第8話 生徒手帳
人の往来が多いためだろうか、草が生えていない道ができている。
少し丘のようになっているところを登っていくと、白い立派な城壁と桟橋が目の前に飛び込んできた。
「びのの好きそうな中世のヨーロッパ風の町だね」
「いや、オレは現代のほうが好きだぞ」
「ゲームはいつも中世のヨーロッパ風じゃないか」
「それは、そういうゲームが多いだけだよ。現代のほうがいいに決まってる。中世のヨーロッパの人口過密のところではトイレはあっても下水がなくて、窓から汚物を道に捨ててたから、それを避けるために、日傘やマント、ブーツやハイヒールが流行ったと言われているくらいだからな」
あ、そういう歴史的なことも知ってるんだ。
さすが、びの。
「この街もそうとは限らないよ? 下水発展してるかもしれないよ?」
「そうだといいな」
本気でそう願っているところをみると、びのにとって下水があるかないかは大切のようだ。
「さてと、これからどうする、びの?」
「どうするもなにも、ここまで来て、帰るってことはないだろ? この町に寄るの一択だ」
「でも、城に入るには、木札の通行所らしきものがいるみたいだけど」
「とりあえず、とへっとしてそうな人を見つけて、盗むか……」
びのは、左手で右手首を持ち、右手を滑らかに動かして骨をバキバキと鳴らしたあとに滑らかに指だけを動かした。
マジシャン顔負けの器用な指先だ。
これなら、スリも楽勝でできるだろう……
……って、違う違う。
異世界とはいえ、びのに罪を犯させるわけにはいかない。
「こら、そういう物騒なことは冗談でも言わない」
壁に耳あり障子に目あり。
誰が聞いてるかわからないんだから。
「悪い、悪い。こういう時は、まずは偽造だよな」
「おい、こら、びの」
ふざけるのも大概にしろよ。
「じゃあ、オレの持ってる生徒手帳を見せて中に入れてもらおうぜ」
「生徒手帳で中に入れるわけないじゃん。もう、真面目に考えてよ」
「覧、オレは、結構真面目だぜ」
「本気で真面目になれ!!」
何だよ、結構真面目って。
結構がついてる時点で真面目じゃないだろ。
「まずは、他に出入口がないか訊いてみようぜ」
私は道行く老婆に声をかけた。
「町に入るには、ここ以外にも他にも入り口はありますか?」
「魔王が現れて以来、この検問所以外は城壁とお堀に囲まれていて、ネズミ1匹通れないよ」
「この町に入るには、あの木札が必要なんですか?」
「ああ、身分証明書がないと、リネマの城下町には入れないね。なんせ、魔王が人の形をしているかもしれないからね」
私は『ありがとう』と感謝の意を伝え、その場を後にした。
「身分証明書か……通行証なら、お金を工面すればなんとかなるかもしれないと思ったけど、身分証明だと、お金でなんとかならなさそうだな……やっぱし偽造か?」
びのは少し立ち止まって考える。
何を考えているんだろう……
「よしっ、悪いことするんじゃないんだし、いっちょ、やってみるか」
「やるって、何を?」
本当に盗んだり偽造したりするんじゃなかろうな?
「覧は、ここで待ってろ。オレに考えがある」
「ちょ、待って、びの、何する気?」
私に鞄を預け、門番へと駆け寄るびの。
本当に何する気なの?
びのがへまをしてしまったらいつでも逃げだせるように、コンパクトをとりだし、びのの後をついて行った。
「あのさ、オレ、勇者なんだ」
……って、普通に勇者だと明かしてるし……
いいのか、そんなことして……
「また、偽勇者か。今日で5件目だぞ」
どうやら、自称勇者が今日だけで何人もいたらしい。
壁内にはいるために、『オレ勇者詐欺』が横行しているのだろう。
「ここの世界を助けてくれって、女神カシズに頼まれたんだけどさ……」
「変な格好までして、我々を騙そうという魂胆なのだろう?」
どうやら、びのの制服の姿がとても奇異に見えたようだ。
「これは、オレの元の世界の正装なんだけど?」
「分かった、分かった。とりあえず、おととい来やがれ」
門番はとてつもなく嫌な顔でびのを追い出そうとする。
後で本物だとわかったら大事になるぞ。
ざまぁ案件が勃発する。
「オレは、本物だぞ」
「もし、本物なら、伝説のことも知ってるのか?」
「伝説? なんだそれ?」
「他の偽勇者は、伝説を知ってたぞ。伝説も知らない勇者なら、話を聞くまでもないな、偽勇者」
びのをハエのように扱い、しっしっとする兵士。
「異世界を守りにきたばかりで、ここの伝説なんか知らないんだよ。むしろ、ここに住んでないんだから、伝説を知らない方が自然じゃないのか?」
「ああ、それも、一理あるな」
びのの反論に納得する兵士達。
こいつらアホだな。
「ちなみに伝説って、どんな伝説なんだ?」
「4体の魔王、ヨンキョウが現れ、民が貧するとき、いずこより自分と同じ絵を持った勇者たちが現れ、魔王達を全て倒し、ヨンキョウを倒した勇者はいずこかへと消えていくという伝説だよ」
同じ絵を持った勇者……
それって、写真のことか?
「同じ絵…………あるぜ」
「嘘じゃないだろうな? 嘘だったら、牢獄いきだぞ」
「ほら、これ」
びのは持っていた生徒手帳を兵士に見せた。
「こ……これは……伝説の絵……」
「この者達……いや、この方達を城まで丁重におもてなししろ!!」
あれ? これ、もしかして城内に入れるっぽい?
「いや、申し訳ありませんでしたでげす。疑ったりして。いや、最初から私は勇者様だと思っていたんでげすがね……」
びのが写真を見せてからキャラ変わってるぞ、この兵士。
急に語尾が『げす』になってるし……
「わたくしも最初見た時から、高貴な服装を身にまとっていらっしゃるなと思っていたんでげす」
前言撤回。キャラ変が激しいぞ、この兵士達。
手の平返しが半端ない。
この世界ではそういう風習でもあるのか?
「それでは、ついてきてくださいでげす」
多くの兵士に付き添われながら、検問所をすり抜け、門の中へと入る。
「ふーん、灰色の石造りの道に石造りの家ね」
目に飛び込んでくるもの全てが新鮮だったが、はしゃぐほどのものでもないな。
「木造の露店か。いい香りが漂ってるな。あとで寄ろうぜ」
「道の補装具合からみて、自動車は走ってない……うん、輸送手段は馬で間違いなさそう。馬糞もあちらこちらに落ちてるし……」
行ってみたいところをチェックするびのと、文明の発展を冷静に分析をすすめる私。
露店に行ってもいいが、お金がなければ何も買えないんだけどな。
まあ、異世界を見学するだけでも面白いか……
「こちらからお入りください」
「レッドカーペットか。趣味悪いな」
「確かに」
私はびのの意見に同意した。
「武器を所持してないだろうな?」
「この世界に来たばかりだ。そんなもん、ねーよ」
「私も」
びのは男兵士に、私は女兵士に入念なボディチェックをされる。
ゴブリンの棍棒は捨てておいて正解だったようだ。
「お二人はこちらでお待ちください」
私たちは、兵士に促されるまま王座の前に連れてこられた。




