第6話 おじいさん
「お若いの、物騒なものをもっての喧嘩はやめるんじゃ」
私たちが冗談をいいあっていると、肩をポンと軽くたたかれた。
「今、取込み中だ、外野は黙ってな……って、じいさん、誰だ?」
目の前には、古めかしいワイシャツの上にチョッキを着た天然パーマで鼻の高いじいさんがいた。
「おぬしらは? 見かけん顔で、見かけん服装じゃが……」
会話が普通にできている……
見た目は外国人だから、母国語は英語かと思っていたが、日本語で流暢に話していた。
もし、ここが異世界だとしたら、会話はできないかとおもっていたけど、そうでもなさそうだ。
それじゃあ、ここは日本なのか?
……否。それはない。
もしそうであるなら、ゴブリンの説明がつかないし、私の携帯の電波が届かないのも理屈にあわない。
それに、こんなアマゾンの奥地のような密林があるはずがない。
でも、それなら、なんで、このおじいさんと日本語で話せるんだ?
……そういえば、異世界転移したら、会話は普通にできるって設定があった気がする。
この現象もそれなのだろうか……
「オレはびの」
「私は覧」
とりあえず、日本語で自己紹介してみる。
「びの、とりあえず、落ち着いて棍棒を置くのじゃ」
このおじいさんは、びのがふざけて棍棒をもって中二病ごっこをしていたから、きっと、私を脅しているようにみえたのだろう。
悪ノリして、キャー助けてください……なんておじいさんに助けを求めてもいいけど、シャレにならなさそうだからやめておこう。
それにしてもこのおじいさん、びのの暴力を止めにきたということは、そこそこできるおじいさんなのかもしれない。
「びの」
私がびのに呼びかけると、びのは持っていた棍棒をぽいっと捨てた。
「あと、私のバッグ貸して」
「ああ」
びのからバッグを受け取り、ある機械のスイッチを入れたり消したりしながら会話に混ざる。
「おや、あんたたち兄妹かね?」
「ああ、そんなところだ」
「そうそう、私たち仲良しなんですよ」
とりあえず、このおじいさんにびのは悪い人ではないということを印象づけて誤解をとかないと……
「ところで、じいさん、ここは何処なんだ?」
「ここは、リネマの町の郊外にある、森じゃ」
「リネマ? びの、聞いたことある?」
私が知り得る限り、リネマの町なんか聞いたことない。
「いんや、知らねえな」
びのも同じ反応か。
「じいさん、ここは、何大陸だ?」
「ん? 何大陸かは知らぬが、ここはジオフの世界じゃ」
「おいおい、マジかよ?」
びのはジオフの世界と聞いて、げんなりとした。
ジオフの世界……聞いたことないな……
びのが何か知ってるみたいだから、私も知ったかぶりしてみるか……ヨーロッパの国っぽいから適当に話をあわせて…………って、そんなことして、ばれた時面倒くさくなりそうだからやめておこう。
「何か知ってるの?」
「夢の中と同じだ」
「夢って、今朝がた見たっていう、夢?」
あの女神がでてくる夢だっけ……
「ああ。その夢だ」
良かった。知ったかぶりしないで。
私も中二病に認定されるところだった……
「やっぱり、びのは、中二病だね」
「病気なら治してくれよ、覧」
「『なんとか』と中二病につける薬はないよ……」
私はわざとらしく肩を落とした。
「おいおい、中二病って、不治の病なのかよ」
「うん。もし、なんとかと中二病を治す薬が開発されたら、ノーベル賞がとれるだろうね」
「え? 何? そんなに壮大な話なの?」
「当たり前じゃないか。不治の病なんだよ? だから、びのの死因は中二病で決定だね。大丈夫、骨は拾っておくから」
「え? 死ぬの、オレ? 嫌だよ、死因が中二病とかって」
いや、びの、抵抗すればするほど、哀れにしか見えないからね。
びのを茶化していると、目の前のおじいさんは困惑の表情をする。
今は中二病の冗談にかまっている時ではない。
現実問題、これからどうするかのほうが大切だ。
「あの、私たち、旅の者なんですけど、恥ずかしながら迷子になってしまいました。近くに町や村はありますか?」
私は嘘を混ぜつつ、おじいさんに尋ねる。
「旅人で迷子? この森で迷子とは、珍しいの……」
「すみません、土地勘がなくて……」
「そうか、大変じゃったの、とりあえず、スパゲッティでも食べるか?」
言いながら、私たちにスパゲッテイを差し出すおじいさん。
「サンキュ、じいさん。さっきちょいとばかし動いたから、腹減ってて」
びのは、じいさんに手渡された木製のフォークで、スパゲッテイにがっつく。
「ちょっとは遠慮しなさいよ」
多分おじいさんのお昼ご飯だよね、それ。
それに、びのの印象がまた悪くなりかねない。
「くれるって言ってるんだから、いいじゃないか、覧。こういう時は、食事をして交友を深めるんだよ」
交友を深める食事ってのは、みんなで食べる食事だからね。
自分だけ独りがっつく食事は交友を深めないからね?
本当に分かってやっているのだろうか?
「すみません。ふつつかな義兄で」
「はっはっはっ、若者はたくさん食べるくらいがちょうどいいんじゃよ」
笑って許してくれるおじいさん。
心が広くて本当に助かった。
「ところで、どちらの道に行けばいいですか?」
「こっちの森の奥はゴブリンどものモンスターたちが棲み着いていて危険じゃ」
あ、やっぱりさっきのはゴブリンだったんだ。
ファンタジーな世界だな。
「そのゴブリンとは昔からこの辺りに棲んでいたのですか?」
「ん? 何を言っておる。モンスターがうろつき始めたのは、ごくごく最近ではないか」
ごくごく最近……
ジオフの世界を救って欲しいって言われたびのとの話とも合致する。
おそらくここは異世界で間違いないようだ。
「それなら、反対側の道を行けば、安全ですか?」
「そうじゃな。そっちの道はリネマの城下町に繋がっておる。おそらくゴブリンとも遭遇する心配もないじゃろうて。心配なら一緒に行こうか?」
おじいさんは私に道を教えてくれる。
「ありがとうございます。ですが、町にはびの君と二人で行こうと思います」
おじいさんにお礼をし、私たちは早々にその場を離れた。




