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第33話 静寂

 門のところまで来たのはいいものの、モンスターどころか生物がいないのが気になる。


「覧、静かすぎないか? 城の付近は魔物だらけかと思ったんだが」


 びのも同じことを思っているようだ。


「ほら、強い獣が近くにいると、弱い獣は逃げるって言うよね。それと同じことが起こってるんじゃない?」


 近況がここを根城にているなら、周辺の魔物が居なくなってもおかしいことではない。


 1つの仮説で、根拠はどこにもないけど。


「でも、普通は逆だろ? ほら、RPGとかだと、強いモンスターは弱いモンスターを従えて警備させるじゃないか」


 確かにそうだ。


 普通、ダンジョンの周りは敵だらけのはずだ。


「RPGとジオフの世界は世界観が異なる……としか言いようがない」


 今確実にわかっていることは、この城には全く生き物の気配がしないということだけだ。


 もちろん、それも魔王・近況の罠かもしれないが……


「情報も碌にないのに、推論してもしかたない。とりあえず、遅めの昼ごはんでも食べるか」


「そうだね」


 私は同意し、敵の本拠地の前で、お弁当箱を取り出した。


「……って、びの、こんな敵の本拠地で暢気にお弁当なんか食べてていいの?」


 いつ襲われてもおかしくないんだよ?


「いや、だって、モンスターもいないみたいだし? 腹ごしらえは必要だし?」


「いや、それはそうなんだけどさ……」


「オレも索敵魔法するから、ここでご飯食べちゃおう」


「それもそうか……じゃあ、油断はしないでよね」


「よし、それじゃあ、お弁当をいただこう。今日のメニューは何かな?」


 言いながら、お弁当を開けるびの。


 中にはツナとマヨの冷製スパゲッティが入っていた。


「うまいぞ、覧」


 びのは、数十秒で一気に口にかきこみ、もぐもぐと食べると、感想をいう。


「よかったね」


 ご飯を食べながらも、びのと交代で目を瞑って索敵魔法を唱え、周囲を警戒する。


 モンスターはおろか、ネズミ一匹さえいない。


 本当に嵐の前の静けさじゃなきゃいいけど。


「それにしても、この城、新しすぎないか? 廃城だったんだろ? まさか、魔王が自分からDIYしたとか?」


 魔王がこの世界に現れてから1週間ほどだ。


 1週間で城を立て直したということは考えにくい。


「もしかしたら、近況の魔法かもしれないね」


「魔法か……そんな魔法があるのか?」


「うん、幻想魔法。きっと城の中で誰かがその魔法を使っているんだよ」


 うまく魔素を感知できないため確実なことは言えないが、おそらくそうだろう。


「なるほど、あり得るかもな。」


 それなら、新しすぎる城もうなずける。


「さてと、腹ごなしもすんだところで、ダンジョン攻略と行きますか」


 びのは言いながら、弁当箱をしまう。


「MPの回復は大丈夫か?」


「うん、食後にMPポーション飲んだから大丈夫」


 MPは全回復しているから問題ない。


 立ち上がり、城へと数歩進んだところで、視界が少しだけ悪くなった。


 ん? 視界がなんで悪くなるんだ?


