第51話 自惚れ鏡
口では倒すと言っているが、心は悩んでいる。
ついに俺の術中にはまったな、びの。
「くくく……それもいいだろう。びの、お前は俺を殺すことも可能だ。俺を殺せば、覧ちゃんも消える。そして、覧と永遠に別れるといい」
「くっ」
覧との永遠の別れで心が揺らぐびの。
それはそうだ。
びの、お前のアキレス腱は、覧なのだ。
「びの、このまま悩んでいる間に、俺に殺されることも可能だ。殺せば、お前はこの世から消える。そして、覧と永遠に別れるといい」
それならそれで構わない。
「びの、このままお前だけコンパクトを覗いて逃げ出して、元の世界に帰ることも可能だ。元の世界に帰れば、このジオフの世界に2度と来られなくしてやる。そして、覧と永遠に別れるといい」
びのは、その選択をしないと思うが、それならそれで構わない。
「さて、びの、お前はどの選択をする?」
「オレは……オレは……」
「そうだよな、びの。お前に選択はできない」
「くっ」
「なぜなら、どの選択をしてもお別れだからな」
このびのは、今まで戦ってきたびのの中で最も弱い。
ステータスだけみれば、びのは強い。
歴代びのの中で間違いなく最強で、神をも倒すレベルだろう。
だが、根本的に心が弱いのだ。
自分で自分を信じていない。
口だけの男だ。
その点だけで言えば、今までで最弱と言っても過言ではないだろう。
2100回目は、びののステータスは弱すぎた。
びのは赤子にも勝てないほどに弱すぎたのだ。
だから、2100回目の覧ちゃんの補助を強くした。
だが、覧ちゃんの補助を強くし過ぎてしまい、びのを成長させ過ぎてしまった。
俺に勝ってしまうくらいに。
2100回目の死ぬ直前、覧ちゃんの補助を強くし過ぎたと思いなおし、覧の吾妻鏡の補助を最低限にした。
そして、魔王・四強を創り出し、びのを『ゼロから世界を作り直す』という餌で釣ったのだ。
2101回目があるかどうかも分からなかったが、結果は成功だ。
びのは2101回目で、自分が最強で何もかもが思い通りになる世界を望んだのだ。
その最強の力が俺に与えられた借り物の力だとも思わずに、いい気になっていたのだ。
物語の主人公が最強やチート能力を持って異世界転生しますって話があるが、努力もせずに手に入れた借り物の力になんの価値があるというのだ?
無双する世界を夢想したびのは、無想のまま突っ走り、借りていた力の持ち主に会うことで、どうすることもできなくなっていたのだ。
本当にざまぁだ、びの。
このまま主導権を握らせてもらう。
俺が主導権を握れば、この異世界漂流を半永久的にびのにプレイさせることができる。
何度も何度もタイムリープし、生かさず殺さず、未来に行くこともなく、閉じた世界で何度も何度もびのと戦うのだ。
弱くなったびのと戦いを繰り返しながら、機をうかがえば、ジオフの世界とびのの世界だけにとどまらず、魔界さえも支配できるかもしれない。
もう少しだけジオフの世界をやりなおせば、3つの世界で俺は支配者となれるかもしれない。
ああ、なんと甘美な世界だろう。
今ここで覧ちゃんからコンパクトを奪い取り、2つの世界を支配するより、もっと夢がある。
俺のこの力があればそれも可能のはずだ。
この何度も繰り返す世界に飽きたからといって焦るのではなく、夢を大きく持って、じっくりと目標を達成させよう。
「びの、私のことは気にしないで、大凶を倒して。私は大凶に創られた存在。もともと、家族なんかいなかったんだ」
「はい、黙ってようか、覧ちゃん」
「ハイ、わかりました。私は黙っています」
俺が吾妻鏡の能力を使うと、俺の命令通りに口を噤んだ。
「覧、大丈夫か、覧!」
びのは肩をゆすって正気に戻そうとするが、覧ちゃんはうんともすんとも言わない。
「無駄だ、無駄」
「覧を元に戻せ」
「それは、びの、お前次第だ」
びのはきっと覧がいない世界をびのは望まない。
ここで引導を渡してやろう。
「歴代のびのがしてきたように、『もしかしたら、今までの冒険をまた最初からやり直させようとしているのかもしれない』……と心の中で望め。そうすれば、可愛い、可愛い覧ちゃんとは、お別れしなくてすむぞ」
さあ、望め。
もしかしたら……と。
そうすれば、びのは覧ちゃんとまたやり直せる。
時間稼ぎができる。
結論を先延ばしできる。
先延ばしができるのであれば、できるかぎり先延ばしをする人間に成り下がれ、びの。
いつか・きっと・明日こそは……と言いながら、決して訪れることはない明日を夢見て生きるのだ、びの。
どんなに頭がよかろうと、結論が出せるにも関わらず、結論を先延ばしする人間は弱い。
今よりも弱くなったびのなら、間違いなく俺が主導権を握れる。
「くくく……『オレの全値全能の力で、なんとか覧を救えないか』……か。残念だったな。その能力じゃ、覧を救うことなんかできないぜ」
「何故そう言い切れる?」
「もともと、その全値全能は、2100回目の俺が授けた能力・自惚れ鏡だからさ」
「自惚れ鏡だと?」
「さっきも言ったけど、本来、お前は底辺の中学生なんだぜ。だから、オレが能力を貸してやったんだ。それが自惚れ鏡。その能力があれば、自分が思っている以上の能力を発揮することができる」
「オレがその能力に頼り切っているということか?」
「その通り。その能力はお前以上に俺が理解している」
「ウソじゃないんだろうな?」
「疑うなら、ウソ発見器でも使えばいいじゃないか」
もちろん、俺は、びのに嘘をついていない。
俺がびのに与えた、自惚れ鏡の能力なら、俺を殺すことはできるだろうが、その能力では、俺の吾妻鏡の能力を解することはできない。
そのことは、自惚れ鏡と吾妻鏡の能力を与えた俺が一番よく分かっている。
下唇をかみしめ、悔しそうにするびの。
唇からは血がたらりと垂れていた。
「さて、どうする? 勇者様?」
「覧が本当に創られた存在なのだとしたら、元の世界に連れて帰ることはできない」
「へー、可愛い覧ちゃんを見捨てるのか?」
「そう、だから、オレは……」
「俺を殺すね……」
俺はびのの心を読んで、確認するようにつぶやいた。
「何故、涙を流すんだ? 勇者びの? 今、決めたんだろ? 俺を殺すことを。それとも、もう一度この旅をやり直すことを選択するのか?」
さて、覧ちゃんはこのことを聞いて、どんな風に思ってるのかな?
ちらりと見やり、覧の心を読む。
へー、そんな風に思ってるんだ。
さすが、覧ちゃん。
びのは……ふーん、なるほど、なるほど。




