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第34話 デスゲーム

 ん?


 誰かが城に入ってくる気配がした。


 思い違いか?


 いや、間違いない。


 わっちの霧に触れた生き物がいる。


 わっちは感覚を研ぎ澄ました。


 これは……人間だ。


 他の魔王の誰かかとも思ったが、そうじゃない。


 この感じは間違いなく人間だ。


 この感じはおそらく勇者だ。


 これだけ離れていてもステータスが高いと分かる。


 そんじょそこらにいる野盗とは比べ物にならないくらいに強い。


 これが、きっと勇者に違いない。


 勇者がわっちの挑戦状を受け取り、暗号を解いて、ここまでやって来たということだろう。


 さすが勇者だ。


 さて、どんな顔をしているのか拝見させてもらおうか……



 わっちは霧に紛れ、人の気配がする方へと漂った。


「それじゃあ、どうして、こんなにも生き物の気配がしないんだ?」


「あえてじゃないかな?」


「あえてって……まさか、オレ達を焦らせて、精神的にダメージを負わせようとしてるってことか?」



 わっちの話をしている。


 間違いない。あの二人が勇者のようだ。


 よかった。


 マヌケそうな王子と呼ばれている人間に挑戦状を渡したので、勇者に届くか不安だったが、きちんと届いたみたいだな。


 仮に勇者に挑戦状が届いたとしても、わっちの暗号が難しすぎて時間内にこの城までたどり着けないんじゃないかとも思っていたが、そんなマヌケな勇者ではないようだ。


 もしも勇者がマヌケだったなら、王子とかいう人間を見せしめで殺さなければならなかったしな。


 頭のキレる勇者ならわっちも戦いがいがあるというもの。


 本当に良かった。


「可能性としては考えられるよ。近況って、相手と同じになれる能力だったよね? もし本当に近況が挑戦状を出したのであれば、精神的に疲弊させて、油断した瞬間に本物と入れ替わる作戦かもしれない……」


「それにしては静かすぎる。こんなんじゃ、暗闇の中で入れかわろうにも、すぐにきづいちまうぞ」


 ふふふ、さすがにわっちがどうして他のモンスターを配置しなかったかについてはわかるはずがないか……


「それじゃあ、魔王自らの手で私たちを倒したい……とか?」


 女が呟いた。


 お、正解を導き出すとはやるな……


 褒美としてそろそろ正体を見せてやろう。


 ――その通り――


 わっちは勇者たちを驚かすつもりで、音を震わせた。


「近況だな?」


 ――その通りだ――


 驚くどころか眉一つ動かさないとは、優秀な勇者じゃないか。


 だがしかし、剣を構えたところをみると、わっちに武器も魔法も通じないのは知らないらしいな。


 まあ、いい。


 追々と分かっていくだろう。


 ――あの暗号を解いて、ここまで来たんだ。やるね――




「姿を現せ、近況!! 覧、索敵魔法だ!!」


 男の方が叫んだ。


 強い。この男が勇者で間違いないだろう。


 もう霧に紛れて、姿を現わしているんだけどね。


「索敵魔法……って、ダメ。無効化されてるみたい」


 ははははは、その通り。


 お前らの魔法はすべてわっちの能力で無効化しているのさ。


「魔王のくせに怖気づいたのか? 姿を現せ」


 姿を現せって言うけど、目の前にいるんだけどね。


 わっち自身も霧に紛れているから、お前らが認知できないだけだろ。


 まあ、いい。


 何も言わなければ、こちらが優位に立てる。


 魔界では身体がないだけで『お前には、体もなければ、脳もない』……と毎日毎日さんざんけなされ、悔しい思いをしたこの体が役に立つ日がついに来たのだ。


「びの、落ち着いて、近況の本体は霧なんだよ?」


 驚いた。


 女はどうやら、わっちの本体まで知っているようだ。



「ああ、分かってる……仕方ない、覧、辺りを照らしてくれ。正体を見極めるぞ」


「了解。ファイヤーボルト」


 女は魔導書を媒体に炎であたりを照らす。


 その小さな炎で、わっちの正体を炙りだすつもりのようだ。


 しかし、霧のわっちには意味のないことなのだが、この勇者は何を仕掛けてくるか分からない。

 戦闘においては、自分のペースに相手を巻き込むことが肝要である。


 まずは魔法を禁止させて、こちらのペースをつかもう。


 ――無駄だよ。【濃霧(のうむ)】はすべての魔法を無力化するんだ。なんなら、この城の魔素も全てなくしてあげよう――


 魔界で毎日毎日さげすまれ続けたわっちが身に付けた能力、『濃霧』を見せてあげよう!!


 わっちは城中の霧を強め、魔素を全て吸収した。



「びの、どうしよう? 本当に空気中のすべての魔素がなくなってる……」


 ふふふ、困れ、困れ。


 すでにわっちの体には大量の魔素をためている。


 魔素がなくて困るのは勇者たちだけだ。



「落ち着くんだ覧。コンパクトを用意するんだ」


 コンパクト? なんのことだ?


「そっか分かった」


 覧と呼ばれた女は、鏡を取り出す。


「……びの、ダメ。このコンパクトも動かない」


 ふははは……何か道具を使おうとしたみたいだが、無駄だ。


 この霧の中では、全ての効果が無効になるのだから。


『【濃霧】』の名前の通り、能力までも無効になる。


「ここは相手の出方をうかがおう」


 なるほど。


 女のほうは少しだけ可愛く狼狽えたけど、男のほうは眉一つ動かさないか……


 魔界では周りの魔素をなくなっただけで、魔法が使えないとパニックを起こすモンスターが多かったが、こちらの勇者たちはなかなか肝が据わっている。


 倒しがいがありそうだ。


 ――さて、ようこそ、勇者御一行――


 ――わっちの名前は魔王・近況――


 ――わっちは普段、霧状の姿をしていて、物理攻撃も魔法攻撃も一切効かない――


 ――このまま、お前たち勇者と戦っても、決着はつかないだろう――


 ――そこで提案……というより、頭脳戦を始める――


 ――お前たち勇者に拒否権はない――


 強制参加だ。


 ――ルールは簡単――


 ――お前たち勇者は、霧が晴れるまでにわっちが化けた偽物を倒せばいい――


 ――この霧が晴れるのは、1時間後――


 ――1時間以内に、偽物を倒せば、わっちの負け――


 ――でも、もし、偽物を倒せなかったら、君たちの負け――


 ――負けたほうには死が待っている――


 ――ルールは以上――


 ――さー、始めようか。命をかけたデスゲームを――


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