第9話 王子様
「王子様のおなーりー」
宣言がされると、兵士たちはかしこまり、片足だけ跪く。
これが最敬礼なのだろうか?
びのは兵士たちの真似をせずに、頭の後ろで手を組みながら、私はあくびをしながら王子様を待った。
ぶおーん
ドラが鳴ると、1人の男の子が玉座の後ろからでてきた。
「おう」
片手だけあげてふてぶてしく挨拶をする王子様。
中世の貴族のような服装をしていて、いかにもお金持ちをにおわせているけど、私のタイプの顔ではない。
びののような高貴でイケメンな王子様かもしれないと期待していたから、とても残念だ。
……というより、この王子は敵だと私の女の勘が囁いている。
「あー、堅苦しい挨拶は抜きだ。とりあえず、大臣、人払いを」
お付きの大臣が手を二回叩くと、兵士たちは機敏に部屋から出て行った。
「まずは、自己紹介だな。このオレが、次期王様のダウゴだ。よろしくな」
「オレは旅野びの」
「戻衛覧です」
簡単に自己紹介をした。
「びのに覧だな? ところでお前たち、本当に勇者なのか?」
疑ってかかる王子様。
王子なのになんでこんなに疑心暗鬼なんだろう?
偽物の勇者に騙された経験でもあるのかな?
「ああ、そうだ。夢のお告げがあったからな」
真剣な顔でこたえるびの。
「ふふふ……夢のお告げって……本当に中二病……」
まずい、笑っちゃいけない場面だと頭では分かっているのに、笑いのツボにはまって、笑いを堪えることができない……
なんで、笑っちゃいけない時に限って笑ってしまうんだろう……
「こちらは真面目に訊いてるんだ」
いや、分かってるんだけどね。
だって、あのびのが夢のお告げだなんていうから……
「ふふふ……すみません……はぁー、落ち着きました」
「やっぱり怪しい」
やばい、私が笑ったせいで、さらに不信感を与えてしまった。
「ああん? 何が怪しいんだ?」
王子様に睨まれたので睨み返すびの。
「勇者にしては、若すぎる。それに強そうにもみえない」
それを言うなら、ダウゴのほうが王子様っぽくない。
王子の服を着てるというよりは着せられてる感が半端ないし。
「見た目なんか関係ないだろ。オレが伝説の勇者だ」
「本当か?」
本当に疑り深い王子だな……
「ほら、伝説の通り、同じ絵だ」
びのは、生徒手帳の写真をダウゴに見せつけた。
「伝説? 何だ、それ?」
この国に伝わる伝説もきちんと覚えてない王子様。
こんな人が王子様でこの国は大丈夫なのだろうか?
きっと、この王子は世襲に違いない。
私はこの国に住んでるわけではないからどうでもいいけど。
「4体の魔王、ヨンキョウが現れ、民が貧するとき、いずこより自分と同じ絵を持った勇者たちが現れ、魔王達を全て倒し、ヨンキョウを倒した勇者はいずこかへと消えていくという伝説です」
大臣は、王子に教える。
大臣のほうが王子を務めたほうが良さそうだ。
「その同じ絵がこれだというのか?」
「じゃあ、逆に訊くが、この絵以外、何があるんだ?」
もしもそんなものがあるなら、出してみろと挑発するびの。
正直に言って、写真以外ないと思う。
「ふん。まあ、信じてやってもいい」
上から目線で言ってくる王子。
うっざー。
この王子とは仲良くなりたくない。
「じゃあ、覧、お前も勇者なのか?」
「私はびのの従者です」
先ほどのように面倒ごとにならないよう、今度は笑い声を上げずに、笑顔を顔に張り付けて答えた。
「びの、そうなのか?」
「そうだよ」
まったく、びのと一緒に居る時点で察しろよな。
「それでは、二人に命じる。協力して、速やかに魔王を倒すのだ」
まじで上から目線。
何で命じてるんだよ?
