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第45話 酔狂

 ~増強が倒される数分前~


 あー、それにしても、大変な目にあった。


 転移してきた先がレストランで、そこでご飯を食べたら、無銭飲食で訴えられて、ウェイターなんていう仕事をさせられるなんて……


 我、これでも一応魔王なのに……


 そこで、まかないもたくさん食べれて、お酒をたくさんもらえたから結果オーライだろう。


 ここが業火の砦か……


 噂ではここに増強が住んでいるというが本当だろうか?


 一度、我の目で確かめなくてはいけないな。


 ジオフの世界では魔王同士近くに居すぎるといけないと言われていたが、ちょっとだけあって、もらった食べ物を分けるくらいなら問題ないだろう。


 確か、門番にドラゴンがいたという噂だが、今はいないな。


 我が耳にしたのは、あくまで噂。


 噂が間違っていたか、あるいは、この世界でドラゴンを飼うのが大変で魔界へ送還させたのかもしれない。


 ドラゴンがいたら、しつけがてら戦おうと思っていたのに、残念だ。


 我は酒をちびりちびりと飲みながら門の中に入った。


 『お義姉ちゃん、勇者には勝てない。わたくしでも勝てなかった。勇者を見たら、すぐに逃げて』


 頭の中で、メッセージが聞こえた。


 まさか、義妹の増強がやられた?


 我より強いあの増強が負けたというのか?


 そんなことはあり得ない。


 あの娘は、増鏡という最強な能力を有しているのだぞ。


 我は真実を確かめるために、気配を探る。


 いた。3階だ。


 増強の他に2人いるが、これが勇者か?


 砦の中はがらんとしていて、1階と2階には何の気配もない。


 まさか、勇者が根こそぎモンスターを倒したというのか?


 そう考えると、門にドラゴンが居なかったことにも合点がいく。


 はぁはぁ……


 我は全速力で走った。


 増強の気配は今にも消えてしまいそうだ。


「いやーーーーーーーー」


 増強の断末魔が聞こえた。



「増強!!」


 我は叫びながら、扉を開ける。


 目の前には増強のおでこの角が虚空へと消えるところだった。


「増強!!」


 おそらく我の声は増強には届いてないだろう。


「お前らがやったアルか?」


「ああ、オレたちがやった。あんたはこいつの仲間か?」


「我は魔王の一人。名前は、『酔狂』アル。お前の名は?」


 ぐびりと酒で口を湿らす。


「オレはびのだ。勇者をやっている」


 この男が、義妹を倒した、勇者。


 見たら逃げろと言っていた男。


 増強でも敵わなかった相手。


 そう考えると寒気がした。


 増強が勝てなかったのだ。


 おそらく、我も勇者たちに勝てないだろう。


 でも、勝てないと分かっていても、戦わなければならない時がある。


 それが今だ。


「そちらから来てくれるとは、探す手間が省けた」


「どうして、増強を倒したアル?」


「人間を何人も殺したからだ。それ以外に理由はない」


「あの娘はいいこだったアル」



 我はぐびりと徳利で口を酒で湿らせた。


「いいこが何人も人を殺すのか?」


「あの娘は、自分から手を出すことはしない優しい娘アル」


 そうだ、あの娘からは決して手を出さないのだ。


 魔界でも、あまりにも強大すぎて、誰も近寄ろうとはしなかった。


 強すぎる異能を持ったがゆえに、ずっと独りだったのだ。


 自分の力が強大すぎると分かってからは、その力も封印していたのだ。


 捨てドラゴンを拾って、手を噛まれたとしても、自分から手を上げることなどない娘なのだ。


「はん、どうだかな」


 言葉を吐き捨てる勇者。


「人間側から手を出したに決まっているアル」


 我は臨戦態勢を取った。


「そういうお前も人間に手を出されたから倒す口か?」


「我はそんなにできた魔王じゃないアル」


 我の場合は自業自得だ。


 すぐにお腹がへるから、大量に食べるし、アルコール中毒なのに、アルコールもやめることができなかった。


 飲めば飲むほど強くなる体質なのだから、魔界では誰の手にもおえなかった。


 周りからだんだんと友と呼べるものがいなくなり、結局一人になった。


 そしてこのジオフの世界に来ても、それは同じ。


 空腹を食と酒で満たすために奪い取る。


「義妹を倒したお前は、許さないアル」



「覧、下がってろ。オレがやる」


 勇者は、我の脚めがけて剣を振り下ろす。


 速いっ。


 能力・水鏡。


 分身と我の位置を交換した。


「ふぅん、分身と位置を入れ替える能力か……」


 分析された。


 たった1回だけ能力を使っただけなのに……


「美脚を傷つけるのは気が引けたから、まあ、いいんだけど」


「びの、その女はチャイナドレスのスリットを利用して、美脚だと錯覚させてるだけだから。私の方が美脚だから」


「はいはい、覧のほうが美脚だね」


「もう、びの、心がこもってないよ」


「今、そういう話している場合じゃないだろが」


 なんなのだ、この余裕は?


 魔王を目の前にしてるというのに何故、こうも余裕で会話ができる?


 我に負けることはないと高を括ってるのか?


 我は、酒を飲むために、徳利を持ち上げた。


「お前、お酒を飲んだ時に、ついでに分身を創り出してるだろ?」


 口に含もうと持ち上げた徳利の手が止まる。


 この男、完全に我の能力を解析している。


 たった1回見ただけで。


 なんて分析力……


「さてと、飲めば飲むほど、分身が創れるというなら、飲まないうちにとどめをさすしかないんだけど、今の動きからすると、お前、ステータス、高くないだろ?」


 その通りだ。


 我は、酒を飲めば飲むほど強くなる。


 だが、飲まないうちは強くならない。


 さらに悪いことには、ここに来るまでに全速力で走ったため、酔いが冷めてきている。


 それならば一気に酒を飲めばいいのではないかと思うのだが、急に酒を飲むと、体になじまずに、リバースしてしまう恐れがある。


 ちびりちびりと飲むしかないのだが、急に勇者と戦闘になることを想定していなかった。


 我は勇者と距離をとる。


「それなら、遠距離から攻撃アル」


 我は、手足に意識を集中させ、気を練って作り上げた爆弾を手足にまとわせる。


「エキサイティング弾」


 我は、気功の弾を勇者に向かって投げつけた。


「効かないな」


 我の気功をシャボン玉を割るかのように、剣で壊していく勇者。


「増強、お前本当は、近距離攻撃型(インファイター)だろ?」


「なぜ分かったアル?」


「この気功の弾、弱すぎるからな。毒とか、攻撃力ダウンさせるとかのバッドステータスもないみたいだし」


 くっ、近距離攻撃が効かない時に編み出した技なのに、こうもあっさりと破られてしまうとは思わなかった。


 勇者は、我との距離を一気に詰めると、喉元に目掛けて剣を突いてきた。


 我は上半身を反らし、その剣を避ける。


 勇者は、そのまま突いた剣を振り下ろしてきた。


 我は刀身を避けるために体をねじれさせた。


 まずい、避けきれない……


 ……と思った瞬間、勇者は、我に当たる寸前で剣を止めた。


 ぐー


 我のお腹がなる。


「お前、本調子じゃないのか?」


「おやおや、勇者様が魔王の体調の心配アルか?」


 実際、お腹が空いて、本調子でないのは確かだが。


「これじゃあ、弱いものいじめだな。やる気がそがれるぜ」


 勇者は、鞘に剣を収め、深いため息をつく。


 なめられている。


 我は、勇者と距離をとった。


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