表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/54

第46話 一気飲み

 「それじゃあ、我は一気に強くなるアル」


 この手段はできれば使いたくなかったが、仕方ない。


 我は、酒を一気飲みした。


 我の体よ、なじんでくれ。


「へー、お酒を飲んで、一気にステータスをあげるのかい?」


「なんで、我の能力を知っているアルか?」


「図書館の文献にそう書いてあったからね」


 図書館の文献? なんだそれ? まあ、いい。


 ごきゅ、ごきゅ。


 一気に酒を飲み干す。


「そうはさせない。アイス・フリーズ」


 目の前に居た覧が我に氷魔法をかけた。


「その程度の冷気じゃ効かないアル」


 我はこの程度の冷気では凍らない。


「聞いて驚くな、我のステータスは、オール9999999アル」


 とりあえず、こけおどしに適当なステータスを伝えておく。


「それは、こっちも本気を出さないとな」


 勇者はやる気を取り戻したようだ。


 とりあえず、勇者と距離を詰め、我は勇者の顎を目掛けて、思いっきり右拳をくりだした。


 勇者は、我の拳を剣で受け止めた。


 しかし、拳を繰り出した時の風圧までには対処できず、後ろへと吹っ飛ぶ勇者。


 我は左手で右肩をつかみ、右肩をグルグルと回した。


 どうやら、異常はないようだ。


 すきっ腹に大量の酒を注ぎこんだから、体になじむか心配だったが、とりあえずは大丈夫のようだ。


 勇者は受け身をとり立ち上がる。


「ドラゴン斬り」


 勇者は魔力を刀に込めて、我に斬りかかる。


「速いアルね」


 言いながら、一歩だけ後ろへと下がった。


「速いとか言ってる割には、きちんと見切ってるじゃねーか。それにお前、俺たちに勝つのまだ諦めてないだろ?」


「どうアルかね?」


 振り下ろされた刃を折るためだけに、剣へと蹴りを入れる。


 ガキンという鈍い音が辺りに響いたが、剣を折ることはできなかった。


 この剣、硬さと柔軟性を兼ね備えている。


 折るのは難しい。


「なるほどな。オレを狙うのじゃなく、オレの武器狙いか。お前、結構、喧嘩慣れしてるだろ?」


 狙いがばれた。


 こんなにもはやく我の狙いに気付くとは、この勇者はかなり賢い。


 そう、確かに勇者は強いのだ。


 ステータスだけなら、世界最強だろう。


 だがしかし、武器はどうだ?


 勇者が強いからといって、武器まで成長するわけではない。


 武器と言う名の得物を破壊すれば、勇者は体術しか使えなくなる。


 勇者が体術しか使えなくなれば、相手の力を利用する体術を身に付けている我のほうが有利になるはずだ。


 ステータスに頼らず、技だけを毎日磨き上げた我だからできる勝ち方だ。


「まあ、増強よりは、慣れているアル」


 我と違って、増強は平和主義者だったからな。


「それなら、これはどうだ? 稲妻斬り」


 我に突進して、剣を突いてきた。


 先ほどのドラゴン斬りより、何十倍も速い。


 だが、しかし、我は目に頼るだけの戦い方をしていない。


 纏っている気功から、ひいては周りの空気から読み取るのだ。


 我の前で速さは無力。


「甘い」


 我は左手に気を纏わせ強化し、勇者の剣の刃を握りしめた。


 よし、つかんだ。


 触った一瞬で、剣の強度を認識する。


 ふーん、これ位の強度なら、折るは難しいにしても、曲げることならできるかもしれない。


 気を練り、右手を握りしめる。


 その瞬間、勇者は我の気に即座に対応し、剣を思いっきり引いて手元に手繰り寄せた。


 ちっ、失敗か。


 でも、次は剣先を捕まえて確実に折る。


 先ほどの勇者の稲妻斬りは、速さに特化するあまり、直線的な動きだった。


 直線的な動きであるならば、動きの予測がしやすい。


 その動きを予測して、剣を曲げ、無力化することさえ可能のはずだ。


 もし、先ほどより速いスピードだったらどうなるかわからないが……


 いや待て。


 『もし』なんて考えるな。


 その考えが決意を鈍らせるんだ。


 こういう時は、一点集中。


 例え、2倍速だろうと、10倍速だろうと関係ない。


 勇者の剣を曲げることだけを考えろ。


 他のことに意識をそらすな。


 我は深呼吸し、全身を気で纏い、下構えを取る。


 さあ、勇者よ、我の顔ががら空きだ。


 顔を狙え。


 先ほどと同じように直線的な動きで。


「おいおい、顔ががら空きじゃないか。2倍速の稲妻斬り」


 我の誘いに乗った勇者は、先ほどよりも速いスピードで突きをしてきた。


 狙い通り。


 研ぎ澄まされた神経が我の体を動かし、勇者の動きを予測することができる。


 このまま勇者が剣を突いてきさえすれば、左手で剣を握り、剣を曲げることができる。


「よし、掴んだアル」


 我は思い切り剣を掴み、それを曲げようとした瞬間、


 我は刀だけを掴んでいた。


 どういうことだ?


