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第52話 走馬灯

「オレは……オレは……」


『覧と別れたくない……だが、どの選択をしても覧と別れることになる……いったいどうすればいいんだ……』……か。


 そうだ。迷え。迷えば迷うほど、俺を殺せなくなる。


『結局、覧とは別れる運命なのだ。それならば、今ここで、大凶を倒して、覧とも別れる……』


 くっ、びのから迷いが消えた。


 びのから何も感じとることができない。


 覚悟を決めた時の心だ。


「おいおい、いいのか? 覧ちゃんと一生別れるんだぜ?」


「死ね、大凶」


 びのの心を揺さぶるために声をかけても、聞く耳持たずか……


 さて、どうするか……


 あれは、本気で覧と別れることを覚悟した眼だ。


 そう簡単に決意を鈍らせることはできそうにない。


 びゅん。


 びのは魔法剣で俺に斬りかかる。


 さすが、全値全能の能力。


 速い。


 避けられない。


 このままだと一方的に嬲り殺されるだろう……


 あれ?


 何だ? この感覚?


 世界がスローになっている。


 今からびのに斬られようとしているのに?


 ああ、分かった。


 これが俗にいう、走馬灯というやつか。


 …………


 ……



 俺はまだ小さいころから皆に嫌われていた。


 この能力のせいだ。


「畏怖を使われたくない。はやくどっかに行け」「うわー、近くに来るな。はやく私の目の前から消えろ」


 この能力が異質すぎて、みんなから嫌われていたんだ。


 因果律・畏怖。相手が、『もしかしたら~かもしれない』……と思わないと使えない能力だから、大丈夫なんだ。逆に言うと、俺一人だけでは使えない能力なのだ……と皆に伝えたかった……


 でも、そのことは言えなかった。


 それは自分の弱点を言うに等しい。


 魔界は弱肉強食の世界だ。


 弱点がばれてしまえば、俺は完全に他の魔物に殺されてしまうだろう。


 言いたくても言えなかった。


 強くなるために。


 強くあるために。


 なんとしても生き残るために。


 俺は周りからすごいやつだと思われなければならなかった。


 結果的に、俺の周りから、友と呼べる魔物はいなくなった……


 友がいなくても、最初は全然平気だった。


 他の魔物からどう思われようが、全然気にならなかった。


 だが、いつの間にか心にぽっかりと大きな穴ができていた。


 最初は自分でも気づかないくらいの小さな小さな穴だったのだろう。


 その穴の正体がわからずに、肌を日で焼き、化粧をし、外見を自分好みに変えたり、言葉遣いを悪くしたり、自分の一人称を俺にしたりして、個性を出すことで埋めようとしていた。


 しかし、そんな応急処置で心の穴を塞ぎきることができずに、孤独に耐えられなくなった


 結局、俺は禁術・吾妻鏡の能力を手に入れた。


 吾妻鏡の能力は、相手を意のままに操る能力。


 相手を意のままに操る能力で相手を自分の思った通りに動かし、『もしかしたら~かもしれない』と思わせ、その瞬間、因果律・畏怖を使えば、最強のコンボだと思い込んでいた。


 孤独も埋められると思っていた。


 しかし、この能力では孤独を埋められなかった……


 この能力は、相手を意のままに操る能力で、相手の心が欠如するのだ。


 いくら相手を操れても、人形のように心が伴わないのであれば、本当にただのお人形遊びだ。


 ただのイエスマン。


 コンボなんかできるはずもなく、孤独を癒せるわけでもなく、分かったことは、今までと変わりなく、ずっと独りだということだけだった。


 皮肉なものだ。


 因果を操る俺が、自分の因果を操れないとは……


 …………


 ……


 ある日、運命が大きく動き出す。


 魔王選抜試験。


 魔界の中の上位4人が、異世界へ魔王として渡れるらしい。


 しかも、魔界にいる魔物全て強制参加と来たもんだ。


 俺は異世界なら孤独にならないかもしれないと思い、全力で試験に臨んだ。


 試験は、正直雑魚ばかりだった。


 俺はただ、どんなにピンチになろうとも、不敵に笑い、余裕を見せつけることで、相手に『もしかしたら、こいつ、奥の手を持っているのかもしれない』……と思わせるだけで十分だった。


