第40話 ドラゴン
「倒すって、ドラゴンを? 本気?」
「ああ、本気だ」
「魔法剣を使ってみたいだけでしょ?」
「まあ、それもある」
やっぱり。
さすが、中二病びのだ。
「時間がかかるよ。3×3で、9体もいるんだよ?」
「1体10秒だ」
10秒って、無理あるでしょ……
最強種だよ?
いや、もし、1体10秒でいいなら、全部倒すのに1分30秒でこと足りるけど。
「ドラゴンを倒していることに増強に気付かれて、仲間を呼ばれたら、厄介極まりなくなるよ?」
勇者パーティー(2人)vsモンスター軍団の構図が成り立ってしまう。
どう考えても不利だ。
「ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ」
「ばれなきゃって、最強種だよ?」
ばれなきゃ……って、それ、悪いことする人の常とう句だからね?
小説とかだとばれるフラグだからね?
びのは分かっているのかな……心配。
「心配すんなって、な?」
あ、この目は、本気だ。
本気で1体10秒で倒すつもりだ。
俺TUEEEEE――して、ストレスを発散するつもりだ。
「もう、どうなっても知らないからね?」
「おいおい、ピンチの時は助けに来てくれるんじゃないのかよ?」
「自分からピンチの場面を作る人の手助けはしません」
私はあっかんべーをした。
「分かったよ。じゃあ、念のため、いつでも戻ってこれるようにここの座標を入力しておいてくれ。もしこの場所が危険地帯になったら、一旦、リネマの城に戻ればいいだろうからな」
「了解」
私はコンパクトを取り出した。
「オレは馬がどこかにいかないように手綱にロープを括り付け、木に縛り付けておく」
びのは馬をひいて手綱を木へとくくりつける。
私はここの座標をチェックし、淀みなくこの場所を登録した。
「よし、入力完了っ!」
「こっちも縛り付けたぜ」
「「それじゃあ、行きますか」」
2人で声を合わせた。
「まずは、オレがドラゴンを倒す」
「了解」
びのはさっと身を翻し、すーと息を吸い込むやいなや、
「ドラゴン、かかってこいやー」
びのは全てのドラゴンに聞こえるくらい大きな声をだした。
あまりに大きな声だったので、ドラゴンたちは少しだけたじろいだが、すぐに、びののほうへと視線を向け、びの目掛けて集まりだす。
……って、バレないように倒すんじゃなかったの、びの?
9体のドラゴン、全てがびのに向かってきてるけど……
これじゃあ、増強にもバレちゃうよ?
まったく、仕方ないなー、びのは……
私は後衛でいつでもびのの補助ができるように、魔導書を構えた。
「よっしゃー、魔法剣の威力、見せてやるぜー」
びのは魔法剣に周りにある魔素とMPを流し込んだ。
あー、もう、周りにある魔素を全て魔法剣に注ぎ込んだら、魔素同士が打ち消しあって、たいした威力にならないよ……
火の魔素と水の魔素を同時に同じところに集めれば、魔素同士が打ち消しあって、まったく集めていないことと同じになるの知らないのか……
「ちょっと、びの……」
びのに教えようと呼びかけようとした瞬間、私は目を疑った。
ちょっと、待って。
何で、魔素同士が打ち消しあわずに、すべての属性の魔素が魔法剣に集まっているの?
打ち消しあうどころか、むしろ、強くなっている……
金の魔素が土の魔素を生み、土の魔素が水の魔素を蓄え、水の魔素が木の魔素を育み、木の魔素が火の魔素を育て火の魔素が金の魔素を作り、金の魔素が土の魔素を……と言う風にそれぞれの魔素がそれぞれの魔素を成長させている。
無の魔素はそのサイクルのエネルギーとして使うなんて……
こんな魔法見たことないし、私にはできない。
この魔法は属性としては、金でもあり、土でもあり、水でもあり、木でもあり、火でもある。
さすが、全値全能のびのとしか言いようがない。
「ドラゴン斬り」
襲い掛かるドラゴンに斬りかかる。
スパッ。
一太刀当たると、ドラゴンは虚空へと消えていった。
「おいおい、何となく倒せる気がしたが、まさかの一撃かよ」
びの自身、 ここまで簡単に倒せるとは思っていなかったらしく、自分の威力に驚いている。
びのはそのまま、ほかのドラゴンに斬りかかる。
スパッ
スパッ
スパッ
スパッ
スパッ
スパッ
スパッ
スパッ
カシャッという音と共に、びのは魔法剣を鞘におさめた。
さっきまで居た大型のドラゴンが全て虚空へと消えていく。
「うわっ、本当にあっという間に倒しちゃった」
「ほら、90秒もかかってないだろ?」
「すごい」
まじチート。
チートはずるいって意味だけど、本当にずるい。
これぞ、オレTUEEEEE――の真骨頂だ。
これがラノベなら、一気に読み手もいなくなるレベルだろう。
私の出番なかったし。
「ま、この魔法剣のおかげだな。感謝するなら、キデギスにしろよ」
「わー、ありがとう」
私は感情と抑揚をつけずに、棒読みで言った。
なんで、私がキデギスに感謝しなければならないんだ。
「それにしても、びのはすごいね」
「ドラゴンスレイヤーと呼んでくれ」
びのはサムズアップした。
「中二病スレイヤーさん!!」
私は温かい目で、心を込めてびのの二つ名をつけた。
「おいおい、それだと、オレが中二病を倒す奴みたいじゃないか……」
「違うよ。中二病のドラゴンスレイヤー……略して中二病スレイヤーだよ」
「そっかー、そういう意味かー……って、結局、中二病を倒すやつみたいになってるじゃないか」
「まあ、それでもいいんじゃない? きっと、中二病患者にびの姿を見せつけたら、一気に中二病から我に返るよ」