 刀が壊れたのか?


 ははーん、なるほど、なるほど。


 きっとこの勇者、刀で無茶をしたに違いない。


 だから、刀がそれに耐えきれずに、壊れたということだ。


 運のない勇者もいたものだ。


「我の勝ちアル」


 刀身を勇者に投げつけると、勇者はその刀剣をキャッチする。


 このままこの勇者をタコ殴りにしてやる。


「やっぱり、剣を手で握ることができるなら、その作戦だよな。オレでもそうする」


 まさか、こうすることを読んでいた?


 もし、こうすることを予測していたのなら、何か作戦があるはずだ。


「覧!!」


「分かってる。氷結魔法、絶対凍結」


 脚が冷たい?


 我の後ろから、覧が魔法を唱えていた。


 だがしかし、我に冷気は通じない。


 なぜなら、我の体は、ほぼエタノールでできているからだ。


「可可可。他の魔王ならいざ知らず、この酔狂にその程度の冷気、効くわけが……」


 いや、凍っている。少しずつだが、確かに我の脚が凍り始めていた。


「酔狂、その次の言葉は何? 早く教えて欲しいんですけど」


 悪魔のような笑みで我の言葉を待つ女。


 くっ。この女、かなりの魔術師だ。


 どうする?


 勇者は刀がないのだ。


 手も足もでない勇者など、怖くない。


 余裕をかまして、お酒でもやろうか……


 ……って、ちょっと待て。


 手も足もでない?


 いや、違うだろ。


 我は何を勘違いしているんだ?


 現状は勇者が剣を使えないだけで、勇者が喧嘩慣れしていないなんて誰が言ったんだ?


 あの、増強を倒すレベルなんだぞ?


 勇者は我と同じくらい体術を極めているかもしれないというのに……


 仕方ない、こうなれば緊急脱出だ。


 水鏡。


「よう。使うと思ってたぜ、その瞬間移動能力。お前が最後に酒をのんだところで先回りすれば、倒せるよな?」


 しまった。


 先回りされていた。


「あばよ、酔狂」


「ぐはっ」


 我はびのに斬り落とされた。


 ……って、斬り落とされた?


 先ほど、勇者は刀を壊したはずなのに。


「なんで、勇者が刀を持っているアル?」


「おいおい、お前の目は節穴かよ? 最初からオレは持っていただろ、刀」


「それは我が壊したはずアル。なんで壊れてないアルか?」


「ああ、違うよ」


「何が違うアル?」


 同じ刀をどこかに隠してしこんでいたのか?


「壊したんじゃなくて、分解したの」


「分解?」


「ああ。この刀は、釘目ってところを取ると、簡単に分解できるんだ」


「壊れたようにみせかけるため、自分から刀を分解したということアルか?」


「そういうこと。お前が瞬間移動する前に刀が組み立てられるかどうかは微妙だったけど、一瞬でできるもんだな」


「もう、びの、また無茶して。もし、組み立てられなかったらどうするつもりだったの?」


「その時は、分解された刀身だけで斬りつける予定だった。格好よくないけど」


「魔王を倒すのに格好いいもよくないもないとないと思うけど」


「いや、格好悪いよりは、格好よく倒したいじゃん」


「そんな……」


 こんなふざけたやつらに我は負けるのか……


「酔狂、オレの武器がこの刀だけだと思い込んでいたのが、敗因だよ。オレには、覧もいれば、刀の知識も武器になる」


「くっそーーーーー」


 我の体が透明になりかけた。


 我の体がすべて消えるまでに、時間がある。


 びのが自ら刀を分解したように、我も自ら自爆して一矢報いてやる。


「爆炎」


 我は、自分の体を引火させて、爆発させる。


「びの、あぶない」


 覧に気付かれた。


「問題ない」


 びのは爆炎を見切り、紙一重のところでかわした。


「体が視認できる間は、抵抗できるってことか」


 勇者は独りごちて納得する。


 本当に無念だ。


 ダメージを全く与えられないまま我は死ぬ。


 まあ、我は、どこの世界でも、はみ出し者だ。


 ここで消えていくのもいいだろう。


 我が消えれば、大凶が乗り出してくる。


 あとは、大凶に任せよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