第48話 ウソ
「弱い相手を倒すつもりはさらさらない」
「ぼくちゃんは弱い者いじめはしません……ってか?」
「ああ、そうだ」
「俺は強いんだぜ?」
「驕りだな。ステータスが666のお前が強いわけがない」
ふーん、そういうこと言うんだ。
「おいおい、ウソ発見器が反応してないじゃないか。もし、俺が弱いのだとしたら、反応するんじゃないのか?」
「覧のつくったウソ発見器は、自分を強いと勘違いしている傲慢な魔王には効かないんだよ」
傲慢なのはお前だろ、びの。
びのを崩そうとしても難しいか。
それなら、覧ちゃんだな。
「覧ちゃんはどう思う? 最後の魔王がこんなにも弱いと思うか?」
「この女、何か隠してるんじゃないかな? もしかしたら、ステータスが偽物のステータスで、本当はとても強い……とか……」
くくく、いいぞ、覧、俺の思惑通り。
だから俺は、お前が大好きなんだ。
因果律・畏怖。
俺は心の中で魔法を唱えた。
「おいおい、覧、お前もステータスチェックしてみろよ。全ステータスが666だ」
覧はびのに言われ、俺のステータスチェックをする。
「びの、やはりこの女、隠してた」
「何だと?」
「もう一度、俺のステータスチェックをしてみたらどうだ? びの」
俺はびのに促す。
「ステータス・チェック」
まさかそんなことあるはずないと思いながらも念のためにステータスチェックをするびの。
大凶LV666
HP:666(+0)
MP:666(+0)
種族:魔王
筋力:9999999(+0)
体力:9999999(+0)
耐性:9999999(+0)
敏捷:9999999(+0)
魔力:9999999(+0)
魔耐:9999999(+0)
運 :9999999(+0)
「なんだと? 何故、こんなにも違う? 近くにハードスライムもいないのに……」
「どうだ? 驚いたか?」
くくく、この調子で心を乱してやるから、覚悟しろ、びの。
「ははは、倒しがいがあるじゃないか、大凶」
はん、俺が強くなって、笑うとは。
こいつの精神も、俺と同様いかれてやがる。
「そう言ってくれて助かるぜ。さあ、どうやって俺を倒す?」
「普通にだ。ウォーター・スラッシュ」
俺は微動だにせず、その水の刃を受け止める。
「やった、さすがびの」
覧ちゃんが歓声をあげる。
歓んでるところ悪いけど、びのの魔法なんか、全然、効きませーん。
痛くも痒くもない。
「効かないぜ。その程度の魔法で俺が倒せると思ったのか?」
「思うわけないだろ」
くっ、びのめ。魔法を陽動に使いやがった。
びのは魔法剣で俺に斬りかかる。
このパターンは増強がびのにしかけた技そのものじゃないか。
びのめ、そのままパクリやがってるな……
なんて学習能力だ。
「さすが、びの」
「だが、残念だったな、びの。その程度の攻撃じゃ俺は斬れない」
酔狂だったら斬ることができたかもしれないが、俺のステータスは完全にお前らより上なんだぜ。
俺は全身に意識を集中して、びのの剣をはじき返す。
「魔王だろうと関係ない。覧、セオリー通り、俺に強化魔法をかけろ」
「了解、身体強化」
くっ、ここで強化魔法か。
覧が魔法を唱え、びのが白いもやに包まれる。
これは、酔狂を倒した時のような息ぴったりの連携技だ。
さすがに、びののステータスで5倍なら、さすがの俺も躱さなければなるまい。
「おりゃ」
ぶんっ。
振り下ろされた刃を俺はすんでのところで避けた。
「この調子なら、この魔王を倒せる……」
びのはにやりと、悪魔のような笑みを浮かべた。
この連携はかなり厄介だ。
防御に徹すれば、この連携が続く限り、俺がじり貧になることは目に見えている。
こちらからも攻撃をするしかあるまい。
「すごい連携だな。びのが斬りかかっている間に、覧ちゃんが隙をつく。さすが仲のいい義兄妹だ。これなら、酔狂を倒したのにも納得いく」
まあ、実際にはその戦闘シーンも見ていたんだけど、それは黙っておこう。
「はん。オレ達の連携の凄さを見て、戦うのをやめたのか? 今降参するなら命だけは助けてやってもいいぞ」
出たよ、上から目線。
マジでムカつくぜ。
「降参? 俺が? はっはっはっ、冗談にもなってないぜ」
「それじゃあ、オレと覧の完璧な連携によって、今すぐジオフの世界から消え失せることになるぞ、大凶」
「完璧? それは違うな。な、覧ちゃん?」
俺は覧ちゃんにウィンクをした。
覧ちゃんは背筋をぶるっと震わせる。
「は? 何言ってんの、この女?」
『もしかしたら、この女、私を仲間にしようとしているの……』……と思ってくれれば、楽だったんだけどな……
『気持ち悪い。私がこの女の仲間なはずないじゃない……』……か。
そうだよな。さすがに、そんな風には思わないよな……
「おいおい、覧ちゃんは俺の仲間だろ?」
「ははは、はったりもここまでくると笑えるな」
小馬鹿にするように笑うびの。
「はったりなわけないだろ? なあ、覧ちゃん」
「びの、言うまでもないけど、そいつ、嘘をついてるよ」
「本当に言うまでもないな。何を狙ってるんだか……」
「それはどうかな? まあ、この場にはウソ発見器なんてものがないから、ウソかどうかなんかわかるはずないよな?」
クスクス。
厄介だった、ウソ発見器を逆利用してやる。
「え、びの、待って。そういえば、ウソ発見器の音が鳴っていない……」
「それは、機械の電池が切れたんだろうよ」
「その通り、びのの言う通り、そのウソ発見器は壊れているのさ」
ピー。
俺があえてウソをつくことで、ウソ発見器の音を出させる。
「びの、ウソ発見器が作動してるよ」
「きっと、機械の調子が良くないんだろう」
「なんで、俺は嘘をついていないって結論にならないかね? 人間って、自分の信じたくないことって、とことん信じないよな? そういうところが嫌いだぜ」
俺はシニカルに笑ってみせた。
「惑わされるな、覧。大凶は、何かウソ発見器に何か細工をしたんだ」
「そう、俺は、ウソ発見器に細工をしました」
ピー。
俺はまた、わざと嘘をついて、音を鳴らせた。
「やっぱり、正常に作動してるってこと?」
「さあ、どうなんだろうね?」