「あれ? もしかして、オレ、中二病の特効薬になってる?」
「きっとノーベル賞をもらえるよ」
「そっか……ノーベル賞貰えちゃうか……って、誤魔化されないからな、覧」
「もしかして、適当なこと並べているってばれた?」
「もしかしなくても、最初からお見通しだ」
びのは言いながら私の髪の毛をくしゃくしゃとさせた。
むー、せっかくヘアまとめたのに、台無しだ……
びのだから許すけど。
「それにしても、最強種なのに、何もドロップしていかなかったね。ケチだ」
ゴブリンでも棍棒を落としていったのに……
「アイテムをドロップさせるには、モンスターを倒す前に本体であるコアと切り離さないといけないらしいんだけど、今回は時間との勝負だったからな」
なるほど、ドロップアイテムを狙わずに、直接コアを狙ったってことか……
「それより覧、念のため索敵魔法を頼む。もしかしたら、ドラゴン以外にもモンスターがいるかもしれない」
「了解」
そうだ、その通りだ。
私たちは目に見える敵を倒しただけだった。
油断禁物なのに、びのの強さに圧倒されて、失念していた。
私は目を瞑り、索敵魔法をかける。
「大丈夫、何もいないみたい」
「とりあえず一安心だな」
「とりあえずね」
「さすがの増強も、こんなにドラゴンがいるのに、2人だけで砦を攻略するなんて思わなかったんじゃないかな?」
「2人? 何言ってるの、びの?……実質、びのが1人で倒したじゃない……」
私はただ、ことの成り行きを見守っていただけだ。
「いやいや、覧の補助があるから、安心して倒せたんだぜ? 一人じゃ完全に無理だった。だから、二人で間違いないだろ?」
「そうだよね。私がびのを見守っていた功績って大きいよね……って、そんなわけあるか」
私がツッコミを入れても、しんとする業火の砦の門前。
本当に全部のドラゴンを倒したんだね……
大型ドラゴンが9匹もいれば、兵隊10000人規模でも、攻略は難しいはずなのに……
人類対ドラゴンの総力戦と言っても過言ではない戦争になるはず。
一体、何人の血が流れるか分かったもんじゃないレベルだ。
それをたった1人でやり遂げるなんて、なんてチート能力。
びの、おそるべし……
「よし、このまま砦に押し入ろうぜ」
「了解」
私とびのは、砦の門のところまで小走りをした。
何かトラップがあるかもしれないと思ったが、特に何もなさそうだ。
ドラゴンに警備を任せていたのだから、トラップなど仕掛ける必要がなかったのかもしれない。
「中はどうなってる?」
「ちょっと待って」
私は砦の中に入る前に魔力を強くして、砦の中を捜索する。
しんと静まりかえっているな。
「とりあえず、2階まで調べてみたら、2階に中型のドラゴンが1体だけいるね。1階は何もいないと思う。3階はまだ調べてないけど、2階のドラゴンを倒したら3階まで探ってみるよ」
索敵魔法を3階まで範囲を広げようかと思ったが、この砦は広い上にごちゃごちゃとたくさんの物資が所々にあるので、精神的にきついからな。
「近況のような能力が無効になりそうなものはありそうか?」
「そういった能力もなさそうだね」
うん。霧のような感覚はないし、建物の構造もよくわかるし。
「そうか、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「それよりどうする? 暗くなってきたから、火をともす?」
砦内に人がいないためか、火がともっておらず、中は真っ暗だ。
「そうだな。いつでも消せるようにしといてくれ」
「了解」
私はそれほど大きくない火の玉を作った。
「よし、行こう」
…………
……
警戒を怠らずにドラゴンのいる部屋の前までたどり着いた。
「びの、お願い」
「任せろ」
部屋の中にいたのは、中型のゴールデンドラゴンだった。
「ドラゴン斬り」
ズバッ。
びのは外のドラゴンと同じように、一太刀。
よし、決まった……と思ったのも束の間だった。
平然としているゴールデンドラゴン。
「こいつ、オレの集めた魔素を食ってやがる……」
そうだよねー。
中には強いモンスターを置くよねー。
『大きさ』=『強さ』なんて方程式成り立つわけないよねー。
実際、びのだって、小さいのに強いわけだしねー。
「どうする? びの?」
「魔素を付与させないで斬りかかるとか?」
「それだと攻撃力が出ないから、時間かかりそうだけど?」
「なあ、覧、攻撃力が出ない分、はやく動いたら、どうなるんだろうな?」
「え? そりゃあ、威力がでるよね?」
時速10キロで攻撃するのと、時速60キロで攻撃するのでは、威力が異なる。
「だよな。もし、オレが光速に近い速さで動いたら、攻撃力が低かったとしても問題ないよな?」
「それはそうだけど……って、まさか、極限までスピードをあげようって言うの?」
「その通りだ、覧」
「ちょっ、そんなことしたら体に負担が半端ないはず――」
私がびのを止めようとすると、
ずしゃ。
……という音と共に、ドラゴンが倒れていた。
「――だから、やめようね」
まったくもう、私の忠告を無視するんだから、びのは……
「今のところ問題ないぞ。あ、あと、この技を稲妻斬りと名付けよう」
私はため息を一つついて、辺りに魔物がいないかどうかをすぐさま確認する。
うん、どこにもいなさそう。
あとは、3階に居る魔王・増強のみだ。
「本当に体は大丈夫なの? 次はおそらく魔王戦なんだよ」
「ああ、問題ない。なんなら、さっきの稲妻斬りで、増強も一発KOかもな」
そんな簡単に倒せるわけないじゃない……と心に思いながら私たちは3階へと向かった。