「かんかん照りの真昼間に、靄?」


「覧、ちょっと待て。近況の正体は霧だったよな? もしかして、この靄が本体なんじゃないか?」


 私は咄嗟に魔導書を開き、びのも剣を身構えた。


 物理的に考えて、こんなカンカン照りの状況で霧がでるなんて考えられない。


 もちろん、元の地球の物理がこの世界にも通用するなら……だが。


 …………


 何も起きそうにない。


「どうやら、この霧が本体ではなさそうだね」


「そうだな。でも、油断はできない」


 びのの言う通り油断はできない。


 もうすでにここは敵地なのだ。


 何が出てもおかしくはない。


「おい、目を凝らしてよく見ろよ、覧」


「どうしたの、びの?」


「濃い霧のところ、魔素を吸収してないか?」


 私は目に意識を集中して魔素を見る。


 宙に漂っている薄い霧が周囲の魔素を集め、濃い霧に触れた瞬間、魔素が消失した。


「本当だ。濃い霧が魔素を吸収している……霧はほぼ間違いなく近況の仕業だろうね」

 近況は霧状なのだ。


「私たちが触れても大丈夫なのかな?」


「それは。やってみればわかるだろ?」


「え? びの? ちょっと?」


 びのは右手に魔素を集めると、濃い霧のところへ手を入れた。


 右手に集まっていた魔素は、濃い霧に飲まれて、消えてなくなる。


「どうやら、集めた魔素を吸収するようだな」


「もう、そんな危険なこと、なんでするの? 何が起こるか分からないのに……」


「何が起こるか分からないから、先に実験したんじゃないか」


「そういうことするなら先に言ってよ」


 何が起きてもいいように構えてはいたけど、回復魔法を使うかもしれないなんて思ってもいなかった。


 魔素と一緒にびのの右手まで持っていかれたら、回復魔法を唱える前にショックで何もできなくなったかもしれないじゃないか……


「すまん、すまん。でも、何もなかったからいいじゃないか」


「それはそうかもしんないけど……」


「もしかしたら、今にでもオレの腕が吹っ飛ぶこともあるかもしれないんだぜ? その時は対処頼むぞ、覧」


 確かにそうなのだ。


 ここは戦場で、今この場に立っているということは、そういうことなのだ。


 覚悟が足りなかったと反省し、もう一度緊張感をもって身構える。


「中の様子はどうなっている?」


「索敵魔法……」


 私は目を閉じるが、何も映像が浮かんでこない。


 何もないのか?


 いや、城の中に何もないわけがない。


 城の中が、体育館のような何もないだだっ拾いだけの空間のはずがないのだ。


 最低限、壁があるはずだ。


 それなのに私の脳の中には何も映像がでてこない。


 普通に目を瞑っただけで、真っ暗闇だ。


 本当に何も見えない。


 中に光を全て飲み込むブラックホールでもあるのだろうか?


「私の索敵魔法に何も引っかからない……というより、私の魔法が無効化されているのかもしれない。ごめん、びの」


 真っ暗闇で怖くなってしまったが、できる限り平常心を保ちながらびのに伝えた。


「この霧のせいなのか、はたまた魔王の別の能力なのか……少なくとも覧のせいじゃないさ。ありがとうな、覧」


 びのは私を気遣って優しい言葉をかけてくれた。


 びのは城の中を覗き込む。


「薄暗いな」


 外はカンカン照りに晴れているのとは対照に、中は暗く、霧が漂っていた。


「火属性の魔法を唱えようか?」


 そうすれば少しは明るくなるはずだ。


「それだと、魔王にオレたちの居場所を教えることになりかねない。そのまま入ろう。ただ、何があるかわからない。いつでもつけられるようにはしておいてくれ」


「了解……でも、霧があるみたいだよ……」


「確かにな……壁際に行くほど、濃い霧に覆われているようだから、なるべく真ん中を通って、魔素を取られないようにしながら進もう」


「うん、わかった」


 びのは開けっ放しの扉から数歩踏み入れたので、私もそれに続いた。


 中はひんやりとしていて、真っ暗い上に、しんと静まり返っている。


 真昼間なのにお化けでもでてきそうな雰囲気だ。


 いや、お化けなんて非科学的なもの、信じてないけど……


 ……って、私、誰に言い訳してるんだろう……


「覧、いるか?」


「うん、いるよ」


 びのとほんの少し離れただけなのに、今にも見失いそうだ。


 はあ、こんな時、自分がもっと素直だったらな……と本気で思う。


 もし素直だったら、『びの、手を繋いで』と一言伝えることができるのに……


 今の私にはその勇気すらない。


 びのも私の女心を察して、そっと手を握ってくれてもよさそうなものだが、どうしたものか、そういうところは鈍いんだよなー。


 もっと女心を理解してくれれば、絶対にモテるのに、そういうところが残念なんだよな、びのは。


 まあ、そういう女心が分かっていないところがまた可愛いんだけれどね……


 あーあ、何かの拍子で手、繋げないかなー。


『こんなに暗いと危ないぜ、手をつないでやるよ』的な展開。


「覧?」


「はひぃ!」


「どうしたんだ? そんなに驚いて?」


「なんでもないよ。それより、どうしたの、びの?」


 手を繋ぐことを考えていた時に、びのが私の名前呼ぶからだよ!!


「いや、こんなにも歩いているのに、モンスターが1匹も出ないところをみると、もしかして、オレ達の推理が外れていて、この大樹の城には誰もいないのかもな」


 びのは周りを警戒しながらも、躓かないようにゆっくりと奥へと進む。


「それはないよ。もしそうだとしたなら、暗号の答えが意味をもつはずがないもん」


 実は他の暗号の解読の仕方があるにも関わらず、たまたまモールス符号でも解ける暗号なんて、天文学的数字の確率になってしまうだろう。


「それじゃあ、どうして、こんなにも生き物の気配がしないんだ? 罠か?」


「あえてじゃないかな?」


「あえてって……まさか、オレ達を焦らせて、精神的にダメージを負わせようとしてるってことか?」


「可能性としては考えられるよ。近況って、相手と同じになれる能力だったよね? もし本当に近況が挑戦状を出したのであれば、精神的に疲弊させて、油断した瞬間に本物と入れ替わる作戦かもしれない……」


「それにしては静かすぎる。こんなんじゃ、暗闇の中で入れかわろうにも、すぐにきづいちまうぞ」


 確かに、びのが言うことも一理ある。


「それじゃあ、魔王自らの手で私たちを倒したい……とか?」


 いや、そんなことあり得ないか……


 ――その通り――


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