そこはお願いするところだろ?
「オレの気が向いたら、倒してやってもいい」
「この次期王様に向かって、倒してやってもいいとは、何様だ?」
「勇者様だよ」
びのは、キレ気味で答える。
いいぞー、もっと言えー!!
「何が勇者様だ? お前はこの俺様よりえらいのか?」
「えらいかどうかはさておき、少なくとも立場はオレ達のほうが上だと思うが?」
「は? この次期王のほうが立場が上に決まってるだろ」
じゃあ、次期王様が魔王倒せばいいじゃん。
「そういう態度取るんだ。おい、覧、ここを出ようぜ」
話を聞くまでもないと思ったのだろうびのは、私の手をとって、外へと出ようとした。
「あ、お待ちください、勇者様。王子様と勇者様、ここは手を取り魔王を倒しましょう。ほら、王子様も謝ってください」
慌てて止める大臣。
「ステータスも知らない人間のことなんか、信頼できるか」
腕を組み、そっぽ向く王子。
「帰るぞ、覧」
「王子様、このことは後で王様に報告いたしますよ?」
語気を強めて王子様を諭す……というより脅す大臣。
「あ、いや、すまなかった。話だけでも聞いてくれないか?」
「そうですよ、ステータスなんて関係ないです」
大臣は王子に同調し、私たちにすり寄ってくる。
ところでステータスってなんだ?
「ステータスってなんだ?」
びのも疑問に思ったようで、王子に訊き返した。
「勇者なのにステータスも知らないのかよ?」
「ステータスなんて言葉、はじめて聞いたんだが」
「この国では10歳の誕生日に確認するだろ?」
王子は鼻を鳴らす。
こっちは、今日初めてこの世界に来たんだ。
ジオフの文化なんか知らないよ。
「そんなこと知らん。元居た世界にステータスなんていう概念はなかったし、この世界には今日初めて来たんだからな」
「伝説ではどうなっているんだ? 大臣?」
「伝説には、そのようなことは伝承されていません。ですが、この者達が嘘をついてるとは思えません。きっと、異世界にステータスはないのでしょうな」
「おいおい、どうすんだよ? それじゃあ、能力値が分からないじゃないか」
王子様は大臣にどなりちらす。
上に立つものがこんなに短気では、大臣も大変だろうな。
ちらりとみやると、大臣は喜んでいるかのように見えた。
もしかして、怒鳴られて、喜んでいるのか?
「分からないのなら、我が国のスクロールを使って確認すれば良いのでは?」
ひとしきり王子様が怒り終えてから、大臣は提案した。
「そうか、スクロールを使えば、ステータスが分かるな。さすが、大臣」
王子の機嫌も戻ったようだ。
最初から知っていて隠していただろ、大臣め。
王子から褒められて、すごくうれしそうだったしな。
「少々お時間をください」
それだけ言い残すと、大臣はどこかへと行ってしまった。
……ってか、いいのか?
びのと私と王子の三人だけにして。
もし、オレがクーデターの首謀者で、王子様暗殺計画をたてていたなら、王子様はここでジ・エンドだぞ?
まあ、実際は暗殺者なんかじゃないけど。
「今のうちに帰ろうぜ、覧」
王子に気付かれないよう小声でつぶやくびの。
びのの言葉に笑った私のせいで、王子が不信感を抱いたんだから、もう少しここにいてもいいような気がする……
「えー、ステータスがわかるんだよ、面白そうじゃん」
そう思った私は、たいして興味もわかなかったステータスをだしにして、ここにとどまるよう提案した。
「そうか? 面白くはなさそうだが……」
「私、びののステータスに興味ある」
「そうか? 人を数字で判断するんだぞ? オレには正気とは思えないが」
「能力を数値化するんでしょ? 面白そうじゃない。異世界でしかできない体験だよ。これだけでもやっていこうよ」
私がお願いすると、ステータスを見るくらいなら……とびのはしぶしぶ承諾してくれた。