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第49話 ホント

「惑わされるな、覧。その機械の電源をいますぐ切るんだ」


 覧はびのの言う通りに電源を切った。


 あーあ、あのおもちゃでもう少し遊びたかったのにな。


「電源を切ったところで、覧ちゃんが俺の仲間だということにかわりはない」


「うるさい、黙れ」


「また出たよ。自分が信じたいことしか信じない人間の本性。本当にそういうの大嫌いだぜ」


 それなら、教えてやろう。


 俺が一から、丁寧に。


 そして、絶望をするといい、びの。


「何か意味があると思わなかったか?」


「何がだ」


「名前だよ」


「名前だと?」


「『戻る』の『戻』・護衛の『(まもる)』・閲覧の『覧』……この名前を見て、なんとも思わなかったのかと訊いているんだ」


「それは、たまたまだ」


「本当におめでたい頭だな、びの。覧が本当に実在していると本気で思っている。やれやれだ。本当に、やれやれだ、びの」


 俺は大げさに、ため息をついた。


「黙れ……」


「お、その様子だと気づいたんじゃないか?」


 俺はびのと覧の心を読めるという事実を伏せて、知らないふりをしてびのに尋ねた。


「うるさい、黙れ」


「『戻衛覧』などという人間は存在しない。虚構の存在なんだよ」


「虚構の存在なものか!! 嘘をつくな!!」


「疑り深いな」


「覧はオレの義妹だ」


 心の中は読んでるんだけどね。


「そう、旅乃びの、お前の義妹だ。お前と共に時間を戻り、護衛し、動きを監視する俺が創った創作物だ」


「覧はお前の創作物なんかじゃない。覧の父と母は存在しているんだからな」


「覧の父と母ね。その二人は、覧の記憶の中にしかいないはずだ」


「そんなはずはない」


「じゃあ、訊くが、お前は会ったことがあるのか? 覧の父と母とやらに」


「それは……」


『会ったことない』……ね。


 心の中は丸聞こえなんだよ、びの。


 会ったことないのは、当然だ。


 俺は覧の家族は創っていない。


 覧に偽物の記憶を植え付けてはいるが、覧の家族を創ってなどいないのだ。


 正確に言うならば、創れなかった……が、正しいのだが、そんなこと伝える必要もない。


 だが、覧に家族がいないことが覧自身自覚してしまうと、何かと都合が悪かったので、俺は覧に偽物の記憶を植え付けた。


 だから、覧自身は自分には両親がいて、自分を捨てたと都合よく解釈をしているはずだ。


「もう一つ尋ねよう。お前は覧がどんな研究で、ノーベル賞をとったかを知っているのか?」


「いや、わからない」


 そう、読んだことさえないはずだ。覧の研究を。


 これも、俺の能力で、俺が創り出したのだ。


「ノーベル賞をとった研究がどんな研究だったか教えてくれよ、可愛い、可愛い覧ちゃん」


 俺は覧に尋ねる。


「それは……思い出したくない」


「そうだ、覧はノーベル賞を受賞して、両親に捨てられたことが原因でオレの家に引き取られたんだぞ?」


「いや、違うな。思い出したくないんじゃない、覚えてないんだ。ノーベル賞を受賞したという結果だけ『戻衛覧』に関わった人物が認識しているだけなのだからな」


「そんなわけない……」


「事実から目を逸らすなよ、覧ちゃん。お前は、この異世界の魔王・大凶がびのに護衛の任務を与えた人形だって認めて楽になっちゃいなよ」


「そんなの嘘に決まってるよ」


 涙を流しながら、必死に俺を否定する覧ちゃん。


 うん、可愛いね。


「変だと思わなかったか? 小学校1年生で発表した研究が小学校4年生の時に賞をとるなんてあり得ないだろ?」


「そ……それは……」


「それはどう説明するんだ、覧ちゃん?」


「驚異の速さで受賞したんだろ。そうなんだろ? 覧」


「おいおい、意地を張らずに、俺の言うことを信じてくれよ、覧ちゃん」


「大凶、お前は黙ってろ」


「くくく、俺の言葉が信じれないのも無理はない。俺が記憶を消しているのだから、認識なんかできないだろうしな」


 その通り。覧は、覚えてなどいない。


「それなら、覧自身は……」


「ああ、本人は気付いてないよ。でも、今、気付いちゃったかもね」


 青ざめる覧。


 ああ、青ざめた表情が一番お似合いだよ、覧ちゃん。


 それはそうだ。


 自分の存在意義がひっくり返ったのだ。


「『私は、この大凶に創られた存在? 嘘でしょ。嘘に決まっている』……か。まあ、さすがの天才覧ちゃんでも、理解は追いつかないか。俺が創った割には、意外ともろいな。覧ちゃんの心」


 くくく、ここで覧ちゃんの心を読み、それを口にすることで覧ちゃんの心を揺さぶる。


 このまま覧ちゃんの心、壊しちゃおっかなー。


「『なんで、私の心を読んでいるんだ? そういう能力か? やめろ、私の心を読むな。それじゃあ、本当に、私が創られた存在みたいじゃないか』……か。でも、事実なんだから仕方ないぜ」


 その表情、ぞくぞくする。


 本当は覧ちゃんだけでなく、全員の心が読めるんだが、そのことは黙っておこう。


 覧と対峙をするたびに、ネタばらしをしてきた。


 本当は、覧という存在は俺が創り出した『おもちゃ』なのだと。


 もし、俺という存在が消えれば、覧は1時間もせずに消えてしまう存在なのだ。


 俺を殺した時点でびのと覧は一緒に元の世界に帰ってハッピーエンドな結末など、あり得ない。


 希望から絶望へと堕とすこの瞬間はたまらない。


「さあ覧ちゃん、思い出してごらん、今回の旅を。今回の旅も、覧が危険にさらされるということはなかったはずだぜ。俺がびのの護衛のために創ったおもちゃなんだから」


 そう、覧と対峙した時に、全ての魔王はなんとなく気付いていたのだ。


 覧ちゃんと同じにおいがすることに。


 だから、覧ちゃんには、手を出すことをためらった。


 覧ちゃんを最初から安全圏に居させたり、あるいは、降参するなら命だけは助けてあげようと言ってみたりしていたのだ。


 何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も。


 どうしても、覧ちゃんが邪魔になったときだけ、手を出すようにしていたのだ。


「待て、今、お前、今回の旅『も』って言ったか? 『も』ってことは、この旅が初めてじゃないということか?」


 ああ、そういえば、そのネタばらしをしてなかったっけ。


 きちんと説明してあげないとね。


「当たり前じゃないか。この世界はオレの力によって、ループしてるんだぜ」


「ループだと?」


「ああ、そうさ」


「そんなわけないだろ」


「出たよ。自分が信じたいこと以外信じない理論。いいよ、もう別に、信じようが信じまいがお前らの勝手だ。ちなみにいいこと教えてやろうか?」


「何だ?」


「可愛い覧ちゃんの容姿は、びのの創造力によって成り立っている」


「オレの創造力?」


「ああ。びのの創造力だ。今までだと、129cmのロリロリ低身長って時が多いな。今回は165cmの長身モデル体型だが、本当はびの、こういう女が好きなのか? 何とか言ってみたらどうだ、びーのー」


 びのも青ざめた。


 ははは。


 これは傑作だ。


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