第54話(最終話) バッドエンド
後から収監された悪人の話によると、連日、ワイドショーに取り上げられ、すごい騒ぎになったらしい。
父さんと母さんへのバッシングも酷く、二人とも行方は分かっていないようだ。
ある日、オレは、面会人がいると言われ、面会室へと向かわされた。
鉄格子に透明なアクリル板が貼られているだけの部屋だった。
「覧? 無事だったのか?」
部屋に入るなり、オレは叫んだ。
「びの、無事だった?」
「覧……じゃないな、お前」
姿形が一緒なのだが、違和感を感じる。
「ご名答。よくわかったね」
軽く手を叩き、賞賛する目の前の誰か。
「誰だ? お前?」
「オレはお前だよ」
覧の顔を見ていると、その姿は、オレそっくりになった。
まるで、鏡をみているような錯覚。
「反省してるか? オレ」
オレのそっくりさんは、オレに尋ねてくる。
「お前は誰だ?」
近況の能力かとも思ったが、現実世界に魔素という概念はないし、近況は確かに倒した。
「お前が覚えていないのなら、オレは誰でもないさ」
オレのそっくりさんは、悲しそうに呟いた。
「質問にこたえろ」
「そうだね。君の運命を握っているもの……とでも名乗っておこうか」
「オレの運命を握っているものだと?」
「まさか、こんな結末になるとは思わなかったよ」
「どういうことだ?」
「ああ、君は知らなくてもいいことだ」
「教えろって言ってるだろーが」
「そんなにすごまれても、アクリル板ごしじゃあ、全然怖くないんだが」
「うるさいっ、オレの質問にこたえろ」
「それでは質問にこたえようか……で、君の質問はなんだったかね?」
「こんな結末になるとは思わなかったって言ったってことは、何か知ってるのか?」
「君の言葉を借りるなら、バタフライ・エフェクトだね。君はもう少しだけでも、考えるべきだったんだ。そうすれば、ちょっとずつ、運命は狂いだして、この結末には至らなかった」
考えるべきだったこと……
何時のことを言っている?
大凶と対峙した時、オレが覧を諦めたからってことか?
「怪物とたたかうものは、みずからも怪物とならないようにこころせよ。なんじが久しく深淵を見入るとき、深淵もまたなんじを見入るのである」
「ニーチェか……って、ちょっと待て。オレもいつのまにか怪物になったって言いたいのか?」
「君がそう解釈したのであれば、きっとそうなのだろうさ」
「どういうことだ?」
「人間という生き物は自分の思いたいように思う生き物なのだろ? たとえ真実が異なっていたとしても、それを曲解し、自分の都合のいいように物語を捻じ曲げてしまう生き物だ。そこもまた良いんだけどね」
「本当にお前は誰だ?」
「魔王達はあまりにも長い時間魔界に居すぎた。そのせいで性格が歪みに歪んでしまったんだろうね」
俺の話を聞かずに、無表情にただ吐き捨てるようにだけいうオレのそっくりさん。
魔界に関わり過ぎたから、性格が歪んだ……
「あるいは、お前がこちらに来るのが遅すぎたから、救えなかったのかもしれない」
「オレが行くのが遅すぎた? 何を言っている?」
「びの、君の言葉で伝えるのであれば、お前が今、監獄の中に居るのは、オレのせいでもあるってことさ」
「おい、分かるように説明しろ」
きちんと説明をしないので、いらいらが募る。
「こんなことは、誰も望んでいない結果だ。きっと誰一人として望んでいない」
「何が言いたい?」
オレは激怒して訊き返した。
「最初から私が与えた運命の中で、おとなしくしていればよかったのだ」
「おとなしくしてればよかっただ?」
「そう。おとなしくしてさえいれば、こうはならなかった」
「何なんだ、つまりはオレが失敗したってもか?」
「ありていに言えば、そうなるね。ただ気に病むことはない。人間は失敗する生き物だ。そして、人間は失敗を繰り返す生き物でもある」
「だから、またオレは失敗を繰り返すと?」
「ああ。おそらくお前は何度か過ちを繰り返すだろう。だが、お前が真実を追求し諦めずに追い続ければ、真実へとたどり着けるであろう。その真実があまりにくだらなく滑稽な真実だったとしても」
「お前は知っているのか?」
「ああ。本当に、単純で滑稽な真実さ。きっと君は物語の核心に触れた時、がっかりするかもしれないね。手品のように分からないうちはワクワクしていたけど、タネを明かされれば、なんだ、真実なんてこんなもんか……ってね」
「だがオレは、真実が知りたい」
「残念ながら、オレの口から真実を教えることはできないんだ」
「どうしてだ?」
「君の求める真実は会ったこともない人から教えてもらうだけの簡単なものなのかい? オレが納得のいく答えを持っているとは限らない。人づてで聞いただけかもしれない。事実を曲解しているかもしれないし、誤認しているかもしれない。それを真実と君は呼ぶのかい? 自分の目で見て、聞いて、そこから組み立てられるものだけが真実だと、そうは思わないかい?」
「それは……」
オレは面会室の机をたたく。
「自分の力で考えることをしない性格は、大凶の『自惚れ鏡』のせいか……まず、お前は、自分を取り戻すといい」
「何なんだ? お前は?」
「この部屋は君に似合わないと僕は思う」
男は椅子から立ち上がった。
「待て。まだオレには訊きたいことが、たくさんあ――」
ズキズキと激しい頭痛がオレを襲った。
目が開けていられない。
「その左目、いつか見えるようになるといいね」
「僕の左目が見えないのは、生まれつきだ……って、何故お前が知っている?」
訊き返すと、そこには誰もいなかった。
モンスターを倒すと虚空へと消えるように、一瞬のうちで目の前から消えた。
最初から誰もいなかったかのようにさえ思える。
『なんだったんだ、今のは』と思った瞬間、心臓が痛み出した。
まるで、心を誰かに握りつぶされるかのような感覚だ。
ぐはっ。
覧に会えないどころか、父さん・母さんにも会えないまま、僕は意識を失った。
『旅野びの』と『戻衛覧』の異世界漂流記 ~ストーリー・フーチャー(畏怖)~
完
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