体の呼称。魔族は器がなくても魔粒子を取り込むことが出来、生命の危機に及ぶレベルまで取り込むと、属性を持つ、つまり進化するものが現れる。こうした個体を特殊生体と呼ぶ。当然そうでないものもいるため、個体差がある。この世界の全ては魔粒子によって構成されるため、マグマを浴びる、雷を落とされる、岩や水を大量に取り込むなどの方法で進化できる。ただし、人間は身体能力故に進化は出来ない。また、こうした方法で進化すると、器が体内に生成されることがあり、後天的に魔法を使う個体もいる。この場合、身体能力により、先天的なものよりも性能が高い。
また、スキルに似たものを魔族も持っており、種族的なものや、後天的なものを持つものもいるため、人間の物とは全く別物。
総合的に言えば、人間はクソ雑魚ってわけです。
***
「ヴオオオォオオオォォォォォオオオオ!!!!!!」
耳を裂くような轟音が響き、地面に罅が入る。
そして―――
ズガァッ!!!
罅から、深紅の腕―――のようなものが生えてきた。そのまま罅は広がって・・・
ズガァッ!!!ズズ・・・ズズズ・・・ズガガガガガガッ!!!
もう一つの腕が出て、その勢いのまま真っ赤な、上体だけで100メートルにも及ぼうかという、棘の付いた体躯が出てきた。
・・・大きすぎる。その上、腕が異常に長い。ドラゴンは爬虫類から進化したという特性上、腕は基本的にかなり短く、大体全長を200メートルと仮定した時、10メートルぐらいが妥当だ―――が、これはどう見ても40メートル位はある。
特殊生体・・・それが頭をよぎった。それは、環境などの要因により更に特殊な進化を遂げた個体である。人間以外の種族を魔族というが、魔族は基本的に寿命が長く、そう言った進化をする個体が稀にある。ドラゴンは身体能力が異常に高いので、進化をしない個体のほうが少ないそうだ。
だが、この進化は異常だ。腕が長くなる進化など、いったい何が・・・
『私の卵に、触ったな』
不意に、声が頭の中に響いた。
『許さない。我が最後の平穏を汚すものに、容赦はしない―――』
その中の言葉の一つが、引っかかった。最後の、平穏―――?
『まずは人間の女。貴様からだ』
人間の女・・・私の事だろうか。まあ卵に触ったのは私だ、そうなるのは自然か。
彼女は、一体何に怒ったのだろう。最後の平穏とは、一体何だ?
ここで卵を守り続ける理由は何だ?
灼熱の手が私の体を掴んだ。異常な温度が発されるその腕で、私の体は黒く焦がされている。
―――再生が、追いついていない?
高すぎる温度は、私の「不死」をいとも容易く突破した。
そうか。私は何のために生まれたのか理解した。
きっと私は死ぬために生まれてきたのだ。利用され、使われ。それでもなお足掻いた私の全ては無駄だったのだ。生きることに意味なんてなかった。私は、最後まで生命のサイクルの一部だった。
ああ、彼女なら。私を殺せるだろうか?この下らない私の世界を終わらせてくれるだろうか?
「っぁ・・・ごめんね・・・」
彼女は、口を開いた。ドラゴンの、赤黒い口内が見えた。その奥に、目映い光が溜っていく―――
ごめんなさい、お父さん、お母さん。最後まであなたたちの娘として、生きて、死にたい。
ありがとう―――。
――――――――――
「・・・!?な、なんだ、あれ・・・!?」
ヴァンは、困惑していた。それはこの場にはふさわしくない感情だったが、それでもそうせずにはいられなかった。
ドラゴンの必殺、ドラゴンブレスを一身に受けたルシアは、絶対に助からないと思っていた。
距離を取り、100メートル以上離れた場所でも、異常な熱量が顔を叩いた。だが、それすらも忘れてしまう異様な光景が彼の眼に映った。
ルシアが、白く、目映く、発光していた。
今までに見たことのないその姿は、彼を唖然とさせた。
「な・・・何だ、ありゃあ・・・」
「ど、どういうことなの・・・!?」
仲間二人も困惑している。これは異常事態だった。
「―――!今だ!逃げるぞ!逃げるなら今しかない!あいつはほっとけ!」
はっと我に返ったヴァンは、そう告げた。
勇者としてあるまじき行動だが、「ルシアだから」が根底にあるため、それは罪悪感にもならない。
そもそも、死んでいないなら気遣う必要もないからだ。
「早く!行くぞお前ら!」
「う、うん!」
「あぁ、分かったぜ!」
そして、彼ら3人は来た道を戻った。幸いにも、カルデラの傾斜が緩い場所が近かったため、彼らはすぐに脱出できた。
彼らは、いや、人類は、この時、本当に大事なものを手放してしまった。その事に気付くのは、もっと後の話だが・・・
――――――――――
(これは・・・?一体何だ?私は、何を見ている?)
レッドドラゴンの彼女もまた、困惑していた。矮小な人間が、絶対に殺せると思っていたドラゴンブレスで死なず、さらに光を放ち始めたのだ。警戒するなという方が難しい。
だがそれは、異様なまでに、神々しかった。
(美しいな・・・だが、殺さなければならない)
そのまま、腕、そして手に力を込める。圧殺するつもりだ。
(私の子供に触れた罪、悔いて死ね―――)
「やめろ」
背後から、声がした。それは、知っている、だがここに存在するはずのない声だった。
「その子に、手を出すな。絶対にな」
それは、魔王リーア。
『・・・何の用だ、魔王。この女は私の卵に触れた。だから殺す』
「もしも今殺せば、その子のエネルギーでここら一帯は吹き飛ぶだろうな。それでもいいのか?」
『・・・どうしろと?私はもう、守るしかないのだ。守るためには、殺すしかない。決意を揺さぶるな』
「・・・お前の、条件を呑もう。お前と、お前の子供の保護を約束する」
『・・・いいのか。魔王領も厳しいのでは無かったか?食料はあるのか?私はともかく、この子たちを養うことはできるのか?』
「なんだ、案外乗り気だな。もっと渋るかと思ったぞ」
『私の子供たちを養うのに、お前のところほどいい場所は無い。それに、お前にとってこれは人質なのだろう?ある程度の安全も確保されるというものだ。それに・・・殺しは、もうこりごりだ』
「・・・そうか。まあ、なんだ。人化の魔法を覚えさせるのが最初ってところか。歓迎パーティでも開いてやろうか?」
『またお前は・・・だが、感謝する』
レッドドラゴンは、全身をマグマから出した。その直後、体の熱と光は収まり、黒い鉱石のようになった。さらに、200メートルほどの巨体は50メートルほどまで縮んだ。
これが本来の姿だ。
彼女は悠久を生きるもの。しかして、有限を生きるものでもある。
生命が終わることを知っている彼女は、子供を産んだことにより、自分が長くないことも知っている。
だが―――守りたいと思う気持ちは、本物だ。
何をしてでも我が子を守ろうとするそれは、母親のそれだ。
最強の母親たる彼女―――アルカは、旧友とともに、ルシアを背に乗せて、飛び去った。
ア゛(絶命)
死ぬほど疲れました。テストの後に二本立てはきついって・・・