 一方的な展開で拍子抜けしたが、結果、俺は最後まで勝ち残り、異世界へのチケットを手に入れた。


 もし、孤独になってしまったら、今度こそ、世界を支配してしまえばいい……軽い考えでこのジオフの世界に来たのだ。


 ジオフの世界にはじめて来た時、人間の『もしかしたら』がたくさんあった。


 最初のうちは、人間相手にもこの因果律・畏怖を披露していたが、魔界と同じく気味悪がられた。


 心の中が読めるというのは、一概にいいことばかりとは言い切れない。


 寄ってくるのは、『俺を利用してやろう』と思うやつばかりだ。


 異能……ゆえに、人間たちからも忌避された。


 そして、結局、このジオフの世界に来ても、ずっと独りだった。


 そんなときに現れたのが、勇者・びのだ。


 この男の考え方は、まあ、単純だった。


 そもそもが想像力のないアホなのだ。


 この男となら、ずーっと遊んでいられる。


 はじめてびのと戦った時、びのが、『もしかしたら、もう一度最初からこの冒険をやりなおさせるかもしれない』……思ったことにより、時間を戻すことに成功した。


 時間を戻してびのと遊んでいる間は、孤独が少しだけ癒された。


 そう、まるで、遊びに来る友人をまだかまだかとわくわくしながら、待っているような感覚だった。


 このジオフの世界では、俺たち魔王TUEEEEE――――ができる世界だった。


 何度も何度もこの世界を繰り返していたが、2100回目、その生活にも飽きてしまった。


 びのと遊んでも、結局記憶は消去され、俺のことは忘れてしまう。


 もー、いいや。


 ジオフの世界とびのの世界を支配しよう。


 そう思っていた矢先、覧を強くし過ぎたせいで、失敗してしまった。


 そして、今回の2101回目である。


 前回のようなへまはしない。


 今回はジオフの世界もびのの元居た世界も支配してやる……


 そう意気込んでいたのに、結局、何も果たせずに、俺は死ぬ。


 いや、俺はずっと独りだったのだ。


 だから、死ぬ時も独りというのも何もおかしいことじゃないじゃないか。


 …………


 ……


 俺が走馬灯を見終わると、俺は脳天から真っ二つに体を斬られていた。


 右半身と左半身に分かれ、視界がずれる。


「これがお前の選択か?」


 体が真っ二つになったので、声を出すどころか、口も動かせないかもしれないと思っていたが、どうやらまだ声はでるようだ。


 しかし、それも時間の問題だ。


 このままだと、俺は本当に虚空へと消えてしまう。


 どうする? どうする?


 思考がまとまらない。


「いや、違うな」


「何が違うんだ?」


 俺を真っ二つに斬って、違うも何もないだろう。


「どうやら、オレは、お前たち魔王のことを知らなさ過ぎたようだ」


 は?


 何を言ってるんだ? びのは?


 意味が分からない。


 なんだ、俺の孤独を理解していなかったから、今からお前を理解してやるぜ……とでも言いたいのか?


 それとも俺を混乱させて、最後の因果律・畏怖を使わせないつもりか?


 もはや、思考を読み取ることさえできなかったので、びのが何を思っているかはわからない。


 分からないが、びのに、地獄を味わわせてやるぜ。


「お望み通り、覧ちゃんの存在もお前の記憶から消し去ってやる。魔王の悪意をなめるなよ。びの」


 やられたら、やり返す。


 それが俺のやり方だ。


 俺は最後に因果律・畏怖の能力を発動させた